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おろし

「やあやあやあ。かづら。どうしたんだい?浮かない顔をしているね」

「きづた」

「違うだろ。今はこごめだってもう」




 やしろに棲み処に戻って休息を取るように言われて了承したかづらは今、魔界の奥の奥、どの妖怪も訪れないような毒々しい色の花びらが舞い散る空間で、きづたに会っていた。



 消滅してしまったはずの、友であり、のばらの父でもあるきづたは、こごめと呼べと強請る。きづたはもういないのだと念を押す。

 灰色のもやの形。魔界でも実像を形作れないくらいには存在自体が不安定らしい。



 憑依を解く薬が完成して圭の元へ向かおうとしていたこごめを、九尾の妖狐が引っ込んでいろと魔界へ蹴り飛ばした。こごめが意識を取り戻したのは、すべてが終わってから半月が経っていた。



 九尾の妖狐が圭を連れ去った後、かづらはこごめを捜索しに向かった。

 こごめの正体に気付いたわけではない。ただ今後、圭の助けになるかもしれないと思ったからだ。

 九尾の妖狐は気紛れだ。今回は助けてくれたが、今後どうなるかわからない。九尾の妖狐に代わる存在が必要だった。もう、二度と。助けられないなんて事がないように。



 烏天狗国、魔界を隈なく探して、ようやく見つけたこごめと対面した時に、かづらはこれはきづただと気付いた。訳を問われれば直感だしか言いようがなかった。しかも、こごめに否定されれば揺らいでしまうような不安定な直感。しかし、こごめは否定しなかった。




 わずか三日前の出来事である。






「のばらや奥方には会わないのか?」

「だってさ、なぜすぐに会いに来なかったって責められるのは目に見えてわかるし。それに言っただろ。どうして消滅していないのかわからないし、だからこそ、いつ消滅するのかわからない不安定な存在だって。もう一度悲しませるくらいなら、このまま知らせない方がいいかなーって思うんだなあ」

「……わしは会えて嬉しかった。もう一度別れが訪れるとしても」

「あー。うん。うん。拙者もさ。思わないではないんだよ。君と会えて嬉しかったし。思わず肯定してしまうくらいに。でも。でもなあ。うううん。もうちょっと、時間を置くよ。原因も究明したいし。わかったら、もしかしたらこのまま生き返れるかもだし」

「ああ。それはすごく喜ばしいな」


「……圭が心配かい?」

「…ああ。今日圭が烏天狗国に来てくれたんだが、感情をすべてなくしてしまったようだ。話していても、響かない。恐らく。いや。確実に。まだ苦しんでいるんだ。どうにかしてやりたいが、どうしたらいいかわからぬ」

「それで拙者に相談しに来たのかい?」

「おぬしもそのような状況ではない事は百も承知なのだが。頼む。なにかいい案があるのなら教えてくれ」

「本当に大切なんだね」


「…もう、殺したくないのだ」

「うん。うん。拙者も考えるけど、まずは一つ言える事があるよ。君がそんな顔をしてちゃあ、圭も元気にはなれやしないよ。無理にとは言わないけど、そんなに沈む事ではないだろう。圭は生きてこの地に帰って来た。ならばもっと喜びたまえ!ついででもいいから拙者との再会ももっと喜びたまへ!」


「……おぬしは変わらぬな。元気をもらえる」

「ならその元気を圭に渡してきたまえ。もしかしたら空気砲も打てるくらいに元気が出て、嫌な想いをすべて吐き出すかもしれないだろう」

「ああ。そうだな…そうだな。少し、ここで休息を取らせてもらう。それから、圭に会いに行く」

「ああ。存分に休みたまへ!」

「ああ。言葉に甘えさせてもらう」




 かづらは胡坐をかき、翼で前を覆った。少し経てば、か細い寝息が聞こえる。親友の睡眠にほっと胸を撫で下ろすも、不安が消えるわけではない。



 憑依を解く薬を作る際に頂戴したマンドレイクの木の粉。それには圭の魂が一部宿っていた。九尾の妖狐が回収してもはや手元に残ってはいないが、調べる時間はゆうにあった。






「かづらよ。圭は、うん。九尾の妖狐の命を」




 バッと、灰色のもやから突き出た紺青色の翼が、持ち主を無視して久々の登場で鬱憤を晴らすが如く空を勇み打つ音を掲げて、こごめの声をかき消した。


 こごめは興奮する翼を諫めて、にっこり満面の笑みを浮かべた。




「しかし愛の力は偉大だね。一時的だけとは言え、九尾の妖狐を超えたのだから」











(2019.7.22)




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