第十話 私、ケントさんのためならなんでもしますから!
「──はい、確かに。
薬草三十株、受け取りました。
では、報酬の五十ゴル三回分、百五十ゴルになります」
「ありがとうございます」
ソフィーから受け取ったお金を数え、それを袋の中にしまう。
なんとか、依頼が終わったか。
子供でもできる初級依頼なのに、何故かこんなに疲れてしまった。
やはり、現代人に冒険者はキツかったか。
そんな事を考えていると、目を細めたソフィーが俺の手を握る。
「ケントさん、どうかしましたか?」
「えっ?」
「顔に疲労が色濃く出ています。
なにか大変な事があったんじゃないですか?」
「まあ、あるにはありましたけど……」
主にニート箱耳族とか、引き篭もり箱耳族とか。
曖昧に頷いた俺を見て、ソフィーの顔色が曇り空になる。
「なにか私に手伝える事があったら、教えてくださいね。
私、ケントさんのためならなんでもしますから!」
俺のためなら、なんでもしますから。
なんでもしますから。
……はっ、いけない。
あまりにも素敵な響きだったから、つい我を忘れてしまっていた。
恐ろしい。これを見越して、ソフィーは言ったのだろう。
冒険者の心を手玉に取る、悪女だな。
リップサービスだよね?
流石に、会ったばかりの人を、心から助けたいなんて思うはずがない。
……スキルの効果で、ややこしい事態になっていなければ。
「気持ちだけ受け取っておきますね」
「そうですか……」
やんわりと手を離した俺に、ソフィーはしょんぼりした顔を向けた。
しかし、直ぐに取り繕った笑顔になると。
「では、私はケントさんにオススメの依頼をキープしておきますね」
「え、それは他の冒険者に悪いんじゃ」
「大丈夫です!
私がなんとか説得してみせますから!」
「はぁ、そうですか」
不安だ。
力こぶを作っているソフィーを見ていると、どうしても安心できそうにない。
とはいえ、素直にそんな事言えるわけないし、これは諦めるしかないか。
ひっそりとため息を漏らした俺は、にこやかな笑みのソフィーと、ジロジロ見てくる冒険者達を尻目に、ギルドを後にするのだった。
♦♦♦
「結局、一泊分しか手に入らなかったな」
途中で店に寄り、日用雑貨を買った後。
宿の部屋に戻ってきた俺は、ベッドに腰を下ろして一息つく。
《まあ、初日でしたし仕方ありませんよ》
「そうだけどなぁ。
早いとこ慣れて、貯金できるようにならないと」
それに、俺には養わなければならない人が増えたしな。
憂鬱になりながら、右手を部屋の中央に翳す。
「〈召喚・しらゆき〉」
瞬間、床に魔法陣が出現。
暫く青い輝きを放っていたが、陣の上に箱が現れた事により消え去る。
モゾモゾと箱が揺れた後、フタが開いて白銀のウサ耳が顔を出す。
「……ご飯?」
「違う。
改めて、お前と話をしとこうと思ってな」
「……おやすみ」
「まあ、待て」
フタを閉めようとする少女──しらゆきを止め、俺は懐からある物を取り出した。
すると、彼女は目をまん丸に開き、ゾンビの如き手つきで腕を伸ばす。
「……にくー」
「ご褒美は、俺と話してからだ」
「……わん」
よし。
どうにか、話を聞く体勢が取れたぞ。
ユラユラとウサ耳を揺らすしらゆきを尻目に、俺は安堵で胸をなで下ろした。
箱耳族と契約してしまった後。
なってしまったものは仕方ないと、まずは名前をつける事にしたのだ。
結果、髪の色と連想した雪兎から、彼女をしらゆきと命名。
最初は漢字にしようかと思ったが、なんとなく気が抜ける性格をしているので、ひらがなでしらゆきとした。
で、この契約に関してなのだが。
なんと、契約した魔物を、こうして呼び出す事ができるのだ。
そのために、〈召喚〉というスキルがある。
恐らく、【叡智を見通す物】で確認すれば、俺のスキル欄にそのスキルが書かれているだろう。
と、話が逸れた。
大人しく待ちの姿勢になるしらゆきに、俺は簡単な質問を投げかける。
「それで、お前はなにができるんだ?」
「……なんか撃つ」
「なんか?」
「……そう」
コクリと頷き、小さな右手を翳すしらゆき。
すると、手のひらに魔法陣が展開され、そこから風が吹く。
「おお!」
「……どやぁ」
胸を張るしらゆきだが、確かにこれは凄い。
異世界に来て、初めてそれらしい魔法を見た気がする。
ファンタジー生物の、ファンタジー攻撃とは。
「それで、他にはなにができるんだ?」
自然と声を弾ませた俺を見て、しらゆきは首を横に振った。
「……疲れる」
「これ以上は燃費が悪いって事か?」
無言で肯定。
えーっと。
つまり、しらゆきはそよ風を吹かせる事しかできないのか?
なんというか、凄く微妙な能力だな。
俺としては、もっと強力な魔法が使えると思っていたんだが。
いや、燃費が悪いだけなのだから、使えない事もないのか?
《まあ、これは彼女の性格の問題じゃないでしょうか》
「だろうな。
全身からやる気ないオーラが出ているし」
「……肉よこせ」
「ああ、はい」
串焼きを手渡すと、もきゅもきゅと口に運んでいくしらゆき。
リスのようにほっぺたを膨らませ、一生懸命食べている。
これだけを見たら、可愛い少女の食事なんだけどなぁ。
口を開けば、罵倒やダメ発言。
本当に、中身で損をしている残念美少女みたいだ。
「……美味しくない」
「そりゃあ、一番安い串焼きだからな」
あっさりとそう返せば、しらゆきはジト目で俺を指差す。
「……この甲斐性なしが」
「文句言うなら、もうあげないぞ?」
「……おーぼー」
あっかんべーをした後、フタを閉じて引き篭もったしらゆき。
とりえずはもう聞く事もないし、還すか。
召喚を解除すると、しらゆきは魔法陣に包まれて消え去った。
「はぁ……」
《どうするんですか?》
「どうするもなにも、今からしらゆき用のご飯を宿に頼まなきゃ」
《お金、足りるでしょうか》
「……足りなかったら、土下座でもして残飯を恵んでもらうよ」
明日からは、積極的に依頼をこなさなければ。
立ち上がって気合いを入れた俺は、重い足取りで部屋を出るのだった。




