473話「ナッセとヤマミの平穏な日常に祝福を」
放課後になって、オレたちは帰宅の準備をしていた。
ワイワイ話している人もいれば、そのまま帰ってしまう人もいる。スミレ(男)がスッと去っていく。
やっぱブラクロかな? 割と呪縛するから穏やかじゃなさそうだ。
「明日また!」
オレはヤマミと一緒に手を振って教室を出ようとする。
エレナもリョーコも相変わらず「またねー!」と手を振り返してくれた。
コハクはスンッとした顔で「もげろ」と呟いてくるので苦笑いするしかない。
エレベーターで降りると妖精の受付嬢がペコリと頭を下げる。
他の生徒や先生にはしないから、妖精王だけ特別ってことなんだろうか……。
「ちょっとフラフラ歩いて行こうか?」
「寄るところあるの?」
「特になにも。……色々耽りたいからさ」
学院を出ると、まだ夕日にはなっていない青空が見える。
もう夏だから昼が長くなっているんだな。
商店街への交差点は人が多く歩んでいる。
オレたちはそれに紛れて、いつもの帰宅のルートではない回り道を進んでいく。
寄る時などは逸れて行く事が多いが、フラフラしたい時も敢えて遠回りで行く事もある。
「もう二年目の夏か……。早いもんだな」
「そうね。一年前は色々あったけど」
「あったな」
四首領ヤミザキとの対決まで、濃密な日々ばかりだったな。
勝ったから良かったけど負けてたら色々詰んでたな。因子しかり、大魔王しかり……。
商店街はようやく夜の顔を見せようとしている。
「そんで秋季大会。まさか優勝するとは思わなかったな」
「お父さんとの戦いがなかったら、負けてたところあったかもね」
「ずいぶんレベルアップしたからな。おかげで……」
レキセーンモサ学院やジャキガン学院は本当に強敵ぞろいだった。
この世にはまだまだ強い奴がごまんといる。
オレたちみたいに急激に成長したのではなく、前々から経験を積んで強くなっていった人が多そうだった。
ジャキガン学院は徹底とした修行があるから、レベルアップしやすいってのもある。
「でも四首領はレベルが違ったな……」
「インドの英雄ダウートね。優勝候補の人たちが総力をかけても全滅してたもの」
「今思い出しても震えるぞ」
「ふふ」
カッカせず落ち着いて機を窺っていたから、今がある。
とはいえ、もう一度戦うのは勘弁だなぁ。まだ勝てねぇ。やるんなら六年後かな?
「地底とか火星とかはともかく、四万年前に遡って歴史改変とか誰に話しても信じられないような事ばっかだしな」
「私との思い出でいいでしょ。共に歩んできた記憶は何よりの宝物」
「そうだな」
ヤマミとしてはオレとの思い出が一番であり、かけがえのない宝物。
これまでも、そしてこれからも一緒だし。
「……夏が過ぎて秋が来て冬が来たら、卒業か。近くなってるな」
「うん。卒業したら異世界だね」
「ああ」
リョーコたちとは名残惜しいけど、異世界へ行くってのは前々からの夢。
そこにヤマミが加わって共通の夢となった。
「夏季大会……。学院限定クラシック大会。これから『仮想対戦・甲子園』が始まるんだっけ?」
「ええ。一年目は二年生だけでやってたから、知らなかったけど」
「つか最初はそういう発想なかっただけぞ」メタァ!
どっちみち人造人間大侵攻や世界大戦とかあったから余裕はないだろうな。
「メンバー選定の為のバトルがなかったな。去年の秋季大会前にやってたやつ」
「今回は一年生も含めてだからね。メンバー選定やったら二年生だけに固まるでしょ」
「そりゃそうか……」
とりあえず夏季大会は一年生と二年生混合で取り組むらしいな。
広い公園に出た。
周りを土手のようなモノで囲んだ広いグランドで、側にプール施設がある。
土手のような起伏のある部分は草原と木々があり、散歩しやすいように道が整備されている。
「普段通らないルートだしなぁ」
「うん」
公園を越えると、高速道路の高架橋が横切る交差点に出た。
それを過ぎると商店街へ入り込む。環状線の天満駅が近くにある。
マンションまで遠くない。
「スーパー入ろ」
「そうすっか」
いつもの通いのスーパーへ入ると、冷えた空気が感じられる。
まず果物と野菜が目に付く。
あれやこれや買うものをカゴに入れていって、ちょいとお菓子もチョイス。
別に同棲してるとか結婚してるとかじゃないのに、気分はそんな感じ。
「他に欲しいものある?」
「もういいかな?」
「うん」
当たり障りなく交わし、レジへカゴを載せて精算してもらっていく。
レジ袋をぶら下げてマンションまでの歩道を進んでいく。いつもの通り平穏な雰囲気で魔導車と歩行者が行き交う。
オレは当たり前になってきたヤマミとの一緒がしんみりしてくる。
結婚しても変わらないんかな?
子ども生まれたら、どんな風に生活変わるんだろうか?
それでも変わらず一緒に営みできるといいな。
「オレ、非リア充童貞だったのになぁ」
「もう昔の話ね」
ヤマミが艶かしく笑んでくる。
もう逃さないっていう目をしてる。こういう女だから好きになれたのかな?
自分を見てくれる愛しい女……。
「最初はリョーコが積極的に絡んできてドキドキさせられた事もあったっけな」
「もう昔ね。今が大事でしょ」
ぐいと腕を組んでくる。
マンションへ着くと、当たり前のようにオレの部屋へヤマミも一緒に入ってくる。
隅っこでアレクシが刺さっているロックマンが転がっていた。起きないなぁ……。
金星の一日はほぼ一年だから、ブキ族の昼夜は極端な生活になってる。
時計を見れば六時を指していて、窓の空はやや橙に染まってきている。
やはり夏は昼が長い。
「晩飯は何にする?」
「どれでもいいよ、と言いたいところだけど頼ってたら悪いからカレーで」
「うん」
コロッケと溶き卵を入れたカレーにオレたちは「いただきます」と合掌。
ウチ特製のカレーで二人だけのものなのだ。
ヤマミと一緒に食べる晩飯はいつも最高にうめぇ。
「ゲームやる?」
「おー」
プレイステーションのゲームで二人プレイに熱中する。
彼女と一緒に日常を共有し、遊びに熱中していくのも人生に潤いが出ていい。
しかも学院生活真っ只中。
「あー、やられた」
「ふふ」
長くやってたせいか窓は真っ暗。カーテンを閉める。
今日は金曜日なので晩のロードショー見て、あれやこれや感想とか交わしたりする。
例の『真紅の豚』だぞ。
「惚れた女の為に赤くなる豚……」
「なんか前に見たのとは違うような気がするけど、まぁいいか」
「最後は独裁帝国軍とドンパチ……」
「いやいやいや! 確かに空賊とケンカして、ヒロインにキスされて豚の呪いが解けたまでは同じだけどさ、その後の最終決戦とかなにこれ!?」
ドドドーンパチパチパーン! ドガーン!
「帝国に勝った後ヒロインと熱愛ぐんずほぐれつ……。もう深夜まで延長入ってるからだけど、なにこれ!?」
「四時間もの長編映画だったのね」
「カットなしって謳ってたけど、マジでカットなかったらこんな長いんかよおお!?」
やっと終わってエンドロールが流れ出して、ため息をついた。
さぁ寝るか、という事でパジャマに着替えて一緒に寝る。いつもの。
なのでヤマミの部屋はいつも留守……。(おい)
晴れやかな天気で気持ちのいい朝。
いつもの二人で朝飯を済ませ、着替えて、出かける準備。
「よし、仮想対戦・甲子園へいざ!」
「うん」
マンションを後にしてヤマミと一緒に出発した。




