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第十一話 女の子に庇われる賢人様、カッコ悪い

 しらゆきと契約を結んでから、一ヶ月が経った。

 朝に起きて宿でご飯を食べ、ギルドに向かって薬草採取や街の依頼をこなす日々。


 初めは色々と戸惑っていたが、既に慣れて今では顔見知りも増えた。

 しかし、冒険者との仲は、あまり良くないまま。


 少しは認めてくれたのか、徐々に声を掛けてくれる冒険者はいるのだが。

 イガルを含めた一部の冒険者が、いまだ俺に敵意に近い眼差しを送っているのだ。


「はぁ……どうにかなんないかなぁ」


《まあ、そのうち仲良くなれますって》


「だといいんだけど」


 ティナと会話しながら、俺は冒険者ギルドの中に入った。

 すると、ソフィーが輝かんばかりの笑顔で、淑やかに手を振る。


「ケントさん! 今日も依頼ですか?」


「いや、今日は訓練をしようと思って」


「そうなんですか。

 確かに、ここずっとケントさんは毎日依頼してましたものね」


 何度か頷くと、感心した素振りを見せるソフィー。


「そうしなきゃお金がなくて、ははは」


「それでも、こちらとしては大変助かる思いです。

 一般的な冒険者は、週に二回ほどしか依頼を受けませんので」


「……それ、ちゃんと暮らせるんですか?」


 この世界の暦も、地球と同じだ。

 一日は二十四時間で、一年が三百六十五日。

 つまり、ソフィーの話によれば、一週間で二日しか働かないというわけだ。


 ランクが高い冒険者なら、貯金等があると思うけど。

 俺みたいな低ランクの人だと、毎日依頼を受けなければお金が足りないのでは。


 気になって尋ねた俺に、ソフィーは少し呆れた表情を浮かべる。


「中にはお金がなくなり、奴隷落ちする冒険者もいますよ」


「ど、奴隷落ち?」


「ええ。

 まあ、ほとんどの冒険者が依頼を受ける時は、高額報酬の依頼を狙いますので。

 ですから、ケントさんのように低額依頼を受注していただけるのは、大変ありがたいんです」


 ぱっと頬に花を咲かせたソフィーは、俺の手を取ると嬉しそうに握った。


 くっ、またか。

 ソフィーという受付嬢。

 彼女はやたらとスキンシップが激しくて、俺としては非常に困りものだ。

 こちとら今まで彼女がいた事ないので、こうやった仕草をされると心臓に悪い。


 できるだけさり気なく手を離し、逃げるようにギルド併設の訓練所に向かう。


「じゃあ、俺はこれで」


「はい、訓練頑張ってください!」


 ソフィーに見送られた俺は、早足でこの場を後にするのだった。



 ♦♦♦



「ここが、訓練所か」


《大きいですね》


 ティナの告げた通り、思ったよりも施設内は巨大だった。

 学校の体育館の、二倍ほどの面積がありそうだ。

 天から降り注ぐ陽光が訓練している冒険者を照らし、時折土を踏みしめる音が風に運ばれてやってくる。


「さて、ここに教官がいるはずなんだが」


「来たか」


 声を掛けられた方に顔を向けると、一人の女性がこちらに歩いてくるところだった。

 銅色の髪をポニーテールにしており、只者ではない雰囲気が伝わってくる。


「えっと、貴女が訓練をつけてくれる教官ですか?」


「ああ。

 私はお前達初心者を鍛える、フィーリアという者だ」


 フィーリアさんか。

 歳は二十代前半ぐらいだが、よほど優秀なのだろう。

 でなければ、初心者の教官になれるはずがないし。


 フィーリアさんに案内された先は、訓練所の隅っこだった。

 既に四人の冒険者がそこにいて……げっ。


「あん?

 なんだ、お前も初心者講習を受けるのかよ」


 俺の姿を見とがめると、嫌そうな顔をする男性冒険者──イガル。

 まさか、イガルも教官になるとは思わなかった。


《縁って続くものですからね》


 こんな縁はない方が良かったわ。

 残りの冒険者の内、二人ほどもあからさまに微妙な表情を浮かべているし。


「『雑草屋さん(ポーション)』も一緒かよ」


「あんたは大人しく薬草採取してればいいんじゃないの?」


 つり目の少年と、気の強そうな少女がそう告げてくる。

 少年が言った、『雑草屋さん(ポーション)』という言葉。

 なんと、これは俺の二つ名なのだ。


 冒険者にとって、名誉である二つ名。

 しかし、俺の二つ名は良い意味で付けられたわけではない。

 子供でもないのに、薬草採取や街の雑用ばかりしている人間。

 その事が情けないという意味なのだ。

 また、【神の寵愛を受けし者(ユニークホルダー)】が役に立っているのか、という皮肉が込められた由来もある。


 本来、【神の寵愛を受けし者(ユニークホルダー)】は伝説等で語り継がれ、書かれているスキル内容は凄まじい。

 しかし、俺は冒険者達の前で、スキルを行使した事がない。

 つまり、本当にユニークスキルを持っているのか、と根本的な疑念を抱かれているというわけだ。


「だ、ダメだよ二人とも。そんな事を言っちゃ」


「だって、本当の事だろ?

 ギルドから装備を貰ったらしいけど、こいつが使えるとは思わないし」


「そうそう。

 あたし達なら、ワンパンで倒せそうだよ」


「で、でも……」


 チラリと、最後の一人が伺うように俺を見た。

 セミロングの水色の髪を弱々しく揺らし、どことなく庇護欲を掻き立てられる少女だ。


《女の子に庇われる賢人様、カッコ悪い》


 おい、やめろ。

 その言い方は、悪意がある。

 そもそも、俺からすれば、庇われた意識がないのだが。

 いきなり絡まれて、そのままフォローされただけだし。


 ま、まあ。

 ともかく、言われっぱなしもあれなので、俺もなにか言う事にしよう。

 そう結論づけた俺は、言い合いをしている両者の間に入った。


「なんだよ?」


 怪訝げな顔立ちをする少年に、虚勢を張って不敵な笑みを向ける。


「まあ、すぐに皆さんに追いつけるよう頑張りますんで」


「はぁ? そんなの無理に決まってんじゃん」


 黒髪の頭を搔くと、同色の目を細めて断言する少年。


「ま、あたし達の足を引っ張らないでよね」


 威嚇するためか、少女も茶色の瞳に戦意を宿して追随。

 イガルは鼻を鳴らして静観しており、場に緊張感が漂いはじめる。

 しかし、フィーリアさんが手を鳴らした事で、あっさりと霧散した。


「話すのもいいが、早速訓練に入らせてもらうぞ」


『は、はい!』


 声を揃えて姿勢を正した俺達を見て、フィーリアさんは満足げに頷く。


「うむ、元気がいい返事だ。

 ではまず、お前達の動きを見せてもらう」


「じゃあ、『雑草屋さん(ポーション)』が最初な!」


「え、俺?」


 思わず尋ね返すと、少年はニシシと笑って口を開く。


「どうせ、この中では一番ザコなんだから、さっさと教官にやられてこいよ」


「……わかった」


 悔しいが、彼が言っている言葉は間違っていないだろう。

 外で素振り等はしていたが、今日まで本格的に訓練をしていなかった。

 対して、彼等は子供の時から、大人達から手ほどきを受けているはずだ。

 前提条件が違うとはいえ、やはり男としては複雑な心境である。


「最初は、お前からか。

 たしか、ケントだったな?」


「はい。

 よろしくお願いします」


 皆から少し離れたところで、俺はフィーリアさんと向かい合う。

 礼をした俺に頷き、彼女は手甲を上に向けて手招き。


「簡単な慣らしなので、私は素手でいかせてもらう」


「了解しました」


「うむ。

 では、いつでもかかってこい」


「はい!」


 訓練所では、実戦を意識して本物の武器を使うらしい。

 だから、俺は腰のショートソードを抜き、正眼に構える。


 どこまで行けるかわからないけど、せめて一矢報いてやるぞ。

 浅く呼吸をした後、俺は地を蹴ってフィーリアさんとの間合いを詰めるのだった。






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