玉楼参異変事ーAfter This?ー
ー幻想郷、白玉楼
「はい、できましたよ。今日のお昼ご飯です」
そう言って妖夢は幽々子の前に腕によりをかけたたいそう鮮やかな料理を運んできた。
そこには外界より祖父、妖忌が持ち込んだ知識のものも含まれているようだ。
初めて見る目の前の食べ物に幽々子は目を輝かせている。
「すごいじゃない、二人とも!これならしばらく飽きないわね!」
「な…!私の料理、飽きてたんですか…!?」
「あ、ああ…ええっと、取り敢えず早く食べましょう?」
「話をそらされました……これは黒ですね幽々子さま」
「ちゃんと妖夢の料理は美味しいから…!ただちょっとボキャブラリーが少ないというか…ね?わかるでしょ?」
「わかりません。わかりたくもないです」
「ええー……」
幽々子は残念そうに畳の上で寝そべった。
それを見た妖夢がすかさず注意する。
「幽々子さまー、はしたないですよ」
「もう、わかってるわよ…」
今度は不機嫌そうな幽々子が起き上がって卓の上に並ぶ料理を眺める。
するとまた瞳に輝きを宿し、すぐさま機嫌ももとどおりだ。
「それにしても美味しそうね!これ」
「お目が高いですな、幽々子様」
片付けやらを終えた妖忌が戻ってきて言った。
幽々子が見ていたのは妖忌が外の世界から得た知識で作った、「完煎」という食べ物である。
材料は不明だが、実に健康に良いものとして最近新たに発明されたもののようだ。
「それは完煎と呼ばれておるようです。なんともつい最近開発されたものらしいのです」
「味はどうなのかしら?」
「当然、ご想像以上のものを保証しますわい」
「へえー…、期待させてくれるわね」
そういいながら幽々子は舌なめずりをする。
グルメな彼女にとって未知の食べ物というのは心踊らされるというもの。
内心では見た目以上に楽しんでいるかもしれない。
「じゃあ早速戴こうかしら」
「どうぞ」
そうして幽々子が完煎なるものに手を伸ばした時だった。
『ドオオオオン!!』
騒音などと比べ物になら無いほどの大音量が白玉楼の屋敷、そのすぐ側で流れた。
「なにごと!?」
妖夢が即座に構える。
妖忌もそれに続いて腰の刀を支えた。
「幽々子様、わしらが見てきます!その間ここで大人しく食事でもされてて下さい」
「わかったわ、とにかく気をつけてね」
「わかっていますとも!」
二人はそう残し、駆けていった。
「な……!これは一体!?」
外にでた二人を待っていたのは、高さおそよ5メートルを越える異形の怪物であった。
「変念異形か……!」
妖忌にはこの化け物がなにかわかったようだ。
頬に冷や汗を流して目の前の怪物を睨んでいる。
「おじいちゃん、あれが何か知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、戦ったことすらあるわい…」
「変念…異形…?」
「そうじゃ。まさしく他よりも黒くより闇に近い思念が異形のものとして現れたバケモノだ。本来はこんなとこに現れるはずはないのじゃが…」
「どうしてそんなものがここに……」
「わからん…だが、まずい状況だというのは確かだ」
「そうですね…」
「どうする?自称半人前の剣士、ワシをおいて幽々子様のとこへ戻るか?」
自身も冷や汗を流しておきながら、妖忌は調子のいいことを言ってきた。
「冗談を…!」
妖夢は2本ある刀の内一方だけを抜いて構える。
先程の戯言はあれど、彼女も刀を持つもの。
危険な相手を前に主人の元へ戻るほど無様ではないようだ。
かくして、二人によるバケモノとの戦闘が始まった。
先行して飛び出したのは妖忌だ。
重くも素早い剣筋で怪物を正面から斬り伏せる。
一歩二歩と進めば同じくバケモノは擦り下がった。
知性を持っていなくとも、これが当たればただでは済まないとわかっているのだろう。
しかしこれは、かつての妖忌は未だ健在であるということを強く示していた。
さらに横から妖夢が負けまいとして斬り込んでくる。
この一連の動作を二人は隙なく繰り返していった。
交互に斬り込み、一度引いて交代。
時には同時に別方向からの斬撃も浴びせることもあった。
それでも一切の反撃をしないまま5メートル超の巨体にも、傷が見え始めてきた。
『グ……グオオォ!』
登場時から一度も声を出さなかった怪物が、ようやく鼓膜をつんざくような雄叫びを放つ。
すると本気を出したのか、その身体から無数の棘が現れた。
ようやく反撃開始というわけだ。
「ぎょえ…!?」
「本気を出してきたぞ…一度距離を置け、妖夢。あれが飛んでくる!」
「ええっ、あれ全部ですか!?」
妖夢は恐ろしく慌てた様子で勢いよく距離をとる。
そこから時差もなく、バケモノの全身から現れた針が飛ばされた。
瞬間的に周囲に及び、相当な技量がなければ即死していただろう。
棘は妖夢の下がった足元まで飛んできていた。
「ひ……」
怯える妖夢を後に、妖忌はすぐさま追撃の構えで進んでいく。
「孫を怯えさせるとはこのバケモノよ、覚悟はできておるんだろうな!」
『ギェオオ…!』
また耳障りな叫び声をあげてうねる。
その声は先程よりも苦しそうになっていた。
そんなことはお構い無しに妖忌の刀は振り上げられ、その剣先は致命傷へと導いた。
「やった…!」
顔を青くしていた妖夢も、ここで安堵の声をもらす。
やがて仕留められたバケモノは黒く灰になり果てて、二人の目の前で消えていった。
「前回戦ったときはなかなか苦戦したんじゃがの、ワシも強くなったのか…?」
「え、そうなんですか?」
「ああ、なかなかに手強い相手だったが…強さには個体差があるのかもしれんな」
「なるほど……確かにそうかもです」
妖夢がそう言って腕を組み右手の人差し指を顎に当てるようにした時だった。
なんと幽々子が空から現れたのだ。
「ゆ、幽々子さま!?」
驚く妖夢に幽々子は一言だけ返した。
「もう食べ終わっちゃった」
「あの量を…ですか……」
若干引き気味に妖夢は答える。
「ところで、もう終わったのかしら?」
妖夢の言葉を意図的に無視した幽々子は二人に現状を尋ねた。
「取り敢えずは落ち着きました…」
妖夢が答える。
続けて幽々子が次の質問を放った。
「そう……この事態、あなたたちならどう見るの?」
「そうですな…明らかに異変と見れる事態……」
「もしかして誰かがまた悪さを?」
「そうね。その誰かって、どんなやつか検討はつくかしら」
そう訊いている幽々子の方では、ある程度の考えはまとまっているらしい。
「この白玉楼まで影響がでているということは、やはり神様たちのものじゃないですか?」
「たしかにこの力は神にも及ぶでしょうね。でも違うと思うわ」
「もしや……」
何か気付いたように妖忌が顔を上げた。
「侵略者だというのですか…?」
「それしか考えられないでしょう?」
「何でそう思うんですか?」
まだ事態がハッキリ把握できていない妖夢は説明を求める。
「妖忌だって何故か今まで外の世界にいたじゃない?でもまた突然私たちの前に姿を表した。あの時、妖忌はどうやってこっちに来たっけ?」
「……裂け目を無理やり…」
「そう。もしあの裂け目がここだけじゃない他の所にも現れていたら?」
「……!?」
ここでようやく幽々子の丁寧な説明で妖夢も現状の恐ろしさを理解したようだ。
「幻想郷が危ないわ」
「どうするおつもりで?」
妖忌が鋭く尋ねる。
彼も元彼女に遣える庭師兼護衛、みすみす危険な事に巻き込ませはしないだろう。
先程からの幽々子の発言は薄々とあることを示唆しているように感じた妖忌は、それであれば止めなければならないのだ。
「もちろん、この異変の首謀者のところへ行くわ」
妖忌の予想は的中していた。
「幽々子さま!?どうしてそんな危ないことを…」
「だって、この幻想郷がなくなってしまえばもう宴なんてできっこないじゃない。今回の異変はかなり危険だと思うの。もし何もしないままあの美しい大地が更地になんてなってたら、気分が悪いでしょ?」
「なりません。幽々子様…」
「……堅さは相変わらずね」
「それはこちらの台詞です。成長なされたと思っていましたが、かつてのおてんばぶりは健在ですか…」
「止めても無駄よ。あと、あなたにも来てもらうから。当然妖夢には付き合ってもらうけど」
「え゛……?」
「……はあぁ。仕方ないですな……」
「あ、あの?冗談ですよね……?」
「そんなわけないでしょ?」
「やめましょうよ!?どうせ今回の異変もあの博麗の巫女がなんとかしてくれますよ!」
「もう決めたの。いいから付いて来なさい?」
「なにも良くないですぅ……」
それから妖夢は思いっきり肩を落とした。
「では幽々子様、これからどちらへ?」
「そうね…紫は戻ってるかしら?」
幽々子はそう言うと、なにもない虚空へと目線を向ける。
たしかにそこにはなにもないはずである。
だが、幽々子の言葉に反応するか、或いは待っていたかのように、そこには異空間とおぼしき裂け目が現れたのだ。
「真っ先に私を呼ぶと思っていたけれど、ここまで侵食が早かったなんてね…私としたことが、少し監視に夢中になりすぎてたかもしれないわね……」
そこから姿を現したのは、紫色に統一された衣装を纏う日傘持ちの女性だった。
彼女こそ、先程幽々子が呼んだ者である八雲紫である。
「早速だけど紫、私は今回の異変をなかなか難しいものだと捉えているわ。あなたも観察してたのなら情報を寄越しなさい」
「……確かに今回の異変は想像以上に規模が大きい。史上最大と言えるわね。そもそも幻想郷の仕組みそのものである霊夢が役に立ちそうもないのが問題よ……」
「……!?あの、博麗の巫女がですか!?」
妖夢が驚いたように叫んだ。
しかしそれも無理はない。
今までの異変もその殆どが博麗の巫女である霊夢の手によって解決されてきていたのだから、その頼みが薄れたとなると普通は焦るであろう。
しかしここにいる妖夢を除く三人は冷静な思考で事態の収束を考えている。
「彼女が使えないってことはやっぱり外界からの侵略者?それ、ひとりじゃないわよね」
「そうね……少しだけ違うかもしれないわ。と言うのも、内何人かは敵か見方かまだ判断しづらくてね」
「ハッキリした敵はどのくらいかしら」
「本体はひとりだけみたいよ」
「単独でこの異変を……ね」
「して、お二方。それほどマズい異変をどうするんです?」
「決まってるでしょ、妖忌」
この場合の最も嫌な回答を幽々子が今にも言いそうである。
既に答えは決まっていて、それが覆ることなどありはしないのだろうが、それでも妖忌はその反応に肩をガクリと落として耳を立てた。
そして幽々子の口から聞かされる。
「私たちも異変解決に手を貸そうじゃないの!」
ー第11章ー
玉楼参異変事ーAfter Thisー
白玉楼、幽々子と紫の接触と協力。
そして異変介入。




