454話「記憶喪失の青年……?」
廃れて廃村となった田舎、実はフクダリウス家族が新たに家を建てて暮らしていた。
邪険モリッカは渋々ながらも透き通った川で洗濯していた。
ジャブジャブと衣服などを鋭く磨いて汚れを落としていく。
「なんでアナログなんだ……?」
電気いらずの魔導洗濯機買えばいいだろ、と思ってブチブチ愚痴もらしていた。
そもそもフクダリウス一家はシンプルな服が多い。ファッションには無頓着なのが窺える。
とはいえ、自分に帰れる場所はない。
四首領ノーヴェンが聖愛で星獣を支配しようとしたが失敗して、我らが地球は焼き尽くされた。
「……ここに来て、随分経つが」
最初はアニマンガー学院の先生としてナッセたち生徒を受け持っていた。
だが聖愛が出てきてから狂いだしてきた。
ナッセとも敵対し、熾烈な激戦をした事も懐かしい。真っ直ぐな青年だった。
「ん?」
上流の川から人が流れてくるではないか。
ハッと邪険モリッカは立ち上がった。銀髪が特徴的な青年だ。たゆたいながら流されていく。
「ナッセッ!!?」
急いで鋭く救出して、石がゴロゴロしている岸へ戻っていく。
……間違いなくナッセのようだが、気を失っているようだ。
邪険モリッカは両手で首を締めようと動くが、止まった。しばし固まったまま。
やがてフッと自嘲する。
「……今までの僕なら躊躇いもなく殺しただろうな」
今となっては殺害したとて意味はない。聖愛戦争がないならもはや無益である。
洗濯物と一緒にナッセを抱えてフクダリウスの家へ鋭く戻っていった。
夕日が山に隠れて、薄ら暗くなっていく頃……。
「ただいま」
フクダリウスが家にやってきて、娘リササが「おかえりー!」と迎えてドスンと抱き合った。
妻ミカコはフフッと微笑んだ。
「む? ナッセ……??」
「川に流れていたから回収した。未だ目を覚まさないようだ」
「お主がか?」
布団に寝かされているナッセにフクダリウスは少々驚きを見せた。
邪険モリッカはムッとするが「……昔の僕なら殺していただろうがな」と付け足す。
「知っているナッセなのか?」
「ああ……特徴的な傷がある。眉間から斜めに走る傷、左頬に傷……間違いない」
「聖愛戦争で付いた傷か?」
「ああ」
熾烈な殺し合いの傷跡。
「殺されたと聞いたが……?」
「僕もそう思っていたのだがな……。だが現にこうして生きている。どうやって生き延びたか知らんがな」
邪険モリッカは腕を組んで目を細めた。
するとナッセが「うう……ん」と目を覚まそうとしてきてハッとする。
「起きたか? ナッセ」
素っ頓狂な顔で身を起こし、キョロキョロ見渡す。
デカいフクダリウスを見て、娘のリササ、邪険モリッカへと視線を移す。
「おめぇら……誰だ!?」
首を傾げるナッセ。
邪険モリッカは見開く。フクダリウスは頬に汗を垂らす。
リササは「うわー記憶喪失なんだー!?」と初めて見るように目をキラキラする。
「ワシはフクダリウスだ。しかしこのモリッカは覚えておらんか?」
「いや覚えてねぇ……。オラの名前は覚えてっけど」
「オラ言うキャラじゃねぇだろうがっ!!」
思わず邪険モリッカが鋭く突っ込む。
なんか孫○空みたいなキャラになってて、違和感ありまくりだ。
「こいつ、普段はオレとか言ってて綺麗事ばかり言って邪魔してきたりしてた剣士枠の人だっ! 僕が本性をあらわにした時、学院の生徒を犠牲にしても良いと言った時に怒ってたんだぞ!!」
「そんな事があったのか……」
フクダリウスは汗をかいて呆れる。
「いや、知らねぇぞ?? オラはナッセ……それしか覚えてねぇ」
怪訝に眉を潜めて傾げるままだ。後頭部をかいている。
記憶喪失のナッセだったようだ。
「一時的な記憶喪失かは知らんが……今は安静しているといいだろう」
「そ、そうだな……」
とりあえず記憶喪失なら仕方ない。
邪険モリッカは内心安堵した。もしそうでなければ敵視してきただろう。
それに自身は先生に扮した殺人鬼……。
「なんの因果か知らんが、これは僕への試練か……」
邪険モリッカは鋭く自嘲する。
「一応言っておくが、殺すなよ?」
「いや、必要ない」
「あっても殺すな!」
フクダリウスははぁと溜め息をついた。
翌朝、フクダリウスと娘リササは玄関へ向かう。
「行ってくるぞ」
「行ってきまーす!!」
「あなた、リササ、行ってらっしゃい!」
妻ミカコが見送り、フクダリウスとリササは物凄いスピードで駆け出して、飛沫が一直線と上がっていく。
フクダリウスjrが七人オーラを纏って「わーい!」と外へ飛び出した。
まだ一歳にもなってない赤ん坊なのに元気すぎる。
まんま赤ん坊ではなく、フクダリウスをそのまま三頭身の幼児体型にしたような風貌だからな。
「全くもって現実と離反している家族だ……」
邪険モリッカもさすがに引き気味だ。
とはいえタイタン衛星出身の巨人族だから、こういう生態も仕方ないか。
ドウッ!!!
突然威圧が膨らんできて、思わず邪険モリッカはナッセのいる部屋へ鋭く踏み込む。
なんとナッセはオーラを纏って白銀の鎧を着込んでいて、黄金に煌く聖剣を両手で握っていた。
背中には黄金の光輪が輝いているぞ。
「まさか……記憶がっ!?」
「あ、ピーチモリッカさん!? 見てくれ!! なんか変身できっぞ!?」
思わず邪険モリッカはズルッとコケそうになった。
「覚えてないのか?」
「うん。覚えてねぇけど、なんか変身できると思ってやってみたぞ」
記憶が戻ったと危惧したが、杞憂だったかと邪険モリッカは安堵した。
しかし変身できる感覚だけは覚えていたようだ。
このまま放っておくと危ういと鋭く思った。
「……そいつは『日輪騎士』だ。聖剣は『日輪剣』。戦闘能力が飛躍的に増大する。こんな所で変身するな。危ない」
「す、すまねぇ……」
スッとオーラが収まると、鎧も光輪も剣も薄ら消えて元通りになっていく。
邪険モリッカはほおに汗が伝う。
かつて、学院の生徒を生け贄に魔法力を抽出しようとしてた時に激怒して変身してきた。
手強く、手を焼いたものだと思い返す。
一瞬、記憶が戻らない内に殺すか……とよぎって、顔を鋭くしかめた。
「とりあえず安静にしろ。記憶が戻らん事に話は始まらん」
「それもそっかー。いつ戻んのかな?」
「気長に待つしかないな」
いずれ牙を剥かんともしれん危機はあるが、少なくとも自分が引き起こした業。
その時になったらその時だ。
……それにアイツと会えば、もしかしたら記憶が戻るかもしれん。
もっともアイツも生きているのかは分からん。
「おめぇ親切だな。助けてくれたし、ありがとな」
「フッ、礼に及ばんさ……」
まさかナッセに礼を言われるなんて奇妙だなと思いつつ……。
このアナザーナッセは以降、日輪ナッセと呼ぶ事にする。以上!




