表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

第十話 私、ケントさんのためならなんでもしますから!

「──はい、確かに。

 薬草三十株、受け取りました。

 では、報酬の五十ゴル三回分、百五十ゴルになります」


「ありがとうございます」


 ソフィーから受け取ったお金を数え、それを袋の中にしまう。

 なんとか、依頼が終わったか。

 子供でもできる初級依頼なのに、何故かこんなに疲れてしまった。

 やはり、現代人に冒険者はキツかったか。


 そんな事を考えていると、目を細めたソフィーが俺の手を握る。


「ケントさん、どうかしましたか?」


「えっ?」


「顔に疲労が色濃く出ています。

 なにか大変な事があったんじゃないですか?」


「まあ、あるにはありましたけど……」


 主にニート箱耳族とか、引き篭もり箱耳族とか。

 曖昧に頷いた俺を見て、ソフィーの顔色が曇り空になる。


「なにか私に手伝える事があったら、教えてくださいね。

 私、ケントさんのためならなんでもしますから!」


 俺のためなら、なんでもしますから。

 なんでもしますから。


 ……はっ、いけない。

 あまりにも素敵な響きだったから、つい我を忘れてしまっていた。

 恐ろしい。これを見越して、ソフィーは言ったのだろう。

 冒険者の心を手玉に取る、悪女だな。


 リップサービスだよね?

 流石に、会ったばかりの人を、心から助けたいなんて思うはずがない。

 ……スキルの効果で、ややこしい事態になっていなければ。


「気持ちだけ受け取っておきますね」


「そうですか……」


 やんわりと手を離した俺に、ソフィーはしょんぼりした顔を向けた。

 しかし、直ぐに取り繕った笑顔になると。


「では、私はケントさんにオススメの依頼をキープしておきますね」


「え、それは他の冒険者に悪いんじゃ」


「大丈夫です!

 私がなんとか説得してみせますから!」


「はぁ、そうですか」


 不安だ。

 力こぶを作っているソフィーを見ていると、どうしても安心できそうにない。

 とはいえ、素直にそんな事言えるわけないし、これは諦めるしかないか。


 ひっそりとため息を漏らした俺は、にこやかな笑みのソフィーと、ジロジロ見てくる冒険者達を尻目に、ギルドを後にするのだった。



 ♦♦♦



「結局、一泊分しか手に入らなかったな」


 途中で店に寄り、日用雑貨を買った後。

 宿の部屋に戻ってきた俺は、ベッドに腰を下ろして一息つく。


《まあ、初日でしたし仕方ありませんよ》


「そうだけどなぁ。

 早いとこ慣れて、貯金できるようにならないと」


 それに、俺には養わなければならない人が増えたしな。

 憂鬱になりながら、右手を部屋の中央に翳す。


「〈召喚(サモン)・しらゆき〉」


 瞬間、床に魔法陣が出現。

 暫く青い輝きを放っていたが、陣の上に箱が現れた事により消え去る。

 モゾモゾと箱が揺れた後、フタが開いて白銀のウサ耳が顔を出す。


「……ご飯?」


「違う。

 改めて、お前と話をしとこうと思ってな」


「……おやすみ」


「まあ、待て」


 フタを閉めようとする少女──しらゆきを止め、俺は懐からある物を取り出した。

 すると、彼女は目をまん丸に開き、ゾンビの如き手つきで腕を伸ばす。


「……にくー」


「ご褒美は、俺と話してからだ」


「……わん」


 よし。

 どうにか、話を聞く体勢が取れたぞ。

 ユラユラとウサ耳を揺らすしらゆきを尻目に、俺は安堵で胸をなで下ろした。


 箱耳族と契約してしまった後。

 なってしまったものは仕方ないと、まずは名前をつける事にしたのだ。


 結果、髪の色と連想した雪兎から、彼女をしらゆきと命名。

 最初は漢字にしようかと思ったが、なんとなく気が抜ける性格をしているので、ひらがなでしらゆきとした。


 で、この契約に関してなのだが。

 なんと、契約した魔物を、こうして呼び出す事ができるのだ。

 そのために、〈召喚(サモン)〉というスキルがある。

 恐らく、【叡智を見通す物(ステータスプレート)】で確認すれば、俺のスキル欄にそのスキルが書かれているだろう。


 と、話が逸れた。

 大人しく待ちの姿勢になるしらゆきに、俺は簡単な質問を投げかける。


「それで、お前はなにができるんだ?」


「……なんか撃つ」


「なんか?」


「……そう」


 コクリと頷き、小さな右手を翳すしらゆき。

 すると、手のひらに魔法陣が展開され、そこから風が吹く。


「おお!」


「……どやぁ」


 胸を張るしらゆきだが、確かにこれは凄い。

 異世界に来て、初めてそれらしい魔法を見た気がする。

 ファンタジー生物の、ファンタジー攻撃とは。


「それで、他にはなにができるんだ?」


 自然と声を弾ませた俺を見て、しらゆきは首を横に振った。


「……疲れる」


「これ以上は燃費が悪いって事か?」


 無言で肯定。

 えーっと。

 つまり、しらゆきはそよ風を吹かせる事しかできないのか?

 なんというか、凄く微妙な能力だな。


 俺としては、もっと強力な魔法が使えると思っていたんだが。

 いや、燃費が悪いだけなのだから、使えない事もないのか?


《まあ、これは彼女の性格の問題じゃないでしょうか》


「だろうな。

 全身からやる気ないオーラが出ているし」


「……肉よこせ」


「ああ、はい」


 串焼きを手渡すと、もきゅもきゅと口に運んでいくしらゆき。

 リスのようにほっぺたを膨らませ、一生懸命食べている。


 これだけを見たら、可愛い少女の食事なんだけどなぁ。

 口を開けば、罵倒やダメ発言。

 本当に、中身で損をしている残念美少女みたいだ。


「……美味しくない」


「そりゃあ、一番安い串焼きだからな」


 あっさりとそう返せば、しらゆきはジト目で俺を指差す。


「……この甲斐性なしが」


「文句言うなら、もうあげないぞ?」


「……おーぼー」


 あっかんべーをした後、フタを閉じて引き篭もったしらゆき。

 とりえずはもう聞く事もないし、還すか。

 召喚を解除すると、しらゆきは魔法陣に包まれて消え去った。


「はぁ……」


《どうするんですか?》


「どうするもなにも、今からしらゆき用のご飯を宿に頼まなきゃ」


《お金、足りるでしょうか》


「……足りなかったら、土下座でもして残飯を恵んでもらうよ」


 明日からは、積極的に依頼をこなさなければ。

 立ち上がって気合いを入れた俺は、重い足取りで部屋を出るのだった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ