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幻想郷侵攻  作者: 幽夢 継
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複結集、倒壊


異変により魔物や妖怪と呼ばれる異形の類(たぐい)が跋扈(ばっこ)するこの幻想郷において、いまや安全と呼べる場所はどこにもなかった。


ー幻想郷、白玉楼


「……なるほど、そんなことが…」


長年会わずじまいであった祖父との邂逅を経て取り敢えずの屋敷のなかで妖夢(ようむ)はそう区切る。


「うむ…」


そこに相対してちゃぶ台を挟む老父、妖忌(ようき)が一息もらした。


「それににしても妖忌、あなた随分変わったんじゃない?」


また、間に割ってはいるように今度は華やかな衣装を纏った女性幽々子(ゆゆこ)が言う。


「そうですかな、幽々子様」


男はそう微笑し、場は沈黙へと落ちついた。

気まずさが偏って残り、次に誰が物を言うのか待っている。

その静寂を打ち破ったのは妖夢だった。


「お、おじいちゃんっ…!私、またおじいちゃんに剣を習いたいです!」


「何を言い出すかと思えば、どうした妖夢?お前は一人前だろう。人に教えをこう必要はあるまい」


「でも私はまだ半人半霊だから…」


「そんなことは関係ない。完全幽霊というのも良い気はしないぞ?」


「それでも……」


「まあ二人とも、取り敢えずご飯にしよう?」


ぎこちない二人の間にまたしても幽々子が入っていく。

今度は助け船となったようで、妖忌はすぐさま飛び付いた。


「そうですな、では支度をしますか」


そういって立ち上がった彼だが、その際にこうも付け加えて言う。


「妖夢、お前の気持ちはわかる。だが焦るな。大丈夫、お前ならいつか望む自分になれる」


「むぅ……」


そのまま妖忌は不完全燃焼というような表情の妖夢を残して、台所へと行ってしまった。


「妖夢」


「幽々子様…」


「妖夢らしくないわよ、どうしたの?」


「いえ…もうなんでもありません」


「……?」


その時、彼女の瞳に一瞬だけ紺碧の光が宿ったように見えた。

幽々子が驚きを示したのはそのせいである。


「どうかしましたか?幽々子様」


どうやら彼女自身には自覚がないようだ。


「いいえ、何も?」


「そう、ですか?」


「ええ…」


「じゃあ私、おじいちゃんを手伝いに行ってきますね」


「わかったわ、よろしく」


「はい」


数度の会話、そしてひとり残された幽々子は一声もらす。


「何か……おかしいわね。もうかなりマズいのかしら、幻想郷は…」


ー幻想郷、太陽の畑


「これで何体目かしら、どこからともなく…鬱陶しい!」


花畑の主、風見(かざみ)幽香(ゆうか)は憤っていた。

周囲には数々の異形の死骸、それは彼女を取り巻き円心とするように広がっている。


幽香がその深紅の日傘を再びかざした時、また一体の魔物のような怪物が鮮やかな向日葵(ひまわり)から飛び出してくる。

そこへ空気を切るような舌打ちとともに優雅にも見える圧倒的なまでの力量で一切の敵をなぎ払った。


「黒幕はどこ?必ず、その息を止めてあげるわ…!覚悟しておきなさい」


いち面の花びら時雨が降り注ぎ、黄色に見えかくれしながら彼女は睨む。

その眼光は鋭く、殺意に満ち満ちていた。


ー幻想郷、地霊殿


荒れる大地の幻想郷、しかしここは静かであった。

回りと比べてもハッキリわかるぐらいに静か過ぎている。

何かの力が働いているのか、それとも単にそういう場所なのか、未だ知るよしとしない。

その中でも特に異質を放っていたのは、指折り数えて二人程の幼き少女たち。

緑桃(りょくとう)などという言葉はないが、まさにそんなものを体現した容姿である。

ここ地霊殿に住まう古明石(こめいじ)姉妹だ。

緑に佇む妹、こいし。

桃色に澄む姉、さとり。

彼女らにはどことなく目を惹くような何かを感じるような気がする。


「こいし、私たちも呼ばれてるらしい。行こ?」


しばらく黙っていたさとりがそう言った。


「行くって、どこに?」


まだ状況が理解できていないままのこいしが訪ねる。


「……」


しかし答えは返ってこない。

さとりは静かにこいしの目を見つめ、淡白に言い放つ。


「いまやこの幻想郷が泣いてる。ある異変によって…」


「異変…?」


「そう。ここは他より遠いからまだなんともないけど、いつかの巫女がいる神社を中心に段々広がってきてる…」


「いつかの巫女…」


おそらく霊夢のことである。


「放っておけば危ない、そんな気がする…」


「犯人がいるってこと?」


「そうなるわね」


「じゃあ、私たちは誰に呼ばれてるの?」


「……。定義にもよるけど、私たち幻想郷の住人が土地を侵略されていると見れば………敵よ」


ー幻想郷、紅魔館


攻防を繰り返すレミリアと黒い影。

先程から一向に舞台は進行していないようだ。

激しい衝撃が連なるも、互いにそれを躱(かわ)し傷を負わずにいる。

と、ここで黒影が手段を変えて攻撃を繰り出した。

先程の馬鹿力での攻めから一転、繊細な弾幕の雨が辺りを駆け巡る。

空間がひしひしと音を立てて歪み始めた。

極彩色の球型弾幕がレミリアを追撃し、それは屋敷の広い空中を連動して続いていく。

縦横無尽に避けたレミリアも、負けじと弾幕を張り巡らせたようだ。

紅(あか)と白の球体が次々に現れては飛んでくる。


「風情があるね…!」


黒影は余裕にも、そうもらした。

しかし止むことを知らぬ弾幕が無数に虚空を埋め尽くす。

さらにレミリアは二重で弾幕を形成した。

今度は黄金色に照る球弾である。

先程の紅白弾よりもはるかに巨を成していた。

空中をさらに高速で交差する二人は2度3度とぶつかり遂に片方が地面に叩き落とされる。


「……!?」


見守っていた一同も、揃って驚愕の表情を浮かべて息を飲み込んだ。

灰色にたちめく煙の中で、うずくまっていたのはレミリアの方だった。


「おねえさま…!」


彼女の妹であるフランが悲しそうな声を張り上げる。

そして再び一同は驚愕の顔で固まってしまった。


「ぐ……ッ!」


即座に立ち上がろうとするレミリアだったが、影との戦闘で受けた傷がそうさせなかった。

またも彼女は地面に倒れ込んでしまう。


「彼女はもう立てないだろうね。さて?次は誰からきてくれるのかな…それとももう抵抗を諦めちゃう?」


黒影はそういって恐怖を煽る。

まだ余力のありあまる彼の声は、この時たしかに皆を絶望の気分へと塗り替えた。


「姫様、ここに来たのは間違いだったのかもですね…」


ひとり、冷静な目をした彼女…永琳(えいりん)は呟く。

しかしその端で、彼女を遣う少女、輝夜(かぐや)が少々反発的に言った。


「何よえーりん。あんなこわっぱ、わたくしがいて不足かしら?」


口調では意地を張ったように見えるが、その頬には一粒の冷や汗が流れている。

やはりあの黒影を相手取るのはやや厳しいことをレミリアの戦闘でも感じたらしい。


「おねえさまっ、だいじょうぶ!?」


次に声をあげたのはフランだ。

彼女は既にレミリアの倒れる床へと駆けつけて、その身体を支えあげていた。


「フラン……」


「死んじゃったりしないよね…!?」


そう言う彼女の瞳には微かに潤いがたまっている。


「バカね…こんなとこで死なないわよ」


恐らく本当のことを言っているのだろうが、その声は実にか弱く成り果てているせいか全くと言っていいほど信頼性に欠ける。

その証拠に、フランは今にも泣いてしまいそうだ。

というより、半分泣いているのではないだろうか。


「でも、こんなのじゃあもう私は戦えそうにないわね…」


「当たり前だよ!」


至極まっとうなことをフランが言っている。


「あいつは思ったより強い。だから皆は逃げた方がいいかもね…」


「逃げないよ、おねえさま。わたしがあいつぶっとばしてやる!」


初めて見る姉の姿にフランも感情が暴れているのだろう。

フランはその小さな拳を握り立ち上がる。

そして背中から生えている七色の宝石を光らせて振り返った。

その目には鋭さと黒影を宿している。


「フラン!?ダメよあれと戦っちゃあなたも…!」


もはや少女にはレミリアの声など届きはしなかった。


「輝かしい姉妹の絆か…面白い」


黒影も無い瞳にフランとレミリアを写し、天井近くから二人を見下ろしている。


「まずい、あの子が戦うのは避けないと…!」


同時に永琳は言う。

以前に継(つぐむ)と交わした契約ではフランを無事にいさせることである。

この状況は永琳にとって想像以上に厄介なものとなっていた。

しかし今の彼女にはどうすることもできない。

故に窮地に立たされようとしていた時だった。

勢いよく何かが屋敷の中へと飛んでくる。

それはすぐさまフランと黒影の間に割って入った。


「いやあ、間一髪?いや、もう被害者いるのか……とにかく、遅れてごめんネ!」


一同が捉えた彼は、フードのついた上着に身を包んだ謎の少年だった。

彼もまた、この幻想郷への侵入者兼フリーランスの殺し屋である。

ツギと自称している彼は、とある作戦を実行すべくやってきたのだ。

そしてさらに後からもうひとりの少年が姿を表した。

短い黒髪をなびかせ静かに佇む彼こそ、この幻想郷侵攻初めの侵入者である幽夢(ゆうま)継(つぐむ)である。


流石にこれ程派手なことをやっていれば、怒れるフランの頭も少しは落ち着く。

驚いた顔で二人を見つめていた。

それは彼女に限った話ではない。

一部例外はあるものの、この場にいる全員が同じようにして突如現れた見知らぬ顔に驚きを隠せずにいた。


「お兄、ちゃん…?」


「もっと早く着いてれば、こんなことにはさせなかった…ごめん……」


継はこの状況に怒るでも嘆くでもなく、ただ罪悪感を抱いているらしい。

床にいるレミリアと頬に涙の跡があるフランを見れば、皆考えることは同じだろう。


「お前が本体だな?」


空中で黙る黒影に向かって継は鋭く睨む。

そして続けて言った。


「ツギ、計画が無駄になるけどいいよな?」


「……は?」


「僕が今ここであいつを倒す…!」


ー第10章ー

 複結集(ふけつじゅう)、倒壊(とうかい)


 地霊殿のさとりとこいしが行動を開始。

 継、ツギの紅魔館現着。

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