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幻想郷侵攻  作者: 幽夢 継
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展開帰章

ー幻想郷、紅魔館内部


砂埃が霧のように濃く舞っている。

それはまるで、周りの暗い雰囲気に呼応するように。

この時、確かに彼女たちは絶望していた。

味方と呼べる者の中で、最も強いと思っていた相手が、敵の策略にはまり打ち取られたのだから。

相変わらず空に浮かんでいるのは忌々しい黒影で、奇跡の力がもたらしたのは敗北の二文字だった。

それは先ほどまでの激戦を眺めていることしかできなかった諸君にも意味することである。

これは、永琳が誰よりも理解していることだろう。

その証拠に、彼女の瞳は震えて唇が歪んでいる。

しかし永琳はここでいつまでもひるんでいられない。

すぐさま状況の整理を済ませた後に、彼女のすぐそばにいる輝夜に言った。


「姫様、もう逃げましょう!あれはこの世の終わりです…!」


「さっきまで勝つ気でいたのに、随分な言いようじゃないかしら?わたくしはここに残りたいわよ」


「…死にますよ?」


「そうよ。これまで長いこと生きてきたけど、ここまで命が危ないと思うことなんてなかったわ」


「でしたら何故…⁉」


「あなたならわかっているでしょう?わたくしの真意を」


「……」


輝夜に言われたことが図星だったのか、永琳は少し黙る。

同時に目線も離した永琳に、輝夜は続けて言った。


「わたくし、この世界が死ぬほど嫌いなのよ」


「知っています…」


「もし本当にここで死ねるなら、それでもいいって思ってもいるわ」


「それもわかっています…」


「でも、あなたはわたくしに言ってくれたのよね。必ず楽しませてくれるって。なら、はやく実行しなさい…!いままで全部のことをあなたに頼ってきたけど、そのあなたが弱気なところは見たことがなかったのよ。どうしたらいいのかわからないし、そんな顔、ぜんぜん似合ってないわ!はやく!やり遂げて見せて…わたくしを楽しませなさい!」


言い方はかなり強引でめちゃくちゃだったが、言い切った輝夜はほんの少しだけ清々しそうだった。

それでも、本心から言いたいことを言い切ったような、真っすぐで濁りのない瞳をしている。

同時にその言葉は、永琳に深く突き刺さった。

この瞬間から彼女の決意も固まったらしい。

今度はまっすぐに輝夜の目を見て言う。


「では、もう一度約束しましょう姫様。必ずやあなたを楽しませると。だから今は、そのための準備として戦略的撤退をします…!」


「よく言ったわ、えーりん」


輝夜は自慢するように腕を組んで鼻を鳴らした。

しかし、そこへレミリアの冷たい言葉が通り過ぎる。


「ねえあなたたち。盛り上がってるとこ悪いけど、さっきも言ったようにここを離れるのは愚策よ」


「お姉さま…?」


フランも今回は永琳たちと同じ考えだったのか、自身の姉へ疑問の眼差しを向けた。


「運命が言っている。みんなここを動かなければ、ここでは死なない」


「根拠がない勘では…ないでしょうね」


永琳は言いながら考えを巡らせている。

そに頭の中は知る由もない。

ただ、彼女にしかわからない考えがあるのだろう。

それを知る輝夜はあえて何も訊かなかった。

次期に考えをまとめた永琳は口を開く。


「わかりました。その助言を素直に受け入れましょう。確かに少し考えればわかることでした…」


言い終えた彼女は自身への嘲笑混じりに呆れた表情を浮かべていた。


「姫様、私たちはここで反撃の刃を研ぐとしましょうか」


「おもしろそうね!」


―幻想郷、紅魔館周辺


荒地が円を描く様に広がっている。

周囲は常に霧のような砂埃と煙が立ち上っていた。

そしてその上に立つは黒い影。

先ほどより、継を相手取ってもなお優位を保っていた化け物だ。

黒影は一変してしまった周囲を眺めながら言う。


「うーん…継君の反応が小さくなったね」


その声色からは未だ余裕の雰囲気が感じられた。

しかし見えない表情は、実に面白くなさそうである。


「現人神(あらひとがみ)の彼女、その気はないと思っていたけれど…本当に実行するなんてね」


この状況はこの化け物にとっても想定外だったらしい。

不満を載せた愚痴のように言い捨てたそれは、次に地上に降り立った。


完全にへこんでしまった地表は半径数メートルを取り囲み、抉れてむき出しになっている。

そしてこの状況を引き起こした奇跡は、既に枯れていた。

現人神、東風谷(こちや)早苗(さなえ)の起こした奇跡は、もう奇跡(そう)とは呼べない状態である。


「随分無茶をしたね…」


黒影は、近くで意識を失いかけている早苗に言った。


「私は…許しはしません…あなたも、敵だというのなら…容赦はしませんよ」


「それも無茶だと言っている。何を知りもしない哀れな娘だよ…」


「どういう…意味ですか…」


「その先は知る必要ないさ。君は今ここで僕が丁寧に殺してあげる」


「やはり…あなたも敵…ですよね…」


「それで?敵だと知ってどうするんだい?」


「彼と同じように…容赦なく…叩きます…」


早苗がそう言うと、黒影は笑って答えた。


「君は何も知らなくて面白いね」


「一体…何を……」


早苗の瞳には、不安そうな空気と、気味の悪い黒影が映っている。

そしてそれを最後に、視界は真っ暗闇へと暗転していった。


黒影はそれをただじっと見ている。

先ほど宣告したように、彼女を殺すつもりなのだ。

その眼は冷たく尖っていた。

次の瞬間。その化け物が振り上げた腕から、無数の弾幕が現れる。

そして言った。


「さよならを言おう、東風谷早苗」


「……」


当然ながら返事はない。

それを確認した黒影は、その弾幕を彼女に向けて放った。


―


しかし、結果はそれの望むものではなかった。

再び舞い上がった土煙の中からは、想像し得なかったもうひとつの人影が現れていたのだ。

その正体は幽夢(ゆうま)継(つぐむ)だった。

それを見て、黒影は言う。


「継君…きみもまた…」


「どうした?僕はまだ死んじゃいないぞ。何をびびってる?」


「……」


口調は強がっているが、たしかに継の体力は早苗の力で失いかけている様子だ。

加えて継はさっきまで気絶していたらしい。

それでも、彼は自信を攻撃した早苗を庇い、この化け物からの弾幕を防ぎきっていた。

黒影はまた実に不快そうな顔になる。

見えはしないが、周囲の空気が変わった。

そこに、継は敢えて挑発の言葉を投げ掛ける。


「反応なしか…まあいい。とにかく死んでくれ」


「無駄な足掻きをするものだ。その残りわずかな力でなにをすると?」


「僕の能力、きちんと教えてなかったもんな」


「ん…?」


「ここは一度、立て直させてもらうよ」


そこまで言って継は手を大きく振りかざし、この高い空へ向けた。


「…?」


黒影が反応するよりも早く、継は「それ」実行する。

光が昇り一直線に飛んで行った。

見ていることしかできない黒い影は最後まで無言を貫き通し、次に瞬間には早苗や紅魔館内部にいた幻想郷の少女たちはすべて消えていた。


「……」


またしてもそこに立っていたのは黒影ただひとりだけである。

それはただ押し黙り、数秒の間直立していた。


こうなることを想像できていたのはおそらく永琳だけだろう。

継は死んではいなかったことに気づけば、たやすい推測すぎない。

しかし、侵略者である彼がこの選択をするとは、少女たちは信じられないことのはずだ。

後に彼は言っていた。


「まあ、全軍をもってしてようやく、あの化け物は倒せるか(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)ってわけだ」


高く飛んでいく技はいわばフェイクで、これは黒影の目を引き付けるためのものである。

その場にいた総勢六名は、継の力によって転移させられた。


―幻想郷、博麗神社


一方継の仲間たちの方はというと、現在まさに苦戦を強いられている最中のようである。

衝撃と爆炎がまだあたりに響き渡っていた。

当然、まだ死傷者は出ていないが。

残っていた三人のフリーランスたちは攻防一体となりそれぞれが奮闘している。

攻撃を避けては反撃の一方通行。

しかしその戦術も長くはもたないだろうことは目に見えていた。




ー第14話ー

 展開帰章(とこうきしょ)


 継、その他を含む紅魔館での黒影戦、一時終結。


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