493話「地区予選 決勝戦⑤ 副将アルゼの剣舞」
敗れたリョーコが通常空間へ戻ってきて「ごめ。負けちゃったー」と苦笑いしてくる。
「おつかれ。次オレだな」
「がんばれー」
オレが立ち上がると、リョーコに肩をポンと叩かれる。
簡素なやりとりではあるが付き合いの長い友としては十分だった。
本当はリョーコだって悔しい。その仇を討って欲しいのもあったが、純粋な試合としてナッセ自身がベストを尽くすように頑張って欲しいとも……。
だからこそオレは真摯に試合へ望む気概だ。
《アニマンガー学院の副将『城路ナッセ』選手、前へ!》
ザッと威風堂々と胸を張って転送されていった。
「「「うおわああああああああああああああああああああああっっ!!!」」」
ついに英雄ナッセが初めて戦うと、観客は大音響で沸いた。
今大会でナッセは一度も戦っていなかったのだ。その前に来てた人も直に見られなくてガックリきた人もいるのだろう。
ようやく出番が来て期待を膨らましての歓声なのだろうか。
「フン……」
腕を組んでいるマイシは、ナッセが無様な戦いをしない事だけは分かっている。
もしそのまま大将まで勝ってしまっても構わないつもりだ。
今更、兄だった人となにか積もる話があるとは言えない。むしろ嫌われこそすれ、友好的だった事はないだろう。
なにか私怨があって、この大会で晴らす機会を向こうが思ってるかもしれない。
そのまま決勝戦が終わって、特に関わる事なく別れても仕方ない。
吹雪が吹き荒ぶ仮想空間で、辛そうに息を切らすサツキを前に、オレは悠然と向かい合っていた。
凍てつく吹雪によって肌がピリピリ冷えていくのが分かる。霜が覆ってきている。
長期戦になればなるほど不利になるのは間違いない。
「……だから雪女には変身したくなかったんだな」
「そ、そうさ……。こ……こうしているだけで……相手は冷えていって不利に……なるからね……。卑怯者と言われるのも……一度や二度ではない……」
「おおおおおッ!!!」
オレは気合いを入れてボウッとフォースが溢れるように噴き上げた。
舞い上がる銀髪がロングに伸び、背中から四枚の羽根が浮く。虹彩に輝く星のマークが浮かぶ。
足元の花畑がポコポコ咲き乱れ、花吹雪が舞う。
「へ……へへ……! か、カレン先輩を倒した……ナッセ! 相手にとって……不足はないさ!!」
気力を振り絞り、サツキは巨大なハンマーを振り上げて駆け出す。その周囲の氷塊も拡大化していく。
正真正銘、最後の力なのだろうか。
死力を尽くすべき「なんのおおおおおおおおッ!!!」と吠えながら振り下ろしてくる。
オレは仁王立ちしたまま睨み据えるばかり。
「アイスシューティングスタァァ────ッ!!」
「流星進撃……!」
オレはスッと太陽の剣で正眼に構え、カッと戦意漲る眼光を煌めかした。
「八連星ッ!!!!」
弾けるように八本の剣筋が煌き、それは巨大なハンマーと氷塊をことごとく砕いてサツキ本人を強烈に穿った。
一切の手抜きなしの十八番技。それはサツキを沈めるには十分。
「……がッ!」
氷片が爆ぜて、血飛沫が舞いながら、ゆっくりと仰向けに倒れていくサツキ。
オレはスッと太陽の剣を下ろし仁王立ち。
しばししてドンッと棺桶化の爆破が広がった。
《副将『城路ナッセ』選手の勝ち!!》
「「「わああああああああああああああああああああああああっっ!!!」」」
これだ! これが本物のナッセの実力!! まさに最強の力を持つ英雄!
誰もが興奮して歓声を上げて大音響した。
《レキセーンモサ学院の副将『城門アルゼ』選手、前へ!》
黒髪の青年でイケメン。慎ましい雰囲気がする。
申し訳なさで俯いたサツキとアルゼは言葉を交わさず、すれ違う。
胸中にそれぞれどう思っているのか分からないが同じメンバーとして、何らかの思いが交錯したのかもしれない。
大将であるガンイも腕を組んだまま慰める事も叱責する事もしない。
アルゼは鋭い目つきで転送されていった。
オレは人間形態で対峙……。
「初めまして。城路さん」
「お互い、いい試合をしよう」
「……少し話をいいですか?」
「なんだぞ?」
オレは眉をはねる。アルゼは何か言いたげだった。
「お互い勝っても負けても恨みっこなし……ですが、こちらの大将とそちらの大将を引き合わせたい」
「……どっちか勝ったら降参するのか?」
「無理強いはしませんが……ガンイさんは不器用な方なのです。もしこの機を逃したら妹のマイシとは二度と会う事はないかもしれません」
オレは息を呑む。
なんかこう「実は大将を有利にさせる為に、わざと降参しろ! でもこっちはそのまま行くけどね!」と騙し討ちする作戦かなと思ってたんだ。
でもガンイはマイシに対してなにか思うところがあって、それを汲み取りたいとアルゼは考えたのだろうか。
「分かった。勝ったら降参する。マイシは納得しないかもしれねぇけどな」
「ありがとうございます」
アルゼは丁重に頭を下げてきた。
ブッキーを取り出すと、それを長い刀身に伸ばす。……日本刀か。
剣舞をするかのように軽やかにヒュンヒュン振り回しながら踊り舞う。
「ご披露させていただきます。家系代々伝わる“鶴舞天真流”を!」
ゆらりと両腕が翼のように広げられ、ピタリと片足で立つ構え。
体が柔らかそうな雰囲気が窺えるぞ。
そしてこちらを静かに見据える視線は、まるで無駄なものを削ぎ落とした意志を感じる。
「こちらも我流ながら受けて立つぞ」
「では……、行くぞッ!!!」
弾けるように吠えたアルゼは流れるように踊り舞いながら間合いを詰めてくる。
しなやかな弧を描く軌跡を、オレは飛び上がってかわす。そしてアルゼの頭上へ逆に剣を振るう。
すぐさまアルゼはぐるりと軌跡を螺旋に描きながら上昇して、こちらの一撃を刀で受け止めた。
ガッッ!!!
その衝突で大気が爆ぜてタイルが剥がれ、余波が吹き荒れていった。
「おおおおおおおッ!!!」
「ふうううううッ!!!」
猛るオレとしなやかな息吹、ともに得物を幾重に振るっていく。
美しく踊り舞う軌跡と、鋭く走る軌跡がせめぎ合うように衝突し合った。
ガガッガガガガガッガガガッガガガッガガガガガガッガガガガガッ!!!!
互い隙を見せぬ激しい剣戟で幾重も衝突を繰り返し、両者が一進一退していく。
冷静に剣筋を見極めて打ち込み、かわし、捌く。
アルゼという男は長らく研鑽を続けてきた一流の剣技を振るってくる。
まだ、他にこんな猛者がいるなんてな……。
「おおおッ!!!」
「ふうッ!!」
ガッッ!!!
オレの振り下ろす剣と横薙ぎしてくるアルゼの刀が交差!!
互いビリビリと衝撃が全身を貫いていった。衝撃波が爆ぜて、オレもアルゼも跳ねて後ろへ着地。
ザッと踏ん張った足が止まる。
互いに視線を合わせたまま、足元を煙幕が流れていく…………。
「準備運動はこれくらいですかね」
「ああ。そのようだな」
「さて、と……そろそろ変身して構いませんよ。妖精王にね」
「いいのか?」
「ボクもしますから!」
アルゼは笑みを浮かべていく。
オレも笑みながら「なら……遠慮なく」と述べ、キッと目つきを険しくした。
「おおおおおおおッ!!!」
全身からフォースを噴き上げて、周囲に嵐がグワッと吹き荒れた。
足元からポコポコと沸騰するように花畑が咲き乱れ続け、オレの銀髪がロングに伸びて舞い上がっていく。
背中から四枚の羽根が浮く。
「これが妖精王だ!」
「素晴らしいです。では……こちらも! ふうッ!!!」
アルゼの全身からもフォースが噴いて、周囲にドグワッと嵐が吹き荒れた。
黄金と赤に輝く両翼が背中から生えてきた。黄金と赤混じりの逆立つ髪。一瞬仮面みたいな鳥頭になったがシュッと人面に戻った。足が鳥のそれになっていた。
一目見て神々しくて人外だと分かる。
「霊鳥王……別名ガルーダとも言います。鳥頭はダサいので顔はこのままがいい。キモがられてはイヤですので」
「そ……そうか」
オレは素っ頓狂になった。




