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勇者の魔法使い ─自力で行う異世界転移─  作者: 篳篥
第2章 テンザン大迷宮にて
28/44

第24話 時間との勝負

 いつもの時間に投稿できないかもしれないので、今の内に。帰られればまた更新できる……と、いいなぁ。


 さて困った状況だ、と中空に浮かびながら僅かに思案する。


 足元では誰か……というか誰か達がモンスターの大群に襲われているのは間違いない。ここでその誰か達を見捨てるというのは流石に無い。俺の出現によって状況が悪化してしまったわけだし。

 しかしこれだけの混戦状態だと、魔法は得策じゃない。


 本来ならば魔法は対多数に強い。氷魔法で凍らせる、風魔法で粉みじんにミキサーする、火魔法で燃やし尽くす……他にもいくらでも手段は思い付くし、それならほぼ一瞬で片が付く。

 しかし広範囲攻撃というのは、言ってみれば無差別攻撃だ。スカルソルジャーの群れを殲滅することは出来るが、同時に他の誰か達も一緒にお陀仏となる。その誰か達の正確な位置が解っていれば微調整も不可能では無かったんだけど。


 となると……ん?


 ほんの一瞬の思考の間に、下の群集の中から『何か』がこちらに向かって飛んで来た。それは微かに発光する衝撃波。あれは……【刀刃】か。剣術系スキルの1つで、斬撃を飛ばすことが出来る。

 スカルソルジャーは剣を使う個体も多いが、【刀刃】を使う奴はそうそういない。となるとあれは……誰か達の内の1人が放ったと考えるのが妥当。


 俺はその【刀刃】が飛んで来た場所に当たりを付け、【転移】を行う。目標を失った【刀刃】はそのまま天井にブチ当たる。


「な!?」


 【転移】した目の前にいたのは予想に違わず、人間だった。

 甲冑に近い重そうな鎧を着た、20才そこそこの剣士。金髪金眼というやたらキラキラとした色彩の色男だ。しかしその全身は傷だらけで、非常に痛々しい。


「さっき【刀刃】を討ったのは、お前?」


 【転移】した直後に斬りかかって来たスカルソルジャーの1体を真一文字に切り裂きつつ、男に問いかける。男は一瞬だけ呆けたが、今のこの状況が長時間の放心を許さない。


「ッ! そ、そうだ! 君は何だい!? 新手か!?」


 あちらさんもスカルソルジャーの攻撃を受け止めつつ、誰何の声を上げる。成る程、こちらが敵か味方か解らないから牽制のために【刀刃】を放ったのか。


「……ま、疑われても無理は無い状況かもしれないけど。でも俺は人間だよ。78階層から落ちて来た、ね」


 俺の登場とほぼ同時にモンスターが増えたのだ。疑心暗鬼になっても責められはしない。むしろ、この状況で上空の俺の登場に気付いただけ、この男はまだ周囲が見えている方なのかもしれない。

 そんな俺の嘘は何一つ吐いていない答えに、男は渋い顔をした。


「じゃあ君もトラップに引っ掛かったのか!? それでモンスターが増えたんだね! 絶望的な状況を悪化させてくれるよねぇ、君!!」


「マジでごめん、それに関しては」


 いや本当、マジでね。

 こうして言葉を交わす間にもスカルソルジャーは絶え間なく襲ってきており、男は幾度となくモンスターと切り結んでいた。俺の方も切ったり突いたりして魔石を破壊していく。

 スカルソルジャーは、完全に破壊するには急所……胸の魔石を破壊するしか無い。体を砕くなどすれば動けなくはなるが、完全に停止したりはしない。何気に厄介なモンスターなのだ。まぁ、元々骨だけで動いているのだから、核を破壊しなければ終わらないというのも可笑しくは無いだろう。


 一撃必殺を旨としつつ、【鑑定】を行う。対象は目の前のスカルソルジャー。


[ステータス]

スカルソルジャー

レベル:362


[ステータス]

スカルソルジャー

レベル:329


[ステータス]

スカルソルジャー

レベル:355


 取りあえずレベルだけを見てみたが、やはりこの召喚魔法陣で現れただけはある。

 一般に見かけるスカルソルジャーのレベルは大体200~250ほど。さっき上層で遭遇したスカルソルジャーもそれぐらいだったと見立てている。

 だがこの召喚魔法陣で現れたスカルソルジャー達のレベルは恐らく300~400ほど。同じモンスターでも明らかに格が違う。地下192階層という現在地の影響もあるだろう。これでもここの召喚魔法陣で現れるモンスターの中でも最弱の部類というのは間違いないのだが。


 取りあえず目の前にいた3体も切り捨て、次いで男を【鑑定】してみる。


[ステータス]

名前:ジルベルト・サント

レベル:372

年齢:22

性別:男

種族:ヒューマン

魔法適性:無し


HP:236/1158

MP:166/580

力:562

防御:670

体力:648

敏捷:508

魔法耐性:412


スキル▽

魔法 無し


 強い。それが男、ジルベルトのステータスを確認しての最初の感想だった。いや、嫌味では無く、マジで。これだけの実力があれば冒険者としてでも兵士としてでも、相当の実力者と言われるはずだ。

 少なくともショートカットの入り口……コホン、トラップのあった地下78階層ならば探索出来ても納得するだけの実力がある。


 そもそも、同じレベルならばヒューマンよりもスカルソルジャーの方がステータスは高くなる。それが種族の差というものだ。

 勿論、レベル差やステータス差が即ち勝敗では無い。経験や技術で逆転は可能だ。

 しかしそれでも、自分よりもレベルが上のスカルソルジャーを複数相手に持ち堪えているジルベルトは、間違いなく強くて有能と言っていい。


「聞いていい? 聞くよ? 俺はソロなんだけど、お前らは?」


「構わず聞くなら、確認を取らないでほしいな!! こっちは手が離せないんだ! ……僕達は8人組のパーティだった!」


「『だった』?」


「……少なくとも1人、既に死んでいる」


 おーけー、のっぴきならない状態だってのは理解した。


「解った。それじゃあ仕方が無い……ちょっと本気出す」


 ジルベルトは強い。しかし間違いなくジリ貧の状態だ。他のパーティメンバーとやらも余裕は無いはず。こうしている間にも致命傷を負っているかもしれない。

 ならばさっさと終わらせなければならない。スカルソルジャーそのものは俺にとって脅威では無い。つまり勝負する相手は、時間。彼らの生存率を少しでも上げるための迅速さ。


 しかしジルベルトは俺の言葉を訝しんだ様子だった。


「本気!? 本気だって!? まさかこの状況で今まで本気じゃ無かったとでも言う気かい!?」


「うん、全然」


 サラリと答え、それを理解した瞬間にジルベルトも思い至ったのだろう。ハッとした様子でこちらを見た。今まで彼が幾度となく攻防を繰り返してからやっと1体を倒せていた高レベルスカルソルジャー。それを俺は、遍く一太刀で切り捨てていたということに。


 俺は手に持っていた元・スカルソルジャーの剣を【収納】し、魔法を発動する。とはいえ先も言った通り、広範囲魔法は手っ取り早いが得策では無い。ならば魔法で何をするのかと言えば、こうするのだ。


「【氷模型アイスモデル】」


 両手に1本ずつ、氷のナイフを作り出す。【氷模型アイスモデル】は氷の模型を作り出し、その精度は術者のイメージに因る。今回のイメージは刃渡り30cmほどのダガーナイフだ。


 広範囲魔法は得策では無い。ならば物理で行けばいい! ……どうにも脳筋な思考だな。まぁ、昔筋金入りの脳筋と長い事一緒にいたから移ったんだろう。仕方が無いね。


 ちなみにここでグラドの刀を使わないのには2つの理由がある。


 1つ目は間合いの問題。これだけの大群相手だと、あの長い刀はちょっと扱いずらい。


 2つ目。あの刀は間違いなく良い品なのだが、それでもやはり俺の本気を受け止めきれるようなレベルには達していないということ。

 ちなみに通常の【氷模型アイスモデル】で作り出した模型はただの氷の塊であり脆いのだが、今回は俺の魔力を練り込みながら作った特別製だ。そのため切れ味と耐久性はとてつもなく高い。


 さて。


「ちょっと君、一体どういう」


 ジルベルトとの問答は後回しだ。行くか。


 そして次の瞬間、ジルベルトの視界から俺が消え、同時に彼の周りのスカルソルジャーが一斉に倒れた……少なくとも彼の眼にはそうとしか映らなかったはずだ。


「……は?」


 ポカンとした顔で周囲を見渡すジルベルト。その顔を見れば、彼が俺の動きを目で追い切れていないのは簡単に解ったから。

 しかしそれもこれも全ては後回しだ。


「次」


 そのまま周囲を駆け回る。やってる事自体はごく簡単。スカルソルジャーの急所を突きまくっているだけのことである。ただそれを、己に出来る全力のスピードでやっているというだけで……あぁいや、まだ上があったな。


「【瞬歩】」


 移動系スキル【瞬歩】。これはスピードを上げるスキルで、最大1.5倍ぐらいのスピードアップを可能とする。『厄災』と違い【縮地】を使えない俺にとって、スピードを上げるスキルはこれが最高レベルのものだった。


 移動しながら氷のナイフでスカルソルジャーの胸を刺し貫く。或いは切り捨てる。スカルソルジャーは急所を突かないと倒せないが、逆に言えば急所さえ突けばそれだけで倒せるのだ。

 今の俺の速度はスカルソルジャーの反応速度を超えている……むしろ、彼らの目には何も映っていないのと同じだろう。特に何もせずともいい。彼らは何かを知る前に、悟る前に崩れ落ちて行く。


 駆けながら、右手のナイフで目の前のスカルソルジャーの胸を一突きに。同時に、左手のナイフですぐ横のスカルソルジャーを肩から脇に掛けて斜めに袈裟切りに。体を反転させながら右手を横一文字に薙ぐと3体纏めて胸元から輪切りになる。輪切りにした胴体部分が倒れる前に跳躍して飛び越え、その先にいたスカルソルジャーには着地がてら踵落としを1発お見舞いして頭上から全身纏めて粉砕。着地した右足でそのまま加速するついでに両隣のスカルソルジャーも下から切り上げる。


 この一連の動きに費やした時間は1秒にも満たない。そういったことを手を変え技を変えて繰り返して行く。ただしこの中のどこかにいる誰か達を巻き添えにしないために魔法は使わない。【刀刃】のような遠距離系のスキルもだ。


 無駄な動きも攻撃もしない。ただただ効率よく、的確に一撃で倒して行く。


 そうしているとやがて何度か、モンスターの群れの中に人間を見付けた。そのどれもが満身創痍と言っていい状態だ。恐らくはジルベルトは彼らの中ではまだ余裕のある方だったんだろう。

 俺はそんな彼らを見付けるとそこまで直行し、周囲のスカルソルジャーたちを屠りまくった。彼らはその直後に総じて呆然となっていたので、俺の動きは見えていなかったに違いない。ジルベルトと違って俺の存在そのものを知らないのだから、何が起こったのかすら解らなくてその驚きは一入だっただろう。


 ここまでの大群を相手にするとなると数を数えるのは面倒なので、そこらは気にしていなかったのだが……目測でおよそ300体ほど倒した頃、レベルが上がったのが感覚的に解った。流石にこれほどの軽装備でこの数を相手にするとなると、レベルも上がるか。


 レベルは鍛練によって地道に上げることも出来るが、モンスターを倒して経験値を得るとより効率的に上がる。この場合の経験値とは、倒したモンスターから出たエネルギーを取り込むということだ。

 そしてこの経験値だが、装備品に魔法付与が施されていると吸収率が悪くなる。魔法付与による防御がそれも阻害してしまうからだ。

 しかし今、俺の装備品に施されている魔法付与は胸当ての【防御力強化】のみ。氷のナイフはあくまでも魔力を練り込んでいるだけであって、魔法付与は成されていない。これは経験値の入りも良かったことだろう。

 レベルに上限は無いのだから、俺だって経験値が溜まったのならばレベルアップしても可笑しくは無いが……これって何十年振りだろう。懐かしい感覚だ。


 まぁ、今レベルが1上がった所で影響は全くと言っていいほど無い。だってその前から無双状態だったから……っと。


「これで最後。良かったねお前。自分を殺す奴の顔が見られて」


「グ、アア、ア……」


 最後のスカルソルジャーの胸元に真正面から風穴を開けて動きを止め、告げる。スカルソルジャーは倒れる。そしてそのまま再び動くことは無い。


「ふむ」


 1分ほど掛かったか。やはり数が多いのに魔法を使わずにちまちまやってると時間が掛かる。

 2本の氷のナイフを消しながら、改めて周囲を見渡してみる。倒れ積み重なった骨の山は、まさに死屍累々と言うに相応しい光景だった。

 さて……と。取りあえず殲滅したけど、これをやったのを知られた以上はちょっと彼らの処遇も考えないといけないねぇ。


 けど今は取りあえず。


 パァン! と大きく手を打つと、骨の絨毯の中で僅かに身じろぎしていた人達がビクリと体を震わせてこちらを向いた。ジルベルト以外はここで初めて俺に気付いたようで、目を見開いている。中には後ずさりしている者もいた。俺悪い魔法使いじゃないよ?

 刺激しないためにも出来るだけ優しい響きが出るように気を付けながら、声を張り上げる。


「えーと、言いたい事も聞きたい事も色々あると思うけど、そういった諸々は少し置いといてくれる? 取りあえず治療してあげるから、そこに集まってくれる?」


 そこと言ったと同時に、誰もいない地点を狙って中級風魔法【旋風】を放ち整地する。具体的には、転がっている骨の残骸を吹き飛ばした。

 が、治療すると言っているのに誰もが固まっていて移動してくれない……あ、ひょっとして。


「動けないぐらい怪我が酷い? だったらこっちから行くけど?」


「……いや、動けはするよ。皆! 動けるなら集まって! 彼はあのスカルソルジャーの群れを倒してくれた! 少なくとも今は僕らの敵では無い!」


 ジルベルトの掛け声に、他の者たちも緩慢な動作で動き出した。動き出したのはジルベルトも含めて4人。1人は動かず、そのままの位置にいて……直後にフラリと倒れ込んだ。


「あれま。限界だったか」


 他の4人は俺を警戒していたのかもしれないが、あの人に関しては真実限界だったのだろう。集ってくれている人達は後回しにして、まずその人の元に向かう。俺が今いるのはドームの出口付近。倒れ込んだ人がいるのはここから40mほど左斜め前だ。どうせ今更なので、【転移】で一瞬で移動してしまう。


「うわ、これは酷い……とりあえず【ヒール】」


 その人は全身に傷を負っていたが、特に重症なのは二の腕から先を失くしていた左腕と、左脇腹の深い裂傷。多分この腹の傷、内臓に届いてる。コホッという吐息と共に口元から血が流れ出た。

 ここまで酷い傷だと、いくら使い手が俺でも【ヒール】では止血程度の効果しかない。しかし実際に止血以上の意味を持ってこれを使ったわけでは無いので、それで構わない。


「もうちょっと遅れてたら、マジで手遅れだったよこれは。【修復リペア】。これで全身の傷はしばらくすれば治るけど……お前、自分の左腕が今どこにあるか解る?」


 その人……30才前後のドワーフの男は、茫洋と眼差しをしながらも俺の声は聞こえているようで、ゆっくりと首を横に振った。まぁ、あの乱戦の中で失くしたんじゃあなぁ。見失っても可笑しくない。


「じゃあしょうがないね。くっ付けるだけなら楽だったんだけど、生やすとなると大変だよ。じくじくとした痛みがしばらく続くから。けどまぁ、隻腕になるよりはマシでしょ。【再生リジェネレイション】」


 2種類の回復魔法を掛けた直後、男の全身が暖かな光に包まれる。特に左腕の切断面辺りが特に輝いている。ついでに少しだけ――俺にとっての『少し』と彼にとっての『少し』は少々基準が違ったらしいが――HPも分け与える。支援系スキル【体力譲渡】だ。

 それでもまだ動けずにいる彼を姫抱きにしつつ、他の人達が集ってくれている地点まで【転移】。何故俺は男を姫抱きすることになるのか。


「ノルイ!」


 俺の腕の中でぐったりしている男を見て、大柄な男が焦燥の声を上げた。


「心配いらないよ。もう回復魔法は掛けたから、後は完治を待つだけだ。それじゃあお前らも、治療しようか?」


「……いや。さっき確認したが、僕達にはすぐに治療をしないと命に関わる程の怪我は無い……ギリギリだけどね。だからまずは聞かせてくれ。君は何だ?」


 誰では無く、何者でも無く、何と来たか。存外失礼だな、ジルベルト。


「何、と聞かれてもね。質問が抽象的すぎて答えに困るな」


 肩を竦めて惚けてみせると、ジルベルトは顔を顰めた。

 他の面々が口を挟まずに成り行きを見守っている所を見ると、このパーティの中心は彼なのかもしれない。


「それじゃあ1つずつ聞いて行くよ。答えてくれるかい?」


「答えられることならね」


 事ここに至って、本気で惚ける気は無い。俺はドワーフの男、ノルイをそっと地面に横たえつつ要請に応じた。


「君は誰だい?」


「俺はトーマ。トーマ・スズシロ」


「所属は?」


「所属……?」


 はて、俺の所属って何だ? 冒険者ギルド? いや、あれは登録しているだけであって所属とは少し違う。『世界の運命』は事実上、とっくの昔に消滅してしまっているし……となると、所属は。


「川東中学校3年1組?」


「…………は?」


「あ、それと落語同好会」


 答えてから気付いた。これって俺は結構真面目に考えた答えだけど、あっちからしたら意味不明じゃね?


「ごめん、忘れて。所属は特に無いよ。そう思ってくれて間違いない」


「……そうかい。それじゃあ次に聞くけど」


 ジルベルトは大きく息を吸い込んで、色々あったであろう言いたい事を取りあえず飲み込んだらしい。


「君は何だい?」


「またそれ?」


「そうとしか言い様が無いんだよ。君が78階層のあのトラップに引っ掛かって落ちて来たのはいい。もの凄いタイミングではあるけれど、有り得る話だ。けれど君はソロだと言っていたね? まずその時点で可笑しい。地下78階層までソロで攻略なんて、聞いたことが無い。異常だ」


 異常、ねぇ。


「僕はね、これでも腕に覚えがあるんだよ。他のメンバーだって、決して弱くない。そんな僕らでも、あのスカルソルジャーはとてもじゃないけど対応出来なかった。個体数が多かったのもあるけど、あいつらはそもそもの能力が普通のスカルソルジャーを遥かに凌駕していた。格が違ったと言っても良い。けれどそんな格の違うスカルソルジャー達を、君は一瞬で殲滅した。つまり君の実力は……正直、理解が及ばない領域にあるとしか思えない」


「んー、そうだね。でもそれじゃあ俺が何かっていう答えは出てるんじゃないか? 答えは『何か』。得体の知れない『何か』だよ。これを何て言うのかは、俺自身にもよく解らないから正解は無い。最も的を射た答えは、化け物、かもね」


「そう……そうか……」


 理解が出来ない、と言わんばかりの表情で蟀谷を揉むジルベルト。しかし暫くの後に考えを纏めたのか、深々と頭を下げて来た。え、何で?


「ありがとう。おかげで助かった。それと、すまなかったね」


「……何の謝罪? それに俺のせいで状況が悪化したんだけど? モンスターが追加召喚されてさ」


「どの道同じことだったよ。最初の群れが召喚された時点で、僕達はパニックを起こして分断された。その後は散り散りにされて、全員がジリ貧だ。君が来なければ確かに追加召喚は無かっただろうけど、それが無くても僕達は殺されていた。ならば、今回君が落ちて来たのはむしろ、運が良かった。おかげでこうして生き延びることが出来たよ……なのにさっきは慌てていて罵倒してしまったからね、謝罪はそれさ」


 成る程、そういう事か。

 そしてそれは事実だろう。俺は手早く彼ら全員を鑑定してみる。


[ステータス]

名前:ノルイ・トス

レベル:314

年齢:32

性別:男

種族:ドワーフ

魔法適性:無し


HP:236/958

MP:24/430

力:582

防御:520

体力:588

敏捷:308

魔法耐性:323


スキル▽

魔法 無し


[ステータス]

名前:ドグナム・マクトワ

レベル:345

年齢:29

性別:男

種族:ヒューマン

魔法適性:無し


HP:146/1004

MP:5/425

力:532

防御:574

体力:560

敏捷:368

魔法耐性:402


スキル▽

魔法 無し


[ステータス]

名前:エリザベス・ストーク

レベル:322

年齢:27

性別:女

種族:ヒューマン

魔法適性:無し


HP:78/890

MP:49/444

力:385

防御:360

体力:532

敏捷:512

魔法耐性:305


スキル▽

魔法 無し


[ステータス]

名前:ターシャ・ミエン

レベル:355

年齢:18

性別:女

種族:ヒューマン

魔法適性:有り


HP:190/978

MP:590/1030

力:322

防御:358

体力:310

敏捷:398

魔法耐性:612


スキル▽

魔法 ▽


 先ほど覗いたジルベルトは除くとして、これが今ここに集まっている人達のステータス。ちなみにドグナムがさっき大声を出した大柄な男、エリザベスは黒髪をポニーテールにした背の高い女性、ターシャが小柄で華やかなピンク色の髪をした少女。皆、見事に半死半生だ。

 全員がレベル300を超えているパーティなんて、滅多にいるもんじゃない。ターシャはレベルの割にステータスが低めだけど、ひょっとしたら魔法特化なのだろうか。

 そんな彼らが揃って死にかけている。それだけヤバい事態だったということだ。


 それに……。


「さっき、『8人パーティだったけど1人は死んだ』って言ってたよね? 他の2人は?」


 予想は付いているが、一応聞いておく。すると向かい合っていたジルベルトに限らず、全員が沈痛な面持ちになった。


「……死んだ。ターシャが2人の最期を見たらしい」


 その言葉に、ターシャは耐え切れなくなったようにペタリとへたり込んだ。


「ご、ごめんなさい! 私、私、動揺して咄嗟に動けなくてッ! カミュとエディ、2人とも私の傍にいたの……! 2人が助けてくれたから、今、私生きてる! なのに私、2人を助けられなくて……!」


 とうとうワッと泣き出した少女の頭をエリザベスが抱くように抱えて慰める……へぇ。


「そう。それは残念だったね。葬る気があるなら、手伝うよ。俺は色んな魔法が使えるから」


 暗に土葬でも火葬でも任せろという意味を含ませると、ジルベルトが真面目な顔で頷いた。彼としても仲間を弔いたい気持ちは強いようだ。


「是非頼むよ。あんなのを見せられたんだ、君が何が出来ても驚きは……するけど。でも納得はしよう。そうだ、まだ紹介してなかったね? ノルイとターシャの名前はもう出たけど、僕はジルベルト。彼がドグナムであっちの彼女がエリザベス」


 俺が【鑑定】を行ったことなど当然知らないジルベルトは、生き残ったパーティメンバーを紹介してくれた。何だか今更な気がする。

 そしてそれが終わった時、ドグナムが遂に焦れたようにジルベルトに話しかけた。


「なぁ、いつまでもここにいても大丈夫なのか? また何か出て来るかもしれねーぞ? 何所かに移動した方がいいんじゃねぇの?」


 その心配は尤もではあるが、杞憂だ。逡巡するジルベルトに代わり、俺が口を開く。


「その心配は無いよ。今の所、この近辺でここ以上に安全な場所は多分無い」


 動けないノルイ以外の全員の視線が俺を貫いた。その視線が言っている。何故そんな事が言えるのだ、と。


「この部屋の仕掛けは78階層の仕掛けと完全に連動してるんだ。上の階で仕掛けが作動しない限り、ここの召喚魔法陣は発動しない。そしてこのドーム内には、外部からモンスターが入れない。つまり召喚されたモンスターが殲滅された現状、上でまた誰かが罠に引っ掛からない限りはここの安全は保障される」


「……何故?」


「それはどういう『何故』? 何故そんな仕掛けになっているのか? 何故俺がそんな仕掛けを知っているのか? ……まぁいいよ、どっちも答えてあげる。何故こういう仕掛けがしてあるのかは、俺にも解らない。俺が作ったわけじゃ無いから。何故俺がこの仕掛けの絡繰りを知っているのかは、何度も経験したから。経験則として知っているんだ」


「このトラップを……何度も? トーマ、君は一体……いや、止めておこう。得体の知れない存在、だったね。けれど少なくとも今は僕たちの敵では無い。この状況ではもうそれだけでも十分だよ」


 そうか、理解してもらえて何よりだ。


「ま、そういうわけで。今度は俺にお前らの事を教えてくれないか?」


 お前らが何者なのか、俺は全く知らないんだ。

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