第21話 攻略開始
第2章の始まりです。今回は導入部分なので短め。
テンザン大迷宮は、世界に無数に存在する迷宮の中でも珍しい、各大陸に1つずつしか確認されていない大迷宮の内の1つである。その規模は地上5階地下255階に及び、攻略するのが世界で最も難しい迷宮の1つと言われている。
しかしそのテンザン大迷宮だが『世界で最も難しい』と言われるのはあくまでも攻略であって、探索するだけならばそれほど難しいことでは無い。
特に地上にほど近い階層ではスライムのような低ランク冒険者……或いは腕の立つ一般人でも相手が出来るような弱いモンスターしか出現せず、その道筋も『迷宮』と呼ぶにはごく単純だ。
そのためテンザン大迷宮には数多の冒険者が集って来る。上は攻略を狙う凄腕冒険者から下はレベル上げと経験積みのための初心者冒険者まで、ランクは多岐に渡る。
冒険者が集れば彼らが利用する宿屋や装備品店、飲食店も開かれ、彼らはその地に定住するようになる。定住する人が増えれば、今度はそういった人たちに向けた商売や流通が起こる。
そうして人が人をよび、いつしか発展して行った街。それがテンザン大迷宮の麓に存在するテンガの街だ。この街は俺が最初にこの世界に落とされた頃、約1400年前には既に存在していた。それはテンガに限らず、他のそれなり以上の規模を持つ迷宮にも言える。
しかし。
「流石に街並みまで昔通りじゃないか」
テンガの街は常に人通りが多いこともあり、入門手続きは通行料を払うだけだった。それを恙なく済ませて街中に入ると、そこにあったのは多くの2~3階建ての木造建築。木造とはいっても日本家屋風というわけでは無く、コテージやロッジに近い。昔は3階建て以上の建物は殆ど無かったんだけどな。
俺はテンザン大迷宮の地下深くに引っ越してきてから、ちょっとした買い物や息抜きはこの街で行っていた。その間およそ600年、緩やかに変化を続けていたテンガは約800年見ない内に大きく変わっていた。
「けど、建物の配置や街並みの変化はともかく……少し、規模が小さくなった?」
街の賑わいに大きな変化は無い。相も変わらずこの街は住人達に加え様々な冒険者で入り乱れていたが、昔よりも一回りか二回りほどその面積が狭くなっているような気がする。衰退した、という程では無い。けれど縮小はしているように思う。
「ま、いいや。長居するつもりは無いし。ギルド行こ」
すいすいと人並みを潜って街を歩く。ギルドの場所は街にはいる時に門番に聞いていた。
迷宮はギルドによって管理される。そのため、迷宮に入るにはギルドに申請して許可証を貰う必要がある。
勿論、冒険者しか迷宮に入れないというわけでは無い。軍の訓練など、ギルドの許可を取れば可能だ。しかしそれには割と面倒な手続きが必要らしく、最も手軽な方法は冒険者として入宮可能ランクを満たすことなのである。
場所が解っているので、ギルドを見付けるのは簡単だった。看板は全国共通だし。
入ってみるとそこは食堂。オスカーの言った通り、ギルドはどこも大体同じ造りになっているらしい。昔は所によって色々と違ったので、今の方が便利ではあるが何だか特色が無くなってしまったようにも感じ、少し奇妙な気分だった。
食堂はスルーして2階のカウンターへ。大迷宮にほど近いだけあってそこは冒険者で一杯で、溢れかえりそうになっていた。カウンターに並ぶ人達、クエストボードと睨み合う人達、冒険者同士で意見交換をしている人達。
いくつかのカウンターは全てに長蛇の列が出来ていて、それをサッと見渡してから1番空いている列に並ぶ。空いているとは言っても五十歩百歩だけれど。俺が並んだ傍から後ろにも列が出来ていくのだから、このギルドの盛況ぶりが解る。
その後、15分ほど待っただろうか。漸く俺の番が回ってきた。
「らっしゃい、冒険者ギルドテンガ支部へようこそ!」
カウンターで待ち受けていたのは、俺と……俺の外見年齢と大体同じぐらいの年頃だろう少年だった。随分と元気が良い。
「テンザン大迷宮に潜りたいんだ。許可証貰える?」
ギルドカードを差し出しながらそう言うと、カウンターの彼はギルドカードを確認して頷いた。
「Eランクだな。じゃあ大丈夫だ。ちょっと待っててくれ……じゃない、待っててくださいよっと」
接客言葉がうっかり抜けそうになったのは、まだ不慣れなのか俺が見た目同年代だから気が抜けたのか。両方かもしれない。
それでも1人でカウンター1つを任されているのは伊達では無いようで、少しカウンターの下で作業をした後にすぐ1枚の木札を取り出した。表には大きく『入宮許可証』と書かれている。
「じゃ、大迷宮に入るときに見張り番にそれを見せてくれ。それでテンザン大迷宮には入れる……じゃない、入れますよ」
「敬語はいいよ。こっちとしてもその方が気が楽だ」
苦笑しながら言葉を挟むと、彼はパッと顔を輝かせた。
「そっか、助かるぜ! まだちょっと慣れてなくてよ。あ、俺はマイク! よろしくな!」
「俺はトーマだよ……て、カードで見てるか。よろしく。それで、これで手続きは終わり?」
今更ながら互いに挨拶を交わし、改めて問う。
「あ~っと、トーマはこれまでに迷宮に入ったことはあるか?」
入るどころか、我が家はその地下にあります……とは言えず。
「そうだね、初めてだ」
無難な答えを返すことにした。
「じゃあ取りあえずの注意点を説明しとくな。まず、迷宮内で怪我をする、或いは命を落とすことになってもギルドは一切の責任を負わない。自己防衛はしっかりとして、引き際も見極めろよ」
「解った」
「それと、迷宮に入って3ヶ月以上出て来なかった場合、死亡したものとして扱われるから気を付けろ。後の手続きとか色々大変になっちまうからな」
3ヶ月とは言うがそれはあくまでも既定の上での話で、俺のようなソロなら精々半月、長くても1ヶ月が限度だろう。あまり時間は掛けられないな。
何故なら、俺は家に帰った後は再び迷宮を突破して地上へ戻って来る必要がある。入宮記録はあるのに出宮記録が無いんじゃ死んだ者として扱われるようになってしまうからだ。しかも迷宮の内部では【転移】が使えない。いや、【転移】自体は使えるのだが、【転移】を用いて階層間を移動することは出来ない。出来るのはあくまでも同じ階層のみだ。
ならば何故迷宮の地下にあるはずの俺の家には鍵があれば【転移】出来るのかというと、これは実は厳密に言えば俺の家があるのは迷宮の地下では無いからだ。迷宮の地下にあるのはあくまでも『俺の家へと続く扉=非常通路』であって、俺の家自体はちょっとした亜空間に作られているのである。便宜上、扉があるテンザン大迷宮の地下に家がある、と言っているだけで。
「それと、これは注意事項じゃなくてアドバイス! Eランクの冒険者なら地上2階、地下3階ぐらいまでを目安にした方が良いぜ。それ以上登ったり降ったりするとキツくなってくるはずだ」
ごめん、親切に言ってくれてるけど俺は地下255階まで行くつもりなんだ。
「食い物や装備品の手入れはしっかりやっておくこと! 迷宮の中に店なんて無いから、補充も交換も出来ないぞ」
「あ、そうか。食い物」
ここでハタと気付く。そうだ、普通は迷宮に潜ろうと思ったら食料が必要なんだ。
今の俺が食料を持っていないというわけでは無い。むしろ【収納】空間に大量にストックしてある。ただ、迷宮に潜るのに食料を持って行くという常識を忘れていたのだ。
何しろ呪いを受けてから600年、俺は何をしてもされても死なない身体になっていた。勿論、飲み食いしなくて喉が渇いて腹が減ったとしても、脱水状態にはならず餓死もしない。そのため600年の間俺にとって『食事』とは生きるためのものではなく、どちらかといえば娯楽の類だった。
そのため『支配』との戦い以降迷宮で食事をすることは無く、すっかり忘れていた。
しかし今の俺はもう不死では無い。食わねば死ぬだろう。そんな当たり前のことを今更自覚した。
「何だ、忘れてたのか? ちゃんと準備しとけよ。それと……迷宮前の雑貨屋で地図を売ってるから、それを買っておくことも勧めるぜ。地上部分と、地下30階までぐらいなら正確な地図がある。それより下だとちょっと虫食いになるし、100階を超えるぐらいになると殆ど役に立たなくなるんだけどな」
「地下30階……」
何だろう、あんまり進歩が無い。800年近くあったっていうのに。
俺としてはありがたいけどさ。だってそれってつまり、テンザン大迷宮の攻略にあまり進展が見られない、つまりは俺の家が見付かる可能性も低いってことだし。
「これぐらいだな。じゃあ、頑張れよ!」
既にもう俺の後ろにも多くの人が並んでいるし、雑談をする余裕は無い。マイクの元気のいい声を背中に、俺は大迷宮を目指した。
食料は既にあり、装備の手入れは万全で、地図は必要無い。よって俺はギルドを出るとその足でテンザン大迷宮の入口へと向かう。街並みはともかく大迷宮への入り口の位置が変わることは無いため、誰かに道を尋ねる必要も無かった。
テンザン大迷宮はテンガの街から歩いて10分程度の小高い丘にある。しかしこの丘は実は丘では無く、迷宮の地上部分であり、その地下には広大な迷宮が広がっている。その入り口は全部で3つ。見た目には丘の下層にある洞穴の様なものだ。
3つの入り口の内、1の入り口は地下へと通じる階段に最も近く、3の入り口は上階へと続く階段に近い。そしてテンガの街から1番近いのが2の入り口だった。俺の目的は地下にしかないため、1の入口へ向かう。
辿り着いた入口にはそのすぐ横に2人の番人が立っていた。格好からして恐らく、ギルド職員なんだろう。そして入り口付近には休憩所と、マイクも言っていた雑貨屋がある。
引っ切り無しとまでは言わないが冒険者の出入りは多いようで、俺が入り口を視界に入れてから実際に辿り着くまでの間にも、何組かの冒険者が出入りしている。その全てがパーティで、ソロは見かけない。まぁ、迷宮探索は何があるのか解らないから、パーティを組むのが無難である。
雑貨屋はスルーし、入り口の番人たちに木札を見せる。と、1つ頷かれてあっさりと中へ通してくれた。ソロは珍しいがいないわけではないため、さして不審がられることも無かった。
迷宮に入っても、すぐにモンスターが現れるわけではない。暫くはある程度舗装された一本道が続き、それが途切れた頃が迷宮の本番なのである。
そして1分も歩くと、その平坦な道は途切れた。
さぁ、迷宮攻略の始まりだ。
明言しておきますが、単騎戦力という意味では『主人公最強』タグに全く偽りありません。設定上、藤真を上回る戦闘力の持ち主はおらず、同等の人物も『厄災』の魔王が蘇りでもしない限りありえません。
なので実力がものを言う大迷宮攻略編は別名・無双編です。色々とテコは入りますが。




