生謎ー生きる謎ー
ー幻想郷、紅魔館
レミリアの発言により、突然大勢の注目を浴びることになった凍樹。
彼は少々ひき気味に挨拶らしいものをしてみた。
「え、ええっと…どうも?」
しかし誰からの返事もない。
もしかしてまだなにも知り合っていないのに、嫌われているのだろうか。
そんなことを凍樹の脳内で考え始めた時だった。
「うわああぁぁぁっ!?」
一同、再び突然の行動にでた。
揃って大声をあげている。
よほど驚きだったようだ。
これにはさすがの凍樹も動揺した。
「貴方たちうるさいわよ?」
そこへレミリアの叱責が合わさる。
全くだと言わんばかりに、凍樹がどんよりとした視線を送った。
「す、すみません…貴方が幽霊みたいだったもので」
それは遠回しに凍樹のことを煽っているのだろうか。
「それで紅魔館の主様、この方を侵入者と紹介したということはそういうことなのですね」
「ええ…この異変は外界の一般人も巻き込んだものらしいわね」
「それはマズいですね…」
「あの、さっきから幽霊とか一般人とか…なんか失礼じゃない?」
「気にしないでちょうだい」
「いや、するんだけど…」
「貴方、名前は?」
ここで永琳がひとつの問いかけを凍樹に送った。
この質問の真意はひとつだ。
名前がわかれば、彼が一般人か関係者かがわかるはずだという考えからくるものである。
「魂魄凍樹…だけど」
「魂魄…?」
どうやら永琳の読みは当たっていたようだ。
この名字をもつ者など、この幻想郷にはひとりしかいない。
少なくとも外界の一般人にもこのような変わった氏を持つ人間は少ないだろう。
ならば、先程レミリアの言った読みは外れている。
しかし代わりに有益な情報が手に入った。
現状、永琳の脳内では凍樹は継との関わりは持たないものと確定されている。
「では凍樹様、妖夢という名に覚えは?」
「え、ないですけど…」
その言葉を聞き、永琳は明らかに動揺した様子になった。
凍樹が妖夢という人物を知らないのは当たり前であるが、それを永琳は知らないのだ。
「……そうですか」
「その、妖夢…さん?がどうかしたんですか?」
「いえ、ただ貴方と名字が同じだったので気になりまして」
「名字が?」
「ええ」
「その話、もっと詳しく――」
凍樹が食い下がって聞こうとした時だった。
「皆、伏せて!!」
レミリアの怒声が響いた直後、紅魔館正面入口が激しく崩壊した。
「――!?」
一同が一斉に臨戦体制になる。
凍樹も腰にかかる刀を力強く握った。
土埃と共に、誰かが堂々と館の中へと踏み入ってくる。
「誰…!?」
レミリアがその何者かに向けて威嚇した。
しかしその歩みは止まらず、ゆっくりと中央まで進んでくる。
「やあやあやあやあ、諸君!僕のショウは気に入ってくれたかな?」
真っ黒な影に包まれた正体不明の覆面背広。
言葉にして言うにはこれほど似合う説明はないだろう。
まさに「それ」はその言葉を体現していた。
全員が警戒する中、覆面背広はまだ続ける。
「この異変も、プレゼントだからね。ありがたく受け取ってくれると嬉しいよ」
「何を…ッ!」
「アイツ、自分でこの異変の首謀者だと名乗った!?」
この幻想郷へ来たばかりの凍樹も、目の前の謎が一体どれほどのものなのか…その恐怖をとくと感じている。
「皆さん、警戒を!彼は得体がしれない…それに、柔らかい口調をしていますが敵意がむき出しです!」
「あいつ、わたくしを殺せるかしら?」
いつもの様に輝夜が余裕たっぷりの口調で覆面背広を煽った。
「なんだい?君、殺してほしいのか?」
覆面背広が輝夜を無い目で睨んだのがわかる。
その瞬間、流石に全員が悟った。
この全身が既に彼の手のひらの上だということに。
頭の先から爪先まで、嫌悪してしまうような感覚だ。
「……ッ!これは、想像以上ですわ…わたくしたち本当に殺されてしまうかもね」
「姫様が余計なことを言うからでしょう…!?」
「マズいわね…永琳が言ってた侵略者と違うのが来るなんて…」
「お姉さま、あいつぶっ壊してもいーい?」
「絶対にだめよ」
「あいつとか壊すとか物騒だねー…僕はそこまで嫌われてるのかい?」
「それだけの殺意を放っておきながら随分な言い様ね。お前の未来も読めないし…一体何者?」
そう訪ねるレミリアの頬には冷や汗が短く伝っていた。
「僕が何者なのかなんて関係ないだろうに…知ってどうする?」
「あら、過去を覗かれてお怒りかしら…」
レミリアはその鋭い目付きは変えないものの、口元には難しい笑みを浮かべている。
「そうだね、君の力は強いよ。あの一瞬で僕の過去を観ただなんて…実に面白いじゃない」
覆面背広の声も無意識のうちに高くなっている気がする。
「それは光栄ね。この異変の首謀者にそんなことを言ってもらえるなんて」
「よく言うよ…じゃあ敬意をもってして、君から殺してあげよう」
「冗談かしら、私を殺すですって?」
「ああもちろん」
「お前こそ、死ぬ結果ぎ見えてるようなものよ!」
そのレミリアの言葉を最後に、背広と彼女の体が高速で動きだした。
二人がもといた場所には床が蹴りあげられて瓦礫が飛んでいる。
その後、強い衝撃波が辺りに響いてレミリアと背広の腕が取っ組まれ合っていた。
「紅魔館の主は血気盛んなのかしら…わたくしよりも先に手をだすなんて!」
「お姉さまずるいー!」
端で見守るギャラリーの中には二人程ブーイングを叫ぶものもいるが、空気の読めない彼女らを除いてこの場にはただならぬ緊張感が漂っている。
主に永琳だ。
右手の人差し指を唇に軽く当て、熟考する姿勢で目を光らせている。
当然会話の一言一句を漏らしはしない。
「あははは!なかなか面白いじゃないか、僕の力を上回るなんて。これだから吸血鬼は…」
「そうは言っても、貴方はまだ本気ではないでしょう?」
「勿論…」
そう答えた覆面背広は左拳を頭上に挙げて開閉を数度繰り返した。
およそ三度目の展開で、その掌から黒いアメーバのような物質が飛び出す。
四方八方に触手が伸びて、壁や床に固定された。
「なによ、これ!」
先ほどとは違う攻撃に、レミリアだけでなく回りにいる者たちも一度距離を取る姿勢になった。
そして次の瞬間、独特な音が放たれて黒い泥はさらに触手を増やした。
「まさか、スペルカード!?」
「…よくわかったね。まあ、この音じゃ誤魔化しようがないけどね」
「でもあり得ない。スペルカードは博麗の巫女が…」
「彼女なら来れないんじゃないかな?」
「殺したの…!?」
レミリアは驚いて聞き返した。
その問いに覆面背広はそうかなと、とぼけた回答をする。
「ふざけないで…ッ!」
怒声と共にレミリアは自信の最も使う武器、神槍グングニルを虚空から取り出した。
「やっとだしたね、それを」
「これで、お前を殺してやる…!」
ー第8章ー
生謎ー生きる謎ー
黒影と紅魔館の正面衝突




