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幻想郷侵攻  作者: 幽夢 継
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 起 理に敵わなかった真ー美離白尺ー

ー幻想郷、永遠亭


「輝夜様、ひとまず移動しませんか?」


ひときわ静かな竹林の中、ひとりの女性が声を潜ませる。

暗転する空の下は、夜ということもあってよく声が響く。

彼女はこの永遠亭を納める主、蓬莱山(ほうらいさん)輝夜(かぐや)に使える者、八意(やごころ)永琳(えいりん)だ。


「どうかしたの?えーりん」


永琳の隣に立つやや長髪の少女。

彼女こそ、蓬莱山輝夜である。

不思議そうに見つめてくる輝夜に、永琳は少し警戒を灯した声で答えた。


「侵入者のようです」


心なしか永琳の目付きは鋭くなっている。

しかし普段から見ない永琳の様子には気付かず、輝夜は愉快を溢(こぼ)す。


「へえ、面白いわね。対峙してみようかしら」


「ダメです。彼と戦っては」


いつも以上に深刻な状態なのだ。

永琳の冷静さは見当たらず、そこには若干の焦りが見られる。

過去には知識の神とも呼ばれたことのある永琳がここまで取り乱すことなど今まで無かった。

恐らくこの先もあり得はしないだろう。

流石に自由奔放な輝夜も気を張り詰める。

そして慎重に言葉を返した。


「…どうしてかしら」


「彼とは昔に会ったことがあります。…と言っても、彼は覚えてないでしょうが」


「何か関係あるのかしら?」


「それが…私があの子を見たときに感じたのは、恐怖だったのです」


「え…?」


「彼は当時赤子でしたが、あれは生まれながらに超越していました」


「それは、面白いわね」


「姫様…!」


訝(いぶか)しげに睨む永琳を横目に、輝夜はスタスタと歩きだした。


「彼があれからどんな風に成長したのかはわかりませんが、関わるのは反対です。今ならまだ間に合うかも…」


「えーりん、わたくしは毎日が退屈なのよ。確かにここの娯楽は素晴らしいわ。でも、その超越者とやらをこの目で見てみることに勝るのかしら」


「あまりにも危険です。せめて、てゐに偵察をさせてからでも遅くはないでしょう?」


「……わかったわよ。そこまで言うなら付き合ってあげる」


いくつかの言葉を重ねた上で了承したものの、輝夜の瞳には確かに不満を持ったものがあった。

輝夜は足をとめて振り返る。


「でもえーりん、ちゃんと楽しませてもらうわよ」


その表情はいつもの輝夜だ。

自由に今を楽しもうとしている。


「もちろんです」


永琳も自信を含んだ声色で返す。

そして別の誰かに呼び掛けるように続けた。


「てゐ、偵察をお願いしてもいい?」


「は?なんであたしが…鈴仙がいるじゃないか、真面目だけが取り柄のさ」


どこからともなく少女の声が聞こえてくる。

しかしすぐさま竹林の影からその声の主は出てきた。

片目を閉じ、口には生の人参が挟まれている。


「あの子の波長操作が通じない相手なの。いいから手を貸してちょうだい」


「嫌だよ。それであたしに何のメリットがあるのさ」


その言葉を聴くなり、永琳は静かな笑顔だが決して笑ってはいない目の表情で語る。


「あれを放っておいたら、ここら辺が更地になるかもね。そうなればもちろん、あなたの寝床も隠してるお宝も、全部なくなっちゃうわね」


「…冗談に聞こえないんだよな、永琳の言うことは。これだから嫌なんだ」


少女は悪態を付きながら永琳の方へ近づいてきた。

そうして目の前まで来ると、ひとつため息を吐いてから諦めように言った。


「わかったわかった、行けばいいんだろ?行くよ。…でもさ、こんな危険なことするんだ。例の月の薬草の種ぐらい貰わなきゃ損ってもんさ」


「ええ、役に立てばね…」


対する永琳は不適な笑みを浮かべている。

思いどおりに動く彼女が可愛く見えるのだろう。

目の前で交渉が成立してはしゃぐように笑う少女と違って、永琳はただ恐ろしく映った。




ー迷いの竹林ー


人気(ひとけ)のない竹林の中、ふたりの男女が突き進んでいた。

男の方はは黒髪短髪で緩い格好をしている。

その隣を一本遅れて行く少女は目立つ金髪で片方を括ったサイドテールにしていた。

この特徴的なふたり組の招待は一見してもハッキリとわかる。

黒髪の青年は先刻、幻想郷を奪取すべく侵入した幽夢(ゆうま)継(つぐむ)。

金髪の少女は先刻、行方不明とされた紅魔館の娘フランドール・スカーレットだ。

少女は脱力したように手をぶらぶらと下げて、だらしなく歩いている。

その背中の羽も、浮かぶ宝石が月光を反射するだけで垂(しだ)れていた。


「お兄ちゃん、もう疲れたー」


フランは目にシワを寄せ、ご立腹の様子だ。


「もう少しのハズなんだけどな…おかしいなぁ」


一方継の方はなになやら空を見上げて唸り声をあげている。


「さっきから緑ばっかり、つまんない!」


一向に変化を示さない状況に、ついにフランの限界がきたようだ。

継の肩に乗りかかり、ここから一歩も動かないと言わんばかりに押さえ込んでくる。


「あ、ちょっ…バランスが…」


案の定、バランスを崩した継は竹林の中に伏せる格好になってしまった。

砂埃が舞い、視界を制限してくる。


「いててて…」


次に継が起き上がろうとした時には、仰向けになった身体の上にある違和感を感じる。


「ん…?」


当然ながらにそれは疑問へとつながる。

しかし継が考えるよりも先に答えは見えた。

倒れた継を押さえつけるようにして乗っかるフランの姿があったのだ。


「え…?え…?」


当然ながらに継は混乱する。

まさか自分が幼女に転ばされるなど、想定してはいなかっただろう。

まだ状況が飲み込めていない継に、追い討ちをかけるようにフランは言った。


「…おんぶして」


目を見るに冗談ではない様子。

これで断ろうものなら何をされるかわからないだろう。

継も数秒の間思考を巡らせたが、結局は諦めて素直に従うことにした。


「…わかったよ」


そのままフランを抱えて立ち上がる。


「お、お兄ちゃん!?これおんぶじゃ…」


「こっちの方が良いだろ?お姫様抱っこ」


継の腕の中で頬を赤らめながらうずくまるフランに、継は笑って見せる。

端から見れば、継はものすごくキザなナルシストに相違なく映るだろう。

少なくとも、それを遠くから見つめていたてゐはそう感じたハズだ。


「ふーん。あれが例の侵入者…なかなかにイカれてる奴だね。あそこにいる子どもは誰だろうな…見ない顔だが、妹かな?」


その後もてゐはぼそぼそと独り言を繰り返し、観察の目を磨(と)ぎ続ける。


今、継がフランを抱えて移動し始めてから暫くが経った。

以前、ふたりは竹林を進んでいる。

眺めは変わらず周囲には細長くそびえ立つ緑の竹一色である。


「お兄ちゃん。今、どこ向かってるの?」


「永遠亭ってとこなんだけど…見当たらないね」


「わたしね、アイツ…お姉さまに教えて貰ったことあるの」


「へぇー…何を教えてもらったの?」


「えっとね、永遠…亭?って、結界か何かで守られてるって」


「え…?ホント?」


「うん」


「マジか…」


継の顔がしぼんだ。

両目が閉じられて眉が寄り添う。

難しい顔をしたまま、何かを考えているようだった。


「うーん…ちょっと訊いてみようかな」


少しして出たのはそんな言葉だった。

フランに問うようにして言った継が一瞬後方へと目を向けた。

その反応を見たフランも、同じように背後の方へと注意を向ける。

その後、何もない竹林を目にとめて訊く。


「…だれに?」


疑問を飛ばすフランに、継はニヤリと笑って返した。


「そりゃ、ここの住民にかな?」


その瞬間、継はある人物と目線を繋げた。

一線で描かれた先にいたひとりの少女に、その眼球は向けられる。


「―!?」


突然のことに驚きふためきながらも、目線だけは離さなかった。

少女は因幡(いなば)てゐ。

永遠亭の住人で、狡猾な性格の持ち主である。

怯えを見せるてゐに、継は構わず言葉を送る。


「ねえ君、ちょっと道案内をお願いしてもいいかな」


一方的に語る継に、てゐは最大の警戒心をもって応える。


「あんた、見ない顔だけど…こんなとこに用でもあるの?」


話しながら歩み寄って来る人影。

背格好はフランと同じぐらいの子どもだ。

月光の影響で、若干顔は見えずらくなっているが、その頬には冷や汗が伝っているのが見える。


「特に用はないんだけど…強いて言うならなんだろうな。協力者が欲しい…かな?」


「なんで疑問系…まあ大体はわかったけどさ」


「なら、案内頼めるかな」


「ちょっと待ちな。タダでとは言わないよな?」


継の砕けた態度とは裏腹に、話が通じるとわかったてゐは交渉を仕掛けようとしていた。


「え、金取んの?」


対する継の顔が不満に変わっていくのがわかる。

だが絶対に避けるといった強い感情は入っていないように見えた。

それを見逃すわけもなく、てゐは続ける。


「そりゃそうだろうよ。アンタみたいな他所もんを連れてけば、あたしだってなに言われるか…そんな無茶ごめんだよ」


てゐは片目だけ開いてチラリと継の様子を伺っている。


「それもそう…か」


納得はできないものの理解はしたようで、継も考え込む顔になった。

そして、フランも一緒になって難しい顔になる。

継の腕の中にいるフランは右手にある人差し指を唇に当て、左手でそれを支えるようにして添えた。

彼女の脳内を今何がめぐっているかは不明だが、継の方では結論がでたようだ。


「いいよ。君の望みはなに?」


実に曖昧な返答だがてゐはそれを理解したらしく、元気が有り余りそうなぐらいうるさい笑顔を作りだしていた。


「交渉成立だ、侵入者さんよ!」


聞こえのいい言葉が飛んでくると共に、てゐはその頭にある長いウサギ耳を愉快に動かした。

フランはその特徴的な耳に目を光らせる。


「じゃあ自己紹介だ。あたしは因幡てゐ、この先にある永遠亭の者だ」


先程のような強い警戒は無くなれど、全ての払拭はせずにある程度の情報は伏せているようだ。

まさに形だけの紹介である。

継も同じように応える。


「僕は幽夢継。知ってると思うけど、この幻想郷を――」


「…あっ、思い出した!」


途中、継の台詞を遮るようにフランが口を挟んだ。

先程から考えていたのはこのことなのだろうか。

言葉どおり、何かを思い出したフランは続ける。


「そこにいる子、前に会ったことある!」


「…え?」


継、てゐが唖然とする中、フランの声が高らかに響いていく。


「私ね、昔あの子に騙されたんだ」


想定外の発言。

フランは無理矢理継の手から降りると、まるで仇を前にしたように人差し指を向けた。

あんぐり開いたてゐの口は塞がらず、理解不能を固定させている。


「あたしがいつ騙したって…?」


基本竹林を離れないてゐ。

そして基本城の地下にいるフラン。

ふたりが出会う場合など、かなり限定化されるハズである。

てゐ至ってはフランのことを覚えてなどいなかった。

しかし、過去にふたりが出会っていたというのは事実であった。

それは今から約2年前。

大きな異変が発生し、幻想郷が脅かされた時が過去にもあった。

その時は珍しく首謀者が輝夜だったのだが、あいにく永琳との交渉で上手く利用されたてゐもそれに関わっていたのだ。

無事、博麗の巫女やその協力者によって異変は解決したのだが、その後に行われた大宴会に出席した際だった。

当時たまたま面白半分で参加したフランと、儲け話に釣られたてゐ。

ばったり出会ってしまったのである。


「あんた、新顔?いい服着てるね」


「これはお姉さまが…ところでアナタは?」


「あたしは因幡てゐ。迷いの森の案内係さ」


「私はフランドール・スカーレット。あそこの紅魔館に住んでるのよ」


「あのでっかい館の娘か!?」


「そうなの、あなたの永遠亭…?も広いの?」


「まあ、そうだな。それよりさ、いい話があるんだけど――」


その後フランはてゐの話に乗っかり、あれこれと無駄なものを買わされたのだ。


「私、忘れてないんだからね!」


「ああ…そんなことも、あったかも?」


「むーっ!」


「あはは…」


頬を膨らませて怒りを顕(あらわ)にするフランに、てゐは苦笑いを浮かべながら後ずさる。


「お兄ちゃん、わたしコイツのこと信用できない!」


そう言ってフランは指をさしながら継へと訴えかけている。

当然、継が何を言おうと納得はしないだろう。

故に継は打開策を打ちだした。


「わかった。じゃあ僕はあの子を信じない。…でも、道案内はお願いしてもいいかな」


「……それなら…わかった」


少し曖昧な返答だが了承が得られただけでもよしとする他ない。

しかし、こうもはぐらかしているとまたいつフランが怒りだすかわからない。

結局、継は自分の考えを教えることにした。


「フラン、確かに僕は彼女に頼らなくても永遠亭には到着できる。でも、わざわざ偵察しにきてまで僕の情報を得ようとしたってことはあくまで様子見…要するに相手さんは敵対意識なんてないんだと思う」


確認するように、継はてゐへと視線を移す。


「だったら、僕は客人として招待されたいのさ」


再びフランに目を通す。

再確認のためだ。

より継の意見を理解してもらう必要がある。


「…そうだったんだ!」


フランの言葉には先程までの不機嫌さはない様子だ。

ひとまず先に進めるという状況まで持ち出した。


「じゃあごめんだけど、案内…よろしくね」


「あたしだけ腑に落ちないな…」


ひとりだけ置き去りにされたてゐはそんなことをぼやいた。


「謝っただろ?報酬は倍にするから。許してくれ」


「…倍!?そりゃまた…スッゴいな!」


今のやり取りで、継の中でのてゐは単純だという認識を得た。

継にとって扱いやすい人物はすごく良いものだと考えている。

最低限ビジネスとしての関係。

フリーランスである継には親しい友人などを持っても関わり方がわからないのだ。


「さて、じゃあ行くか。永遠亭――」



ー幻想郷、どこかの森



暗がりに包まれた幻想郷は、どこか静けさを保っているようだ。

虫の音ひとつ聴こえず、静寂が延々と続いている。


――ガサガサ…


木々を分け入って進む音。

おまけにぼそぼそとした独り言をこぼしている。


「…もうずっとここら辺を歩いてる気がする…いったいここはどこなんだ…?」


その声の通りここ暫くの間、木の葉の擦れ合う音が繰り返されているようだ。

既に日没後。

辺りに見えるのは樹木のみ。

彼からすれば、この状況はおそらく絶望的だろう。

しかしその足は留まることを知らないらしく、足早に動いていた。


「おじいちゃんだって居ないし…なんだってこんなことに…」


無意識なのか、声にはやや憤りを感じる。

そのうち、ようやく見えた一筋の光があった。


「…あれ、光…?」


疑いつつも、青年はそこを目指して歩いていく。

近くまで寄ると、それは月光だった。

やがて少し開けたところに出る。

そこへさっと風が透き通り、青年の全身を駆けていった。

真っ黒な空の一面には数多の星が散りばめられて不規則に光っている。

まさに幻想。

天の川など見えはしないが、それに似た神秘を感じる。


「…ホントにどこだよ、ここ…」


青年が目覚めたとき、辺りは日光の下であった。

しかし今やそれをみる影なぞ存在しない。

約五時間の間を青年は無駄に過ごしていたとわかる。


「…貴方、何者?」


突然、青年の背後から声がした。

声色は尖っていて、やたら冷気を放っている。


「え?」


青年は振り返りながらに反応した。

しかしその目には意外なものが映り込んでいる。

頭にはナイトキャップ。

統一されたカラーリングのドレス。

小さくも威圧的な身体からはみ出て見える謎の羽。

きわめつけは紅に染まる鋭い眼光である。

一瞬ちらつく伸びすぎた八重歯を見れば流石にわかる。

ドラキュラか吸血鬼の類いだ。

青年の脳に少しの緊張が走る。

そして左手で支えている刀を確認するように触った。


「もう一度訊くわ。貴方、何者なの?」


先程と同じ質問。

彼女は相対する青年のことを警戒している様子だ。

青年は息を呑みゆっくりと回答を述べた。


「俺は、魂魄(こんぱく)凍樹(とうき)…君こそ誰?」


「貴方に名乗る必要はない。だって…今から殺すもの」


「なんだって――!?」


言葉はそこで絶え、次の瞬間には凍樹の身体は宙に浮いていた。

遅れてやってくる衝撃音に耳を抑えながら周囲を確認する。

さっきまでいた森の木が真上にある。

逆さまになっているのだ。


「ぐっッ…!!」


空中では踏ん張りが効かない。

重力に流されるまま凍樹は落下していく。


「…哀れね」


そう言う彼女の瞳には以前、殺意を宿しているようだ。

自由落下していく凍樹に対して少女は攻撃を繰り出す。


「『神槍・グングニル』!!」


怒声である。

彼女の呼び掛けに応じるように、その掌からは異質な光を放つ棒が出現した。

その身体の倍以上もある長槍を片手で扱い、大きく回しながら刃先を凍樹に向ける。


「マズい…!!」


凍樹の反応が遅れる瞬間。

その大槍が凍樹の首筋を掠れる。

血飛沫(ちしぶき)が宙を舞い、槍が放たれた方向へと流れた。


「…ッ!?」


動揺したままの凍樹を、少年は追撃にかける。


「逃さないッ!!」


少年が着地する寸前で、再び体内の違和感が働く。

内臓が一気に捻られる感覚。


「くっ……ッ!!」


上手く空へと投げ出された凍樹はまたしても平衡感覚を見失う。

そこへ少女の猛攻。

…しかし、あの大槍はこれ以上凍樹を傷つけることはなかった。


「――!?」


少女の驚愕した表情の先には、一本の刀があった。

重たい槍をその細い刀身で防ぐ。

言えば簡単だろうが、事実はより難しくなって再現される。

だが、凍樹はそれををやってのけた。


「このままやられてたまるか!」


以降凍樹の眼球は白く変色し、鋭さを増す。

それは相対する少女に向けられた。

同時に、凍樹は平衡感覚を取り戻す。

彼が仰向けで落下する途中も何度か激攻は反発しあった。

結果、地面に着地した後もそれは続く。


「この強さ、少し厄介ね」


「あんたこそ。あとなんで俺に攻撃してくるの?」


「…解りきったことを!」


「いや、全くわからんのだが…」


「じゃあこの惨状はどう説明するつもり?」


少女に言われ、凍樹は周りに目を向ける。

気付けば砂埃が充満し、辺りは完全に更地となっていた。


「いや、これ君もやったでしょ…?」


凍樹のいう通り、この惨事はほとんど彼女のせいである。

しかし、少女の目付きは変わらない。

そのまま無表情で口を開く。


「…さあ」


「…さあ!?」


とたんに凍樹の目が丸くなる。


「流石に無理があるでしょそれ」


「どうしたの?今更命乞いかしら」


「いや違うけど…」


「違う…?貴方、死ぬのが怖くないの?」


「逆に怖くないやついるのか?」


「いないでしょうね」


「でもどうして俺を狙うんだよ」


「だってこの異変の首謀者は貴方よね?」


「異変…?」


「知らないの?今幻想郷ではありとあらゆる異変が混雑しているのよ……知らないの!?」


ここで、ようやく少女の誤解が解ける。

頬に汗を流し、フリーズする彼女に凍樹は加えて言った。


「そもそも、ここがどこなんだかわからないんだけど?」


「じゃあ貴方、侵入者じゃないってこと?」


「と言われてもな…」


「じ、じゃあフラン…私の妹を見なかった?」


「…わからん」


「私と同じ格好で、金髪で、サイドテールで、どんなものでも破壊しちゃって…とにかく可愛い子なのよ!」


「…最後のやつだけ物騒だな、おい」


敵ではないとわかったとたん、彼女の態度は一変した。

凍樹に向けりていた殺気は今や皆無である。

その反応にやや危機感を覚えた凍樹だが、すぐにいろいろと訊かなければならないことを思い出してひねり出した。


「えっと…まず俺は敵じゃないってことは伝わった。で、いいのかな?」


「…そうみたいね。私の早とちりだったみたい。…悪かったわ」


意外に素直な反応。

凍樹は質問を続ける。


「あと、君の名前は?」


「私は紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」


「……えーっと、それ本名?」


「当然でしょ?」


「うわ中二病だ…」


「何か言った?」


「いや、何も!それより、さっきここが幻想郷だって…どういう意味?」


「そんなことも知らないの?じゃあどうやってここへ来たのよ。…貴方何者?」


ここでまたレミリアの表情が険しくなる。

さっきとはまた違った、警戒の目をしている。


「ただの人間だよ。迷子の…」


言いながら凍樹は虚しくなった。

齢十七にして、迷子。

実に珍しい。


「貴方がこの異変の犯人じゃないにせよ、一度紅魔館まで来てもらおうかしら」


「どうして?」


「監視の意も含めて、貴方にはいてもらわないと」


「ああ、そういう……わかったよ」


「案外あっさりしてるのね」


「俺自身、もうくたくたで。ここじゃないとこならどこでもいいんだ」


「そう……貴方も大変だったのね…」


今度はレミリアから向けられる哀れみと同情の目。

これも、凍樹からすれば幼子に慰められているような感覚で辛いだろう。

その証拠に、空を仰いで涙しているのがわかる。


「…何してるの?早く行くわよ」


「……へい」


気力のこもらない声をだしながら、凍樹は彼女の後を追っていく。


しかし、まだ先は長そうだ。





ー第五章ー

  起 理に敵わなかった真―美離白尺(びりはくしゃく)―

 幽夢継及びフランドール・スカーレット、永遠亭への接近。

 魂魄凍樹、レミリア・スカーレットとの遭遇。


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