優雅に咲け、墨染めと桜の境界
ー幻想郷、博麗神社にて。
そこは長らく戦場となっている。
継とツギがこの場を離れてから随分の時間がたったといえる。
その中、三人のフリーランスがそれぞれ言い合っていた。
「なあ、継くんたち、いつ頃戻ってくると思う?」
「わかるかっ!おぬしは黙って集中してろぉ!」
「ちょ…もうむりですよね…?無理ですよね…⁉」
「まあまあふたりとも、ここが正念場だと思ってさ!ほら!」
陽気に喋りつつも、しっかりと攻撃はかわしている一番背の高い大男、ユメミ。
しかしその身体は突然動きを鈍らせる。
そして一瞬だけ右手を耳に当てたと思えば、次に放つ言葉は意外なものだった。
「ねえきみたち、僕ら逃げちゃおっか」
「……はあ⁉」
「何言ってるんですか…⁉」
当然ながらキヴァ姫とシドの二人は反発する。
それでもユメミは続けた。
「どうやら向こうの方、計画失敗しちゃったっぽいんだよね…さっき連絡がきたよ」
「…はああ⁉」
「うそでしょ…⁉」
再び声を荒げる二人。
その眼には多少の呆れが含まれている。
「いや、ね?僕にその目線向けられても…」
わざとらしく言うユメミ。
両手を少しだけ前につきだし、二人へ向けていた。
「ともかく!コイツは一旦放っておいて、僕らは逃げちゃおう!」
強引に会話を終わらせたと思えば、彼は次に右手を大きく上げる。
その姿は、小一時間ほど前にも見た光景だ。
ここで紅魔館での継が重なる。
彼も同じようにして、黒影から逃げていた。
ユメミはそれを実行しようとしているのだろう。
「じゃ、行くよ」
「もう好きにせい!」
「わかりました…」
諦めて従う二人を見たユメミは、すぐさまその指先から光を放出した。
目眩ましと相手の気をそらすことに成功し、三人は姿を消すこととなる。
―幻想郷、永遠亭にて。
黒影の分身とおぼしき存在から逃げ切った三人は、現在継の指示によってとある場所へと訪れていた。
「継君たちはもう来ているらしいね。行こうか」
ユメミの言葉で三人はゆっくりと歩きだす。
「一体どこじゃ、ここは」
まだ機嫌が直っていないのか、キヴァ姫はすこしばかり荒い口調で言った。
「それにしてもでかい屋敷ですね…」
一方のシドは目の前に広がる豪邸に感心して言葉をこぼす。
大門をくぐり、やがて屋敷の中へと通ずる扉に出くわした。
そこで三人は固まる。
「勝手に入っていいかな…」
「ワシはしらんぞ…!どうなっても…!」
完全に変わった空気に呑まれて、二人の声は小さくなっていた。
「まあ、あの継君が言ったんなら大丈夫ですよね…」
シドは意外にも冷静だ。
そして後からこう付け足した。
「それに怒られたら、彼に責任押し付ければいいですよね」
「うわ…シド君きみ…すんごいこと考えるね…」
「まったくじゃ。よう思いついたわい」
「え。キ゚ヴァ姫もそっち側なの?」
「当たり前じゃろう。呼んだのはあやつじゃからの」
「ふたりして凶悪…」
「何を言うか…!」
と、こんな風に三人が扉の前で言い合っていると、誰かがその会話を聞いていたのか突然扉が開いた。
驚いた三人は同時に固まる。
扉の向こう側からは、こちらへと近づいているようだ。
「お、おい…ユメミよ、対処せんか…!」
キ゚ヴァ姫が実にかわいらしく焦りを露わにしている。
その腕にしがみついてくるキヴァ姫をみたユメミは、一つ肩を落として溜息を吐いた。
そして陰によってうまくとらえきれないそれに話しかける。
「…わかったよ。それで…えっと君は、ここに住んでいいる人…?」
「そうですわ。わたくしここの当主なの」
返ってきた言葉は、実に丁寧な言い回しだった。
「と、当主…」
そう復唱したユメミは、彼女が放つ謎の雰囲気に圧倒されているようだ。
それから少しして、屋敷の当主は陰のないこちら側へと踏み入ってくる。
「ようこそ、永遠亭へ」
ようやく拝めた彼女の尊顔は、不適に笑みを浮かべていた。
-幻想郷、永遠亭内部にて。
迷いの竹林を抜け現れる永遠亭。
その広い内部へと案内されて進む三人。
彼らが一歩前へ行く度に木製の廊下がひしひしと音を立てていた。
「広いのう…どこまで歩かせるのだ……?」
「さあ…?」
「もうすぐですわ!」
こそこそと喋るユメミとキヴァ姫に対し、嬉しそうに答える当主。
床まで伝わる長い髪も、軽い足取りによってゆさゆさと揺れている。
長く続く一本廊下を突き当たりまでたどり着くと、先頭を行っていた彼女は左右の分かれ道を右に進んだ。
そして少し歩いて直ぐに立ち止まる。
「着きましたわ」
「ここかい?」
ユメミが確認を取ったあと、扉に手を掛けた。
しかし、その手は開く動作をする前に止められる。
「…?」
「入る前にひとつ訊いてもいいかしら」
止めたのは当主だった。
彼女は自身を包む十二単とも言える着物の袖で口を隠し、慎重な面持ちでユメミを見ている。
「なにかな」
彼がそう答えると、当主はやや溜めてから口にした。
「後でわたくしと戦ってくれるのはどなたか確認したいのよ」
「…ん、なにそれ…?」
予想外なことを聞いたユメミは固まる。
続いて、後ろの二人も問いかけてきた。
「のう当主さまよ、わしらそんなことは聞いとらんぞ」
「うんうん。どゆことです…?」
行き違いが生じた四人は、場の空気を停滞させ、それぞれ困った顔をしながら見つめ合っている。
「…とにかく、これは継君に訊かなきゃいけない問題だね」
「そうですわね。問いただす必要がありそうですわ」
結局話の終点は継への責任転嫁に落ち着き、ここでようやく四人は部屋の中へと進むこととなった。
「継のヤツ、会ったらぜったい文句を言ってやるわい!」
「そうだね。絶対文句を言ってやろう」
「では、行きますわ」
今度は止められることなく扉は開く。
その先では、この幻想郷を股に掛ける強者どもが勢揃いしていた。
ー幻想郷、白玉楼にて。
場面は一気に回帰し、時間軸は約一時間前へと巻き戻る。
主を西行寺幽々子とするそこ一帯は、現在不思議な空間へと変貌していた。
原因は、突如として時空をねじ曲げて現れた美しい女性、八雲紫による能力のものである。
幻想郷で、この二人が会うことはそう珍しいものではないが、今回ばかりはそうとも言えないだろう。
緊急的非常事態、その状況下での邂逅はもはや、彼女たちが動くべき最終手段へと移行しているためだ。
異変はこれまでにいくつも怒ってきた。
しかし、異例とも捉えられるこの現状には、どうしても沈黙と観察をしている暇はないらしい。
危機的な状況を遅れながらも察知した紫本人が、取り急ぎ接触してきたわけである。
その彼女が言う。
「幽々子。わかっているとは思うけど、この異変は何かおかしいわ」
「そうねー…」
慎重な面持ちの紫に反して、幽々子の様子は実に落ち着いていた。
彼女の取り柄とも言えるが、それでもこの場の緊張感にやや欠ける返答に、近くにいた魂魄妖夢とその祖父、妖忌は主に冷たい視線を送る。
そこで紫は続けて言った。
「敵はひとり…そう、たったひとりしかいない」
「そのぐらいは予想できてるわよ。あなたが来たのは、私たちでも物足りないくらい面白いひとが侵入してきたからでしょう?」
淡々と答える幽々子。
どうやらただふざけていたわけでもないらしい。
その目は本気だ。
「面白い…ね。確かにそうとも言えるけど……」
「面白い…それで十分よ。取り敢えず、これから永遠亭のとこのお医者さんにでも会いに行きましょう」
「どうして永遠亭なんですか?」
初めにそう聞いたのは、紫ではなく妖夢だった。
「一番安全だからよ」
今度は紫が先んじて答える。
彼女も幽々子と同じ考えだったのだろう、その答えには全く迷いが見られなかった。
「まあ移動する前に、作戦会議とでもいきましょうか」
そう言いながら幽々子は紫を白玉楼内の家へと案内しだす。
「そんな時間あるかしら…」
「五分もないなんて言わせないわよ?」
紫にこれ以上反論させないようにした幽々子は、彼女をどんどん白玉楼内の家へと引きずっていった。
ー幻想郷、白玉楼内部の屋敷にて。
「…ねえ。お茶なんていいって言ったのに…」
「まあまあ落ち着いて話しましょうよ」
満面の笑みで迎えた幽々子は、ふすまに挟まれた一室の畳に腰かける。
二人の間に丸いちゃぶ台を一つ構え、互いに言葉で睨み合った。
この時、妖夢と妖忌は部屋の外に追い出されている。
「なら少しだけ話しましょうか」
観念したように、紫は話し始めた。
「私が見てきたアレは化け物よ…これまでのどんな異変よりも邪悪で醜いわ」
「あなたがそこまで言うなんてよっぽどね。救いようがなくて悲しいこと…」
「ただ、もうひとつ知っておいてもらいたいことがあるの。侵入者はアイツだけではないということ」
「そうなの…?」
幽々子が食いついたのを見た紫は話を次々と展開していく。
「この幻想郷に入ってきた侵入者と呼べる者は合計で七人。でも化け物以外の五人はどうやらこちらの味方をしてくれているわ。中でも凍樹とかいう少年は完全に無害でしょうね…後の五人は注意が必要だけれど」
「その五人はチームってわけね」
「そうだと思うわ。見た感じ、長いこと一緒にやってるっぽいし」
「確かにそれは危ないわね。その人らって強いのよね?」
「聞くまでもなく。…全員が異常なまでの実力者よ」
言いながら、紫は溜息をついた。
「それで、彼らは今どんな状況なの?」
「そうね…例の五人組はばらけて応戦しているようね。無害な少年の方は…保護されてるわ」
「なるほどね…私はもっと危機感を持って行動すべきかしら」
「そうよ…!だから言ったじゃない」
「わかったわ。じゃあようやく出発と行きましょうか」
そう言って幽々子が立ち上がったその時だ。
突然、白玉楼内をとある轟音がなり響く。
「何ごと…!?」
慌てて部屋を飛び出す幽々子と紫。
そしてすぐそばで妖夢が叫んだ。
「幽々子さまっ、紫さまっ!あれを…!」
彼女は上空に浮かび上がったそれを指さしている。
「何…!?あれ…!?」
そこには水色に染まる球体があり、ただ沈黙して彼女たちを見つめていた。
ー第15話ー
「優雅に咲け、墨染めと桜の境界」
例の五人組、ようやく再開。
例の五人組、永遠亭にて紅魔館メンバーや永遠亭のメンツと接触。
白玉楼にて、謎の球体を確認。




