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幻想郷侵攻  作者: 幽夢 継
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2/16

幻想入りー魂魄凍樹ー

幽夢(ゆうま)継(つぐむ)の幻想入りから七時間と十二分…

博麗神社にヒビが入る。

その四分後、守矢神社にヒビが入る。

二分後、紅魔館にヒビが入る。

五十二秒後、永遠亭にヒビが入る。

三十秒後、黄泉に。

十二秒後に幻想郷に刀が現れる。


その二秒後…魂魄凍樹が幻想入りをする。


現在、幻想郷を巻き込む…いや、呑み込む…漆黒の暗雲が発生した。

かつてない超異変と同時に発生したヒビは加速し、幻想郷を殺していく。

磁界が崩壊する。

光が二秒間なくなる。

植物が枯れ始める。

水がなくなる。

四季…季節が消失する。

あらゆる異変という異変が同時に起こり、事態は終息することがなくなっていた。

そして幻想郷に、初めての絶望が誕生する。



――幻想郷、紅魔館(内部)


「咲夜」


「はい、お嬢様。ただの異変ではないでしょう」


「パチェは今どこ?」


「…レミィ?」


レミリアの呼びかけに答えるかのように、無表情な少女が顔を出してくる。

紅魔館書庫に住まう魔女、パチュリー・ノーレッジだ。

それに対し、レミリアは驚くでもなく焦るでもなく、ただ冷静に返事をした。


「どういう異変かわかるかしら?」


「…さっぱり」


「そう…しばらく様子見というわけにもいかないわね」


「どうする?」


「博麗の巫女のところへ行くわ。なにかわかるかもしれない…」


レミリアは真っ黒で不気味な雲が覆う空を見て言う。

それから周りの表情を観察する。

明らかに暗い。

まるでこの空の色と同じように。


「咲夜、フランを探して」


「…レミィ、フランならちょっと前に城を出て行ったけど?」


「…え?」


「まさか妹様…⁉」


「パチェ、それはいつ⁉」


「…結構前…かも」


「嘘でしょ…」


先ほどまで冷静を保っていたレミリアの表情にも焦りが出てくる。

しばらく俯いてから、即座にフランの後を追おうとするレミリアに咲夜は言った。


「お待ちくださいお嬢様、どうか単騎での突撃は…‼」


「……わかってるわ」


一瞬冷静さを欠いても、レミリアは賢い。

すぐに正気を取り戻し、言い放つ。


「…でも、もし現状の事態が意図的なものなら、私はこの異変の首謀者と対峙する必要があるわ」


「お嬢様…」


その言葉は重く、鋭く尖っているように聞こえた。

言動からもわかるように、レミリアは憤っている。


「必ず見つけ出すわ、フラン。待ってなさい…!」





――


三年前…ある新聞が、親子の悲劇を語った記事をだした。

まぎれもなく凄惨な事故だった。

親子の関係は引き裂かれ、一人残された少年は生きる意味を完全に見失ったのだ。

その少年は魂魄(こんぱく)凍樹(とうき)。

当時、彼は既に高校生だった。

ある程度の心根はしっかりしているだろう。

しかし、殆ど関わりのなかった家族ではなかった。

十数年を共に生き、暮らしてきた家族だったものが、突然に失われたのだ。

当然高校生であれ、それは精神的につらいものがあった。

現在凍樹は、幸運にも拾ってくれた祖父の妖忌(ようき)と一緒に暮らしているが、ふとたまに見るのだ。

あの日の事件のことを。

燃え上がる炎の中、二台のワゴン車がひっくりかえっている光景と、自分の父親が何者かと剣を交えている姿を。

最近の彼はそれを毎日のように夢見ている。

まるでこの光景が『何かに気づけ』と言われているような感覚を受けて目覚めるのだ。

今日も自身の父親が殺される瞬間を目にし、朝日を浴びる。


「さて、顔洗うか…」


凍樹は呟き歩き出す。

それから約二十分。

洗面台で顔を洗い、朝食を済ませてから庭にでた。

まだ早朝というのもあってか、実に清々しい日差しが降り注いでいる。


「凍樹よ今朝は目覚めが早いな」


縁側のほうから、別の男が出てくる。

素朴な浴衣を羽織る老人だ。

白髪に長い顎鬚を伸ばしていた。


「おはよう、じいちゃん」


「ああ」


互いに短い挨拶を交わし、目を合わせる。


「凍樹、今日の稽古は無しだ」


「えっ、どうして?」


「代わりに別のことを頼みたい」


「何をするの?」


「家の裏に倉庫あるがあるだろ」


「あ~確かにあるね…どうして?」


凍樹は少し考えるそぶりを見せる。

彼の小顔についている目が細くなったり大きくなったり、なんとも面白い反応である。

しばらくそうしているうちに一つの回答を見つけ出したようだ。

一瞬冷や汗が頬を滴ったと思うと、凍樹の表情は一遍した。


「ま、まさか…?」


「ああ、そこの掃除を頼みたい」


「えぇ………っひとりで⁉」


「そうだ」


凍樹の反応を見れば分かるであろう。

いかにも。

裏庭の倉庫というのは想像を絶する汚さを誇る物置部屋のことである。

要するに無茶ぶりだ。


もの言いたげな凍樹に、妖忌は睨み返して威圧する。

何度かチラチラと交差する凍樹の視線はやや不満そうに見える。


「…わかった。ひとりでやってくる」


ぼそりと言い残し奥の方へと歩いて行った。


五分後、凍樹は古い蔵の前に立っていた。

深緑のパーカーに黒色のジーンズの服装。

右ポケットには妖忌から授かった蔵のカギが入っている。

小指くらいの大きさで、持ち手に魂のような見た目の装飾がなされている。

凍樹の右手はそれを掴み、正面に構えている蔵の錠の中で回した。

後方から差し込む日差しに照らされ、中から噴き出た埃で反射される。

何十年も開けられなかったことがよくわかる。


「……うん、知ってた」


舞い散る埃にむせた後、凍樹はその左手にある懐中電灯で照らした。

まず目の前にあるものだけでも手のかかりそうなガラクタがある。

ここでひとつ大きなため息を混じえて、作業に取り掛かった。


「こりゃ、手応えありそうだな……」


あれこれとしているうちに、思ったより時間がたっていたようだ。

凍樹がふと見上げた先にあった時計を見ると、蔵に入ってから約二時間が経過しようとしていた。


「おっと、もうこんな時間か…」


座って作業していた凍樹だが、突然立ち上がり伸びをする。


「…あと少しだな」


そう吐露した言葉には、当然ながら元気はない。

一旦休憩でもしようと思ったのか、凍樹は一度出口まで歩こうとした。

だが、そうはならなかった。

なぜか?

理由は単純で、ガラクタに足元をすくわれて無様に転倒したのだった。


「うおぉっ……⁉」


幸い、持ち前の反応速度で手をついてケガは回避できたが、その衝撃に耐えかねた木箱が頭上から降ってきた。


「いてて…なんだこれ?」


凍樹は落ちてきたものを拾い上げる。

そこには、薄汚れた古い木箱があった。

よく見ると、深い紺色で染色されている紐が固く結ばれていた。

左右が均等に分けられた蝶結びである。

加えて中央には札のような紙切れが張り付けてあった。

何か文字が書かれているが、朽ちていて読みづらくなっている。


「幻想郷ー入口ー…?」


凍樹は疑いの目線で言葉にする。

やがて札からは、その台詞を引き金にするように光が差し込み始めた。

そしてそれはあっという間に凍樹の全身を包み込んだ。

彼の感覚でいうと、それは一瞬の出来事だった。

視界は白一色で塗(まみ)れ、突然の出来事に混乱したのち…意識が途絶える。


―この時この瞬間に、凍樹は現世日本から…姿を消した。


数時間後、凍樹は木々の間から漏れる夕日と風に揺られていた。

木の葉が彼の視界に映り、異質な空気を感じ取る。

凍樹がもたれている大木も、奇妙な違和感を感じる。

静かに目を覚ませた彼は呟く。


「………は?」






 ー第二章ー

 幻想入りー魂魄凍樹ー


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