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魔力ゼロの悪役令嬢が 最強の魔女になれたのは、優しい魔王さまの嫁だから  作者: 恋月みりん


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12章 魔王編外伝

 92章 偽善



 地下の牢獄はずらりと(おり)が並び、しかして他に囚人もなく、異様なほどの静寂だった。


 しばらくすると、足音が2つ響き、看守と村人が牢の前にやってきた。


 村人はチャルズという、土地持ちの男で、処刑を待つ老村長を訪ねてきたのだった。


 男はわずかばかりの金を看守に支払い、この牢に案内されてきた。


 この男の目的は、当然、老村長を異端審問送りにしたことへの謝罪のためなどでは無かった。



「実はアンタに、謝りにきたんだ。」



 チヤルズは挨拶もそこそこに、話しを始める。



「当然、オメエは魔物さ、わかってる。


 それでも、オラ謝りにきたんだ。」



 牢の檻を挟んで、2人は会話を続ける。



「オラ、街の豪商(ごうしょう)にそそのかされて、アンタが魔物に疑われる証言をしちまった。


 街の豪商は、前々から豊かで美しくなった、あの村を狙っていてな。


 それで、地主さん、地主さんておだてられてなあ。


 オラ、欲に目がくらんじまって、やっちまった。」



 老村長は、黙ってこの男の話を聞いていた。



「アンタが魔物だから、気に病む必要が無いのも分かってる。


 でもオラは天罰が怖え。だから謝る、悪かったな。」



「ええ、大丈夫ですよ、もちろん許します。」



 老村長はこともなげに、謝罪を受け入れた。



「そっかぁ、あんがとな。じゃ、こんな事言うのもなんだが、あんたも達者でなあ。」



 そう言うと、村人チヤルズはホッとした顔で、帰ろうとする道すがら、こんな台詞を残していった。



「結局、豪商が土地を高値で買ってくれるって約束を破られてな。オラは二束三文で土地を取られちまった。


 もしかしたら、アンタが、魔物の力でなんとかしてくれねえかと思ってな。だから、アンタにこの事を暴露しに来たんだ。



 まあ、そういう意味では、オラも被害者なんだべ。」




 それを聞いて、老村長はなんともいえない気持ちになった。



 ─────



 また、しばらくすると。



 気の触れた、例の老女が独房に会いきた。



「実はね、アンタに報告があってさ。」



 老女は報告があるとばかりに、さも嬉しそうな様子で話しはじめる。




「アンタの家さね、燃やされたよ。」




 ───家が、燃えた。



 老村長は、そう言われて、不意に、侘しくも慎ましいかつて暮らしを思い出す。



「今朝だったかねぇ、誰かがアンタの家に火をつけたのさ。」



 あの村での暮らし、全てが走馬灯のように記憶が流れる。


 ひとりでする、雑多な書類の手続き。ひとりで用意して食べる食事。なんて事ない日常が思い出された。




「まあ、アンタにはもう関係がない、だってもう2度と帰ることも叶わない家なんだもの。



 老女の言葉が、重く入ってくる。



「苦労して建てた家なんだろう?


 残念だったろうね。まあ、もう帰らないなら、もう関係ないだろうがね。」



「………」



「どうだい、これでアンタも村人が憎くて仕方なくなっただろう?


 この村の最大の功労者、アンタにやった、この村人の仕打ちを。


 あいつらが、いかに田舎者で迷信家で救えないか。なあに、アタシは分かっているよ。」




「いつでもそうさ。アイツらは、毛色の違う人間、まともな人間を嫌い、排除したいのさ。


 あんな村の村人なんざ、大嫌いだね、アタシは、」



「もちろん、アンタの気持ち、アタシは分かるよ。


 存分に呪うといい、憎むといい。アタシは聞いてやるよ。」



 しかし、老村長は静かに答える。



「いいえ、私は村人を全く憎んではいませんよ。」



 老女はこの村長の発言に心底驚いて、思わず声が漏れる。



「………へ。


 なんだって!……アンタ正気じゃない!


 だいたい、魔物のくせに、子供を助けるなんて馬鹿な事をして。


 いつもそうだ、アンタは善人面して気味が悪いったら、ありゃしない!」





 そう言うと老婆は、立ち上がり老村長を非難しはじめる。



「やっぱり、魔物だ。嘘つきで、偽善者ぶりやがる!


 あたしゃ、もう行くよ。せいぜい地獄に落ちな!」



 老女は捨て台詞をはくと、牢の前から去って行ってしまった。



         ♢



 夕食の時間になった。


 看守が、小窓からのぞくと、短く声をかけた。



「ほらよ、魔界の王様。今晩のご馳走で御座いまさあ」



 そう言って、粗末な大麦の薄い粥が、うやうやしく配られる。



「魔物には、人間の肉がいいんだろうが、生憎これが精一杯、人間様のご馳走でね。


 ほら、最後の晩餐だ。味わって食えよ!」



 看守はそう言い捨てて、去っていった。





 ───静かだった。



 老村長は明日にでも、処刑場に移送される。



 耳が痛いほどの、静寂。



 誰もいない、真っ暗な闇の中。



 ───自分は間違えてない、たとえ死んだとしても。



 けれど、眼をつむると、一筋の涙がこぼれた。



 どれほど、胸をえぐられても、流さなかった涙。



 息を殺し、声を殺して、老村長はとうとう、人間との暮らしで唯一の慟哭を見せた。



 心のせきが切れ、とめどなく嗚咽が止まらなかった。




 ──────。




「人間の子供を助けるなど、愚かな事を」




 うす暗い闇の中から、ふいに魔王が現れる。




「どうだ、こうなって、少しは気が変わったか?」





 魔王はそう、老村長に尋ねた。




あとがき


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「今後どうなるの!!」


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