471話「聖愛戦争のヤマミと……??」
平穏な森林……。鳥や野生動物の鳴き声があちこち聞ける。
ひっそり佇むような小屋があった。
かつては誰かが住んでいたようだが、今では無人になっているのを何者かが住み込んでいた。
「はぁ……」
黒いフードの頭部分をめくって、ツインテールのヤマミがうっとおしそうな顔で一息をつく。
以降、彼女を双馬尾ヤマミとする。
すると褐色の長身男が腕を組みながら、木の上にフッと現れる。
「マスター……。結論は出たか?」
「一応ね」
片目を瞑って双馬尾ヤマミは見上げる。
「情報は集められたわ。ここは私たちが知る世界とは別の並行世界。理由は知らないけど天王星の『鏡面世界』によってたどり着けた」
「地球のあちこちで繋がってるやつか」
「ええ。驚くべき事に、ここにも私が存在するって話。もちろん他に同じ人物が確認された。それぞれ差異が見られるわ。信じられないでしょ?」
「そうだな。本当に驚いた」
褐色の長身男は銀髪オールバックで、目つきがナッセと似ている。
「……別々の同一人物がいるという事は、例えナッセを殺しても自分のこの状態は変わらないというワケか。前々からその可能性は気づいていたが」
「なんか言った?」
「いや」
呟いてたのを聞かれたか、と危惧はしたが……。
ともかくこちら側のナッセは死んだと聞いている。今のオレにその影響がないなら、これまで殺害を試みてきたのが無意味になるな……。
「ともかく辛気臭いところで一生を終えたくないわ」
「我慢しろ。ここは本来オレたちがいるべきところではないのだ。親も家もここのマス……ヤマミのものだ」
「あんたはいいわよね。『英雄の座』へこもれるんだし」
「思うほどいいところではないぞ」
双馬尾ヤマミの愚痴に、褐色男は表情を険しくする。
英雄の座……。
死して、神々に認められた英雄は誰かに召喚して貰う為に設けられた独自の空間。
英雄はそこにいる限り永遠の存在を約束される。
そして役目を背負って召喚されて、自らの力を振るい続けるのだ。
そこ、サーヴァ○ト設定のパクリだと思ったアナタ! いや、まったくもってその通りです! ごめんなさーい! メタァ!
「英雄になどならなければ良かった。生きてた頃の世界で生涯を全うし、神々の誘いを断れば良かった。オレは思ってるぞ……」
「初めて聞いたわね」
「言ってなかったからな。こんな状況でもなければ言わない。それにオレの本当の目的は叶えられない事を思い知らされた」
「本当の目的?」
「ああ。永遠に英雄として存在するオレに終わりをもたらしたいとな」
「……だからナッセを狙ってたわけ?」
「そうだ」
双馬尾ヤマミも、彼が隙あらばとナッセを殺そうとしてきたを見てきた。
薄々、彼が何者かは気づいてはいた。それが今になって確信しただけ。
「復讐者ナッセ……」
「不本意ながら、ここでオレの真なる名を知られるとは」
気まずそうに復讐者ナッセは項垂れた。
「『英雄の座』は奇跡Aランクの概念。神々の手によって英雄を縛り付ける事で下界の召喚者がこれを使役する事ができる。その英雄は尋常ならざる力を発揮できる不死の存在」
「それは『聖愛』を媒介にしてのみ可能となる」
「そうだ。この世に『聖愛』がある限りな……」
木の上から復讐者ナッセは降り立つ。
すると足元からシュウウウ……煙が漏れているではないか?
「ちょっ!? アンタ!?」
「む……?」
「消えないでよ!! 不安なんだし!」
「いやいや待て待て!! オレは『英雄の座』へ戻ろうとは……」
ハッとした。
自分を縛り付けている『英雄の座』が瓦解しているのを感じたのだ。
一体どう言う理由かは知らないが、もう縛られる事はない。あの世へ還る事ができるのだ。
「……この世界では『聖愛』が存在しないからか??」
「嘘!?」
「間違いない。ここの世界には存在しないのを感じる。だから……!」
実はこの世界にも『聖愛』は存在していたが、ロンドンの時計塔の連中が変に召喚して奇跡Aランク『世界樹ユグドラシール』によって存在を抹消されたのだ。
その影響が及んでいるのを、彼女らは知るよししなかった。
消滅が遅れていたのは、きっと『鏡面世界』を介して他の並行世界にある全ての『聖愛』を抹消していくタイムラグのせいか……?
腰のところまで復讐者ナッセの姿が煙に霧散していく。シュウウ……。
「ちょっとおー!? こんなところで私を置き去りにする気!?」
「いや、すまない……。こればかりはオレもどうしようもない」
「くっ!」
双馬尾ヤマミは苦い顔をする。
しかし、しばししてから綻んだような顔で復讐者ナッセを見つめる。
「マスター……?」
もはや胸まで消えかけている。
「思わぬところで永遠の存在から解き放たれて良かったわね」
「……そうだな」
英雄としての自分はもう終わる。本当の意味で逝けるのだ。
「マスター……。おまえは自由に生きていい。もう家柄も聖愛戦争も何もない。一人の女性だ」
「そうするわ」
双馬尾ヤマミは涙を流しながら、精一杯微笑む。
堅苦しい家柄で窮屈な思いしなくてもいい。聖愛戦争で殺し合いしなくてもいい。
たった一人普通の女性として、思うままに生きれる。
どうしようもなく不安で上手くやっていけるか分からない。
「おやすみなさい……」
「おやすみ」
首のところまで消えていて、復讐者ナッセは安らかな寝顔を見せながら全部煙に消えていった。
森の間から覗く青空へ煙が昇っていくように見えた。
これまで長く共にしてきた英雄も、ようやく永遠の存在を終わらせ逝けた。
双馬尾ヤマミはしばし別れの余韻に浸っていた。
「……って、空気読んで見送ったのはいいけど」
双馬尾ヤマミはもう天涯孤独の身。
これまで復讐者ナッセと暮らしてた時間が多かっただけに、寂しくてたまらんわー。
「とまぁ、自由に生きてたんだし……。ここの世界のナッセとヤマミ気になるわよね。恋仲とかじゃないよね……? ちょっと確認してみるかしら」
フードをかぶって山を降りた。
とある大阪でナッセとヤマミが並んで歩いているのを見かけ、こそこそと後をつけた。
なんかストーカーになったみたいで複雑な心境だけど、関係が気になる。
すると二人が自然にラブホへ入っていくのを見て硬直。
「はあ!!?」
目を疑った。
当たり前のように入っていったのだ。まさかエッチするつもりなんじゃないでしょーね?
ただの休憩で入っただけよね?
えっ!? あっ!? 私の喘ぎ声っ!? えええ!?
うぎゃあああああああああああああ!!! やめてぇやめてぇ!!
赤面して、頭を抱えながら錯乱する双馬尾ヤマミ。
通りすがりの人が不審に見ている。
「うそだああああああああああああっ!!!」
動転した双馬尾ヤマミは煙を上げながら走り去っていった。
たまたま通りかかっていたクロダリウスが「うが!?」と目で追いかけた。
彼女はこれからどうするのか!? ……続報を待て!




