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幻想郷侵攻  作者: 幽夢 継
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13/16

希望も虚しく死に絶えり。

ー幻想郷、紅魔館


「フラン、少しだけ下がっていてくれ……その代わり、俺が必ずあいつを仕留める」


「お兄ちゃん……」


「ちょ、継(つぐむ)!?計画が無駄になるよ…!」


「だから謝っただろ?」


「まあ、ここで倒せるんならそれはそれで良いけどさ?」


「なら問題ないよな…?」


継が向きを変え、浮かぶ黒い影に照準を合わせる。

その瞬間、彼の目付きはまるで刃物を握ったかのように鋭く尖った。

そして力強く言いきる。


「おいお前、サシだ。ここで終わらせてやる……ぶっ殺してやる」


すると黒影の方も目の色を変えて答えた。


「予想外だったけど、君なら楽しめそうかな?」


いつまでも余裕さを忘れない口調だ。

相対して継は構える。

ここ幻想郷に来てからは始めて見せる構えで、呼吸を整えているようだ。

五度六度と呼吸を繰り返してから全身に力を込める。


「面白いね…確実に僕を殺しにくるか……」


「そのイキった余裕もここまでだぞ」


数秒睨み合った二人は次の瞬間には姿を消していた。

遅れて衝撃が届いたことで、互いに衝突したのだと気付く。

もはや目視では捉えられない速度まで加速していた。

屋敷の大広間を駆け回り空からの奇襲を全て回避する継。

その残像は弧を描いて舞っている。

しかし建物の中では不利だと考え、敢えて入り口付近まで誘い出した。

そのまま黒影を押し出したと思えば、二人は残骸で溢れる館内から脱出する。


場を大きく使えるようになった継は黒影との空中戦へとシフトを変えて立ち回りだした。


「スペルカード…『恒常転換(こうじょうてんかん)』創生、『太陽の急遽戦(アイレイド)』だ!」


高所に登った継の弾幕が空を埋め尽くす。

紅白、黄色に輝く五つの球体と無数に散りばめられる黒の極小玉。

雨のようにそれは降りだし、黒影を追尾した。

さらに継は一瞬だけ翼のようなものを広げると急降下していき、自分もその弾幕の中に飛び込む。

それらが同時に煙幕のような役割を果たし、一気に黒影の背後へとたどり着いた。


「―!?」


このとき、黒影は始めて動揺する。

いつの間にか自信の背後に回っていた継に対して、危うさを感じたのだ。

それでも対応速度は衰えず、継が繰り出した攻撃を軽く弾いた。


「くそ……っ!」


悔しがる継だったが、すぐに距離を取って体勢を立て直す。

しかし息をする間もなく、今度は黒影の反撃が始まった。

遠中距離からの弾幕放射ではなく、直接的な物理攻撃である。

その大きな身体が継の目の前まで迫り、左腕での殴打をかました。

そしてそれを間一髪で防ぐ継。

だがそんなことは影も承知の上である。

故に次の手段として右足を継の横腹に向けて突き出すように動いた。

その後、全方位に激しい衝撃が走るがまたしても継は完全に防ぎ切っている。

黒影が再び殴打を繰り出そうとした時、そうはさせまいと継の身体がしなやかになびいて影の懐(ふところ)へ滑り込んだ。

するとすると継はゼロ距離からの弾幕を展開した。


「スペルカード…『極彩宝舞(ごくさいほうぶ)』創生、『宝帝(ふうと)』だ!」


継は豊富な技を巧みに操り、遂にはこの黒影の身体に一撃をおみまいさせたようだ。

それでも一筋縄にはいかず、黒影は未だ無傷を保っている。


「これでも無傷かよ……!」


継のくいしばる声が聞こえた。

再び空中で起こった煙幕の中で、二人はさらに上昇していく。

垂直に上がるお互いを出し惜しみなく弾幕が交差させながら、継と黒影雲の上まで到達した。

静寂(しじま)の紺碧に身を晒し一瞬だけ視線を合わせる。

その時間は短く、一回の瞬きの内に二人は右手を突き出していた。

そして無言のまま背後から弧を描くように連なる弾幕を張る。

継の方は青白い光をしきりに目立たせた、

黒影の方は、紫色に染まる禍々(まがまが)しくもおとなしい光を灯(とも)していた。

両者、互いに一瞬の差なくして打ち込まれる。

さらに同格の衝撃波が発生、紅魔館周辺の木々はとうに吹き飛ぶ寸前である。


「くそ…わざと同じ力で出力しやがったな…!とことん舐めやがって…」


「ずいぶんな言い草だね、僕は本気だよ?」


この時、たしかに継は度重なる技の行使で消耗していた。

同じく黒影もレミリア戦の際に少なからずの消耗を得ている。

故に二人は互いに全力を出していた。

それでも継は黒影を、黒影は継を押しきれなかった。

両者互角の戦いの中、決着はつきづらいのである。


しかしこの戦いは突如として終わることになるのだ。


原因不明とは表記しがたい現象が発生する。


紅魔館近辺から以上な量の力を検知。

継と黒影は同時に警戒体制かつ、構えを取った。

そこに一点の光がさし込める。

目視可能な場所より、神に等しい異常なまでの気配。

人影はなくとも、その微光が位置を激しく示している。


「現人神(あらひとがみ)…」


そう呟いたのは、紅魔館内で待機していたレミリアだった。

続いてその周りの皆が反応する。


「あれが奇跡の力ですか……」


まずはじめに言葉を落としたのは永琳(えいりん)だ。

有識な彼女でもあれほどまで強力な奇跡の力を目にしたことはないらしく、その瞳が大きく揺らいでいる。


「えーりん、あれは味方なのかしら…?」


次に声をあげたのはその隣で目を見開く長髪の少女、輝夜(かぐや)である。

そして彼女もまたあの強大な力に圧倒されていた。

一目でわかる、敵わない相手。

距離があれども輝夜はそんなことにはすぐ気付いたのだ。


「敵でないことを祈るしかないでしょうね…」


「でもえーりん、この状況であの力を使ってるってことは、少なくともわたくしたちの敵ではないんじゃないの?」


「確かに、あの力をこちらに向けられてはいませんね…ですが、ここから戦いが激化するとなればこの場所は大変危険になります。私たちはこの場を離れた方が良いのでは?」


「それはそうよね」


「私たちはあの侵略者との約束もありますし、この場合はあちらの妹さん…?を安全な場所に移動させるのが最優先ですね」


「あなた、この状況でそんなこと考えてるの?」


「そういう約束ですから…」


と言いつつも、永琳の口元は歪んでいる。

やはり不本意であるのだろう。


「おねえさま、私たちもここを離れないと」


レミリアの所へ戻ったフランも一先ずは永琳たちの案に同意しているらしい。

しかしレミリアの返答はこうだった。


「私は少し用があるから、先に行ってなさい」


「もしかして、動けないの?」


まだ床に横たわっているレミリアに、フランは悲しげな声を落とす。


「やっぱり大丈夫じゃないんだ…!いつもなら私たちの身体なんてすぐに治るのに…ぜんぜんおねえさまは……」


「たしかに思ったわ、何故再生しないのかって。でも恐らくこれはホントに一時的なものだと思う。運命がそう言っているもの…私はこんなとこでは死なない」


「でも……」


「それに、用はこののこととは違うわ。私の用があるのはここにいるもう二人の侵入者よ」


そしてレミリアは目線だけを変えて交互に対象を捉える。

ひとりは魂魄(こんぱく)凍樹(とうき)、そしてもうひとりはツギだ。


「特にあなたよ…凍樹……」


「俺……?」


これまで何の変哲もなかった彼が、驚いたように自信を指差す。


「運命の道しるべ……その中心にいるのはあなた…形はどうあれ、近い未来にあなたは……」


ここまで言って、レミリアは口ごもった。

彼女自身の頭の中で何かが引っ掛かるのか、それとも別の理由なのか、その真意はしり得ることではないにしろ、直後のレミリアは目付きがハッキリと変わっていた。

先程まで弱々しく揺れていた瞳とは別に、今は鋭く尖っている様子である。


「レミリアさん…?」


凍樹が疑念を寄せるが、それに対する返答はない。

しかし、彼女は確実に何かを感知していた。

額に冷や汗が纏(まと)わりついて離れないまま、レミリアは声を震わせて呟く。


「今、あの黒い影と戦ってる彼………負けるわよ」


唐突に吐き出された言葉は、確かに皆に絶望を与えたことだろう。

現状で、あの化け物を相手取れるのは継ひとりだけだ。

レミリアは、その彼が負けると言ったのだ。



ー第12章ー

 希望も虚しく死に絶えり。


 侵略者、幽夢(ゆうま)継(つぐむ)とその依頼主、黒影の衝突。

 現人神(あらひとがみ)、東風谷(こちや)早苗(さなえ)の復活を確認。

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