第18話 仲間の孫
本来なら昨日の分だったはずの更新です。やたら長くなったので次回と分けました。
かつて『支配』の魔王を倒した勇者一行には、竜人の夫婦がいた。後に『竜王』と呼ばれることとなるドラグネスと、その妻で『竜妃』と呼ばれるナナエスだ。
俺が2人と出会った時には既に娘が1人いる夫婦だったが、その後にもう1人、息子が生まれた。その息子が更に子を成し……つまりドラグネスとナナエスの孫に当たるその子が、今俺の目の前にいる竜人の鍛冶師・グラドなのである。鍛冶師になっていたのは驚きだが。
それにしても。
「老けたなぁ、お前」
「そりゃ老けますよ。最後に貴方と会ったのは何百年前だと思ってるんですか」
呆れたように返され、真面目に考えてみる。
777年前だな。そりゃ、いくら竜人でも老けて当然か。ん? ってことは。
「お前、実年齢は俺より上か」
777年前の時点でグラドは50才になるかならないかってぐらいだったはずだし、800才は超えてるはず。625才の俺よりは確実に年上だ。
「なら、そんな話し方をする必要は無いぞ?」
人前ではともかく、2人っきりになってからはずっと敬語じゃないか。
しかしグラドは首を横に振り、握った右手を自身の胸に置いた。それは竜人流の、上位者へ対する敬意を表す動作だった。
「年齢の問題ではありません……我ら竜人族は、決して貴方への御恩を忘れないと誓った。特にこの私は」
「……そこまで?」
「無論」
かつての知己の思いが重い。けどなぁ……竜人に関しては、ちょっとしょうがない部分もあるんだよね。そしてそれは『支配』の魔王と『厄災』の魔王を倒したこととはまた別の話なのだ。いや、関連性は有るのだけれど。
「そういえばさっき聞いたけど、竜人の隠れ里は見付かっていないみたいだな。平和なようで何よりだよ」
「ええ。貴方の張った結界は未だ健在です」
そういうことなのだ。
竜人は戦士的気質を持つ者が多い。これは言い換えると、武士的気質を持つ者が多いということでもある。
そんな竜人達は破壊と殺戮を繰り返す『厄災』に対して、恐怖よりもまず先に義憤を感じる者が多かったらしい。故に「我こそはあの邪人を討たん」と戦いを挑み……しかしまぁ、実際に『厄災』を倒したのが俺だってことで察してもらえると思うが、遍く返り討ちにされた。
これにより当時、元々人口が少なかった竜人は人類の中でも特にその減少率が上がってしまう。どれくらいかというと、ガチで滅亡の危機に瀕していたレベルで、だ。
しかも強い者ほど『厄災』に挑んで行ってアボンしていたため、残っていた竜人で強者と言えるのはドラグネスとナナエスぐらいのものだった。他は子供か老人、それと数少ない争いを好まない者たち。
そしてここで問題になるのが、子供の竜人だった。竜人は竜形態と人形態を取ることが出来るが、子供の内はそれが上手く出来ないことが多い。そのため、竜人ではなくモンスターのドラゴンと間違えられて殺される、というケースが起こり得る。
それでも『厄災』の侵略以前は、大人の竜人がしっかり見張っていることでその事態は未然に防げていたのだ。しかしそういった人手が無くなったことで上記のケースが実際に起こってしまう。それも複数も。
元々人口が激減していたのが、次々と子供が殺されていくことで追い打ちをかけられ、もうマジで滅亡の一歩手前だった。
そんな状態を憂いたドラグネスとナナエスは残った竜人たちを集め、隠れ里を作った。少なくなってしまった同胞と助け合い、か弱い子供を育て、老いた老人を守るための里だ。
そして、2人に頼まれてその隠れ里を守護する結界を張ったのが俺だ。正確に言うと、結界を張るためのマジックアイテムを作ったのが俺なのだが。
何しろその当時の俺は既に『厄災』と相討ちになって死んだことになっていたため、直接出向いて結界を施すわけにはいかなかったのだ。そこでドラグネスとナナエスは俺と仲間だったという事実を利用し、かつて幸運にも生前の俺に強力な結界効果を持つマジックアイテムを貰っていた、という体を取って使用した。実際には、そのマジックアイテムを作ったのは依頼を受けた跡である。
こうして竜人の隠れ里は誕生し、そのシステムによって竜人は徐々にではあるが数を増やして滅亡の危機を脱した。
この経緯から後世の竜人たちはドラグネス・ナナエスは勿論のこと、俺のことも救世主として敬意を抱くようになった……らしい。
それは2人の孫であるグラドも同様で、2人の孫であるが故に俺の真実を知り面識もある彼の敬意は他の竜人たちより深い。こっちとしてはちょっと引くレベルで。
昔っからそうだったけど……まさか800年近く経っても変わらないとは。年上の威厳は何所へやった。
だが、かつての知り合いと出会えたことは素直に嬉しい。
「そう……所で、どうしてこんな所にいるんだ? お前の年なら隠れ里にいなきゃいけないってことは無いだろうけど、何でウサ?」
「おや、トーマ様はご存じないのですか? すぐそこにユストピ鉱山があるのですよ」
ユストピ鉱山? ……あ。
「あー、そういやここって赤大陸の西方、だったっけ。成る程、ユストピ鉱山のすぐそば……だからこの街、職人街が大きいのか」
ユストピ鉱脈は、主に鉄鉱石が取れる鉱山だ。
「けどあれって確か、採鉱が始まってからもう1000年ぐらいになるんじゃないか? よくまだ枯渇してないな」
「流石に、近年は量が減ってきているようですぞ。もう暫くは持つのだろうと見られていますが。元々ウサの街はユストピ鉱山の麓に職人が集まったのが始まりとされていますが……ご存知ない?」
「あぁ、いや。言われると解った。つまりウサの街ってのは元は、えっと、あれだ……そう、ウスト村か。あれなんだな? 昔何度か、ユストピ鉱山に行った時に立ち寄ったことがあるよ」
成る程成る程、地理は理解した。この後どこか別の土地に移動するのには【転移】を使えばいいって思ってたから、現在地の詳細は聞いてなかったんだよね。
そしてグラドがこの街にいる理由も解った。元々は職人の街なんだから、鍛冶師がいても可笑しくは無いよな。そこに俺が辿り着いたのは凄い偶然だけど。
「はい、そうです。それでその……そろそろ教えて頂けませんか? 何故貴方がここに? それに何やら、随分と可愛らしい姿をしていますが?」
「あぁ、それは説明するよ。でも可愛いはやめろ。これでも成長したんだよ。日本に帰る時に12才の姿に戻って、それから2年。今の外見年齢は14才だ。まぁ、お前が知ってる俺の姿は17才の頃のものだから、そう感じるのも仕方が無いのかもしれないけど」
成長期の3年ってデカいよね。
そして俺は事の起こりからを簡潔に説明した。
日本で平和に過ごしていたらまたもや【異世界召喚】が行われたこと。
それを追って俺もこちらに渡って来たこと。
しかし家に入れず、とりあえず落下地点の近場にあったこの街に来たこと。
冒険者として登録済みであること。
明日にはテンザン大迷宮に向けて発つこと。
偶々知り合ったイストルの誘いでこの工房に来たらグラドと再会したこと。
これらの事情をグラドは時折相槌を打ちながらも口は挟むことなく聞いていた。そして話が終わった時、盛大な溜息を吐きだした。
「成る程……事情は解りました。事実は小説よりも奇なりとはよく言ったもので。しかし……貴方が冒険者登録、ですか」
「当座の生活費を得るにはそれが1番手っとり早いから」
「貴方が新米冒険者……世界の英雄、『大賢者』の二つ名とSSSランクという称号を持つ貴方が……」
「あ、今はEランクだから」
グラドの目は何所か遠くを見ていた。己の中の価値観と今のこの現実が脳内で喧嘩しているらしい。気持ちは解るような気もするけど、ごめん。慣れて。
「ちなみに昨日は時給鋼貨8枚で賄い付きの清掃のクエストを受けて来たよ」
支払いは滞りなく行われた。賄いも『猫の目亭』に負けず劣らずの美味い料理が出された。本当に、当たりのクエストだったよ。
グラドはガクリと項垂れた。色々と諦めたようだ。
「……もう解りました。えぇ、そうです、貴方はそういう方でした。ご自分が何者かは自覚しているくせに、まるで頓着しないのですから」
「酷い言い草だね。それじゃあ俺も、聞いていいかな? ドラグネスとナナエスは……」
俺が聞きたいことは、グラドも理解したらしい。全てを言い切る前に答えは返された。
「既に、死出の旅路へ。祖父は貴方が故郷へ帰還してからさほど経たずに。祖母は400年程前でした」
「……そっか」
やはり、という思いが湧き上がる。長命な竜人とはいえ、そもそもあの2人は出会った時点で俺よりも200才ほど年上だった。寿命だったんだろう。ドラグネスは少々早い気もするが。
勇者一行と言われるのは、『支配』の魔王を倒した当時にパーティ『世界の運命』に所属していた10人。
『勇者』アル。
『大賢者』トーマ。
『聖騎士』クリス。
『大魔導』リリアナ。
『錬金王』ダイゴ。
『聖女』アイリ。
『獣王』ウルクスト。
『竜王』ドラグネス。
『竜妃』ナナエス。
『賢人』パク。
俺はこの内、アル・クリス・ダイゴ・アイリ・ウルクスト・パクは日本帰還前に看取っている。若干名、『看取った』と言うと語弊がありそうな相手もいるが、それはともかく。
そして生きて別れを告げたのはリリアナ・ドラグネス・ナナエス。しかしその3人も既に全員いない。
今が新暦1372年と知った時点で覚悟はしていたが……もう誰もいないってのをまざまざと突き付けられると、やっぱりクルものがあるね。
「まぁ、仕方が無いよね。でも400年ぐらい前って、トーマス教が出て来た頃じゃないか?」
「あぁ」
グラドは少し遠い目になった。当時を思い出しているらしい。
「あのあり得ない神託ですか。えぇ、時代は近いです。しかし祖母はそれ以前に鬼籍に入ってしまったため、知りませんが……知っていたら否定していたでしょうな」
あり得ないと言ってくれたのは嬉しいが、それはそれで頭が痛くなる。
「お前は否定してくれないのか。お前の弟子のイストル。あいつも結構熱心なトーマス教徒みたいじゃないか」
「私は祖父母がかつての勇者一行だとは公言していませんのでな。リリアナ様と違い、否定したところで信憑性はありませんよ」
……まぁ、それは確かに。
「イストルに関しては、確かに熱心なトーマス教徒ではありますが、狂信的という程ではありませんので、問題無いかと」
むしろお前の方が地味に狂信的だよな。
「ハァ……確かに俺だって自分の正体は隠してるんだ。お前が出自を隠してても可笑しくは無い。解ったよ、これはもう言わない。それよりグラド。物は相談なんだけど」
「何か?」
「俺、装備品が欲しいんだ。そんなに良い物じゃなくて良いんだ、これから家に帰るつもりだから。そしたら俺ん家の倉庫に色々あるし。だから当座の品でいいんだけど、でも今は元手が無い。【収納】空間に高値が付きそうな薬草や薬品は持ってるんだけど、それを売って金に換えるとなると目立つだろ? 俺は出来るだけ目立ちたくないんだ。だから、お前にその薬を渡すから、それに見合う品を融通してくれないか? 要は物々交換だ」
装備品、とグラドは視線を鋭くした。
「融通も何も……貴方の頼みでしたら、我が工房の最高級品をそのままお譲りしますが」
知己の思いが重い。俺はやれやれと肩を竦めた。
「それはダメだろ。商売なんだから。そんな事をして、弟子にはなんて言い訳する気だ? 俺の正体を明かすのはNGなんだからな」
「それは……そうですが。あ、あぁそうだ! それなら……少々お待ちを!」
言葉を紡ぐ内に何やら思い付いたのか、グラドは木製の棚に向かった。そしてその中から1本の細長い布袋を取り出す。
「どうぞ。これは昔私が打った物ですが、どうにも売れず……しかし、貴方ならばこれが何なのかお解りのはずです」
1mほどのその包みを受け取り、中身を取り出す。するとそこにあったのは。
「これは剣……いや、刀か」
細長い刀身を鞘で包み込んだ一振りの刀。それを手に取った俺に、グラドは頷いた。
そうか、これは。
「そういえばお前には昔、『刹那』を見せたことがあったな。あれを真似たか」
俺は剣も使うが、かつて使っていた得物は剣と呼んではいても実際には刀。サイズ的にもフォルム的にも、完全に日本刀だった。
「はい。かつて『厄災』の心臓を刺し貫いたという貴方の剣、『刹那』。あれを見せてもらった時の感動は忘れられませんよ……どこか禍々しく、しかし何故か神々しく。その刀身は薄く細いのに何物をも斬る。かの聖剣『コーラルリーフ』ですら、あれには及びません」
うん?
「お前、『コーラルリーフ』を見たの?」
見せた記憶は無いんだけどな。しかし俺のその考えと反し、グラドは頷いた。
「ええ。かつて勇者様が『支配』の魔王の心臓を刺し貫いたという聖剣『コーラルリーフ』。あれも貴方の『刹那』と同じく、ダイゴ様が打って貴方が魔法付与した剣のはずですが……正直、以前展示されていた聖剣を見ても、それほどの物とは思えませんでしたよ」
……あ、そっか。
「お前の見た『コーラルリーフ』って、ひょっとして昔フィライト王国に献上したヤツ? フィライトが滅んだ後は聖神教の総本山に安置された?」
「? えぇ、そうですが……他の『コーラルリーフ』でもあるのですか?」
「うん。だってそれ、偽物だから」
サラリと告げると、グラドは変な顔になった。そりゃもう、変な顔としか言いようのないような変な顔だった。
「は?」
どうやら言葉が出ないらしい。俺としては少々バツが悪い。
「いや、偽物って言うと語弊があるかな? 正確にはレプリカだ。『支配』の魔王を倒した後、確かにアルの持ってた『コーラルリーフ』はフィライト王国に献上された。されたんだけど、その後の『厄災』の魔王の侵略の時……あーっと、紛失してしまったんだ。けど新たな魔王が現れて世界中が混乱してたあのご時世、勇者の剣が無くなったなんてとても公表できなかったらしくて」
勇者の剣は聖剣と言われ、人々にとっては一種の希望の象徴でもあったのだ。
「それで急遽、全く同じ造りの剣をもう一振り作って、事実を隠蔽したんだ。そしてそれがお前が見たっていう『コーラルリーフ』。本物と同じでそのレプリカを打ったのもダイゴだったんだけど、やっぱり急ごしらえじゃあ粗が出る。しかも俺は当時、事情があって魔法付与が出来なくてね。レプリカにそれをしたのは、その頃まだ未熟だったリリアナだったはず。それでちょっと……お前が言うように、ちょっと不自然な品になったんだよ」
「それは……何とも……」
「歴史の裏側ってヤツだね」
隠された歴史、知られていない歴史、知られたくない歴史、知られるべきでは無い歴史。そういったものは確かに存在するのだ。
さっき俺がグラドにした話も、隠している部分もあれば嘘を吐いた部分もある。例えグラド相手でも、言うべきでは無いことはある。
「本物の『コーラルリーフ』は、俺の『刹那』に負けず劣らずの名剣だぞ。『コーラルリーフ』と『刹那』。俺はこの2本こそが世界最高の剣だと確信している」
勿論、長い歴史の中でこれを上回る存在が現れることは否定しない。しかし少なくとも、俺が知る限りはそうなのだ。
「ちなみにその本物の『コーラルリーフ』は、後で俺がちゃんと見付けておいたよ……何しろ、アルの形見だし。今は俺ん家の蔵の中に保管してある。お前にも見せてやれば良かったかな?」
それは是非とも見たかった、とグラドは非常に残念がった。
「私は鍛冶師になって以来、あのような品が作れないかと奮起しました。それと同等の剣ですか……是非ともこの目で見たかった。結局私は『刹那』のような品は再現出来ず……しかも売れないので、死蔵していました」
まぁ、売れないのは仕方が無い。『コーラル』で一般的なのは太い、見るからに丈夫な剣ばかり。刀は細くて折れやすい、脆い物に見えるのだ。俺も昔そう言われた。
「刀は元々、重い長剣の扱いに苦戦していた俺のためにダイゴが打ってくれたのが始まりだからな。何せ俺、非力な魔法使いだから。刀もそれなりに重いけど、両刃の剣よりは軽い。ただ、それでもやっぱり脆く見えるみたいで、一般に広まりはしなかったんだよね」
「貴方が非力な魔法使いだという点には些かどころではない疑問が湧きますが、まぁ置いておきましょう。それで、これならどうです? 売れなくて死蔵していた品ならば、差し上げても問題無いでしょう?」
言われ、鞘から少しだけ刃を抜く。その刀身はキラリと輝いた。
「へぇ……売れなかったとは言うけど、かなりいい出来じゃないか? 流石にダイゴには及ばないけど」
「かの『錬金王』と比べないで頂きたいですな。聞いていますよ? ダイゴ様の鍛冶技術は芸術的を通り越して変態的なレベルだった、と」
そりゃあな……だってダイゴ、あいつだって元は俺や姉貴と同じ日本人だから。凝るとなったらとことん凝る日本人。その精神で世界一の錬金・錬成・鍛冶技術を持つに至った男。でも。
「変態は止めてよ。あいつはただ、いつも何かを作ってただけだ」
『おい藤真、手伝え。ステータスカードを作るぞ』
『ステータスカード? 【鑑定】をカード化するの?』
『そうだ。俺たちなら出来ると思わねぇか? これは世界に革新を起こす発明になるぞ!』
「常に新しい事にチャレンジしてさ。本当に、職人気質な奴だった」
『そしたらカワイコちゃんのスリーサイズも覗き放題になるかもしれねェぞ!』
『へ?』
『おい何だお前、気になんねぇのか!? ボンキュッボンのネーちゃんの色気! 分厚い服の奥の隠れ巨乳! 括れたウエスト! プルンとしたケツ! 女体の神秘!!』
『あの、ダイゴ……』
『お前も男なら解るだろ!?』
『後ろ後ろ』
『ウチの弟に何を吹き込もうとしてんだ! 百辺死ね!!』
『ゲェッ! 愛莉!?』
「……本当に、職人気質な奴だった」
「何故わざわざ2回言ったのですか」
「大事なことだからだ」
姉貴にぶっ飛ばされて頭上に星を飛ばしてたダイゴなんて、俺は知らない。ただ、アイツが変態であったことは否定できないのかもしれない。
けど、姉貴だってダイゴの事怒れないはずなんだよ。姉貴も十分変態だったから。どの辺がって? ……かなりガチで腐ってたんだよ。
供給があまり無いこの『コーラル』で萌えを自己補給するための妄想内で、自分の旦那と実弟をモデルにしていることが偶にあると知ってしまった時、俺はドン引きを通り越してガチギレした。そして泣いた。
最終的には悟りの境地に至った。俺たちは千年変態の国家日本の出身だもんね、仕方ないね。
……やめよう、もうこの辺のことは思い出したくない。
「とにかく、ダイゴの作品は例外としてみるとだ。これは相当いい刀だね」
「貴方にそう言われると嬉しいですな。それはあくまでも只のカタナであり魔法付与などは一切施されていませんが、貴方にはその方が宜しいでしょう? 他の誰がやるよりも、貴方自身が行うのが最も質のいい魔法付与となるはずです」
うん、俺もその自信はある。
「解った、そこまで言うならこれは貰っておく。でも流石にタダは心苦しいから、お前も薬はいくつか受け取ってくれ。それと」
「いえ、しかしそれは」
「最後まで聞け……それと、もう1つ。この刀の他にも、剣と防具を一揃え。今の俺の冒険者ランクに合った物を頼む。そしてその一式よりも少し高値が付きそうな薬を渡すから、その余剰分をこの刀の代金替わりってことにしてくれ」
「は?」
パチクリと目を丸くするグラドに、俺は苦笑した。
「言っただろう、俺はテンザン大迷宮に行くって。家に帰るんだよ。その為には迷宮に潜らなきゃいけないのに、装備が全く無いと入る前に止められてしまいかねないからね。無駄な騒ぎを起こさず、円滑に入宮するためにはそうするのが1番なんだ……この刀は良い物だけど、形状からして目立つ。だから普段は【収納】しておいて、これとは別に普段使いの物が欲しいんだ」
防具も何も無しに迷宮に入るのは、本来ならば自殺行為だ。その自殺行為を行っても大丈夫な例外が俺なんだが、そんなことを一々説明なんてしていられない。
そういう事情を察してくれたんだろう、グラドは納得した。
「そうですか。しかし、それなら先ほどまではどうするつもりだったんですか? こうして私に会ったのは偶然でしょう?」
「ここに来る前までは、今ある手持ちと相談して最下級品を買うつもりだった」
「……まぁ、貴方ならばそんな装備で大迷宮に潜っても大丈夫なんでしょうけど。というか祖父母から聞いた話からして、本来ならば装備自体いらないんでしょうけど」
彼は最早諦めの境地にいた。しかしお前の爺婆は俺の事を何て言ってたんだ?
「それにしても、テンザン大迷宮ですか。魔水晶を取りに行かれると仰いましたな?」
「主目的はね。折角行くんだから、墓参りもしてくけど」
懐かしい。あの地で眠る人々の顔が脳裏に浮かんでは消えていく。
「しかし【異世界転移】を込められるほどの魔水晶があるとは驚きました」
しかしそのダイジェストは会話が続いたことで途中で止まった。
「あぁ、あるよ。昔『爆ぜルンです』を作った時に使った魔水晶の残りとかね」
「……あの、トーマ様。少し宜しいでしょうか?」
何だ、と視線で問うとグラドは言い難そうに口を開いた。
「その、貴方がかつて『厄災』との戦いに向けて魔法兵器を数多開発してきたのは聞いています。相手が相手ですからな、それに関してはとやかく言うつもりはありません。しかし……その『爆ぜルンです』もそうですが、もう少しネーミングは何とかならなかったものか……」
「いいんだよ、これで。ただでさえおっそろしい威力の兵器なのに、名前まで恐ろしくしたらただただ恐ろしいだけじゃないか。名前で中和してるんだよ」
「しなくていいです。実際に恐ろしい兵器ばかりではないですか。まさか、まだその兵器達は現存しているので? その『爆ぜルンです』とやらも、話に聞く限りではとんでもない! もしもこのウサでそれを起動しようものなら、1発で街が壊滅するのではないですか?」
「確かに現存はしてるだろうし、使えばウサは壊滅するだろうねぇ。肝心の『厄災』はアレを5発食らっても死ななかったけど」
「ただの化け物ではないですか」
「そうだよ」
素っ気なく返すと、グラドは虚を突かれたようだった。俺は自嘲を交えた笑みを浮かべる。
「『厄災』は化け物さ。だから俺も、その化け物を倒すためには化け物になるしかなかったし、黒大陸を無茶苦茶にしなくちゃいけなかったんじゃないか……まさかお前、俺が好き好んで化け物になったり大陸を1つダメにしたりしたとでも思ってるのか?」
自覚はしてる。俺は可笑しい。だからこそ、死んだことにしてまで表舞台から消えたのだ。
言葉に詰まったらしいグラドの肩をポンと叩き、些か強引に会話を本筋に戻す。
「まぁ、心配するな。あの魔法兵器達は俺が魔力を流し込まないと起動しないし、俺があれらを使うことは無いよ。ダイゴとも『非魔法兵器三原則』を誓ったしね。魔法兵器をこれ以上使わず、作らず、待ち出さずって」
だから安心しろ。そんな悲しそうな顔をする必要は無いんだ。




