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魔女に呪われた少女と、美しい支配人と  作者: 柳葉うら
第二部 秘密の庭の肖像画
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病弱王子の提案

 国王は隠す素振りも見せずあっさりと、ローゼの『魂込めの肖像画』の存在を肯定した。


 あまりにも簡単に聞き出せたものだから、ロゼッタはしばし茫然としてしまう。


「その作品は……今どこにありますの?」

「先代の国王の近くにいる」

「……そう……ですのね」


 先代の国王は病を患い、王位を現王に移譲して、今は隠遁生活を送っていると聞く。


 警備上、彼が今どこに住んでいるのか知る者もまた限られており、国家機密とされている。


「それでは、わたくしはお目にかかれませんわね」

「……ああ。バルバート嬢には悪いが、特例で先代の国王の居場所を教えるわけにはいかないからな」


 結局は限られた者しか見ることが叶わないという事実に、ロゼッタは肩を落とした。


(もう少しで、在処がわかると思ったのに……)


 一瞬にして希望を失ったロゼッタは、がくりと頭を垂れてティーカップに視線を落とす。


 琥珀色の水面に、しおらしい少女の顔が映る。


「――父上ばかりロゼッタ嬢とお話しないでください。独り占めはダメですよ」


 不意に、アリステアが抗議の声を上げた。

 ロゼッタが顔を上げて見てみると、彼はしかめっ面で国王に訴えかけている。


「ああ、すまない。噂の薔薇の妖精が来てくれたから舞い上がってしまったんだ。許してくれ」

「それでは、お次は私がロゼッタ嬢と話す番ですね。彼女を庭園に案内してもいいですか?」

「それは私ではなく、ロゼッタ嬢に聞きなさい」

「ロゼッタ嬢、ずっと座っているのも退屈ですから、一緒に庭園を散策しませんか?」


 アリステアは立ち上がると、ロゼッタの前に歩み寄り、美しい所作で手を差し出す。


 正直に言うと、国王やファウストから離れられるのならありがたい提案だ。


(だけど、国王陛下より先にこの場を離れてもいいのかしら?)


 そんなロゼッタの気持ちを察したのか、国王はロゼッタに気にしなくていいと言うと、席を立つ。


 国王より先に席を立ってはいけないと戸惑っているロゼッタに配慮してくれたようだ。


「ファウスト、少し話があるから一緒に執務室に来てくれ」

「承知しました」

「バルバート嬢、今日は招待に応じてくれて感謝する。ぜひまた話し相手になっておくれ」

「こちらこそ、お招きくださってありがとうございます」


 国王とファウストはロゼッタに別れの挨拶をすると、王城の中に入っていった。


 残されたロゼッタの手を、アリステアが壊れ物に触れるような手つきで掬い上げる。


「それでは、私たちは庭園に行きましょう?」

「え、ええ」


 ロゼッタはアリステアに手を引かれ、庭園へ向かう。


「……」


 その後を、いささか不機嫌なオーラを纏うブルーノがついて行く。


 彼はアリステアが妙にロゼッタに近い事が気に入らないようで。

 下手な事をしたらすぐにでもロゼッタから引き剥がそうと目を光らせている。


 そんな護衛の気も知らず、王宮の庭園に辿り着いたロゼッタは、その美しさに感嘆の溜息を零した。


「綺麗に手入れされていますわね。どの花も形が整っていて、色が鮮やかですわ」

「ここの花たちは、亡くなったジルダ王女殿下――私の伯母上の部屋に届けられていたから、庭師たちがとりわけ大切に育てているんです」

「そう……でしたのね」

「伯母上が亡くなった今でも、彼女を想う庭師たちがずっと心を込めて育てています」

「ジルダ王女殿下はたくさんの方に愛されていますのね」


 ロゼッタは体を屈め、凛と上を向いて咲いている珊瑚色の薔薇に顔を寄せる。


 みずみずしい香りは上品で、普段ならロゼッタの心を落ち着かせてくれるけれど、今は落ち込む一方だ。


(昔も今も、ローゼ様は大切に想われ――そして、外の世界から隔絶されているなんて、皮肉なものだわ)


 ローゼの境遇を思い、同情した。


 ――多くの人に愛されながらも、自由を得られなかった王女。


 生きている間は黒霧の魔女から守るために閉じ込められ、死後も絵画の中に閉じ込められて人知れず飾られている彼女は、何を思っているのだろうか。


 陰鬱な表情で花を見つめるロゼッタに、アリステアが近づいて声をかける。


「もしもあの絵画を見たいのなら、私を利用してくれたらいいですよ」

「り、利用……?」


 ロゼッタは思いも寄らぬ不穏な提案に驚き、後退った。


「私は絵画の在処を知っていますから、ロゼッタ嬢を案内できます」

「……」


 甘い誘惑に一瞬だけ揺れたロゼッタだが、力なく首を横に振った。


「そういうのは、良くないですわ」

「どうしてですか? ロゼッタ嬢が見たいと切望している絵画を見られるのですよ?」

「利用される事を自ら提案するのが良くないと言っているのです。あなたは将来この国を担う尊い存在で、特定の一人の為に便宜を図るのではなく、国民全員の為に行動すべきお方ですもの。言葉一つ、判断一つがこの国を左右する立場なのですから、利用される立場になってはなりませんわ」


 それに、とロゼッタは付け加えた。


「先代の国王陛下を守るために秘密にしている居場所を簡単に教えてはなりませんわ。少しだけなら許されるだろうと思っていると、そのうち大きな過ちを犯してしまうものでしてよ」


 きっぱりと言い切ったロゼッタは、流れるような所作で深々と頭を下げると、アリステアに謝った。


「出過ぎた真似をした事をお許しくださいませ」

「いいえ。むしろ、私の立場を真剣に考えてくれているロゼッタ嬢をより好ましく思いましたから気にしないでください」


 優美な笑みをたたえたアリステアが、ロゼッタの手を取って顔を上げさせる。


 アイスブルーの瞳がしっかりとロゼッタを捕らえて放さない。


「ロゼッタ嬢、ぜひ私と――」


 アリステアが言葉を紡いだその時、ファウストが姿を現わし、アリステアに声をかけた。


「アリステア殿下、国王陛下がお呼びです」

「父上が? ……しかし、私は今ロゼッタ嬢を……」

「バルバート嬢は私がお送りするのでご心配なさらないでください」

(ええっ?! シルヴェストリ公爵閣下のお見送りなんてご遠慮するわ!)


 ファウストの言葉を聞いたロゼッタは、ファウストに告げるお断りの言葉を心の中であれこれと考えるのだった。

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