―――― 0000 prototype Ⅴ ――――
「…礼拝、ねぇ…いやその前にアークの方が優先か」
元帥からの言葉はどこへやら、一度頭をかいてはわずかに逡巡したもののエースが向かったのは礼拝堂ではなかった。
「ただいま、アーク」
エントランスからの廊下の先、一番近い場所にある部屋の戸を開けたエースはその部屋の主の名に挨拶を重ねた。
アーク、と呼ばれ振り向いたのは墨色の硬めの短髪と、髪と同色の小さな瞳の青年だった。見方によっては三白眼にも見えるその顔は人をあまり寄せ付けない類のものではあるものの見る者によってはかわいらしさを感じるだろう。
「なに」
顔を合わせて開口一番にアークが放ったのは出迎えを歓迎するものとはまるで真逆だった。
「いやこっちに用事はないけどお前が手助けでもほしかったんだろ?」
部屋の主の向かい側に腰を落としたエースはアークの言葉を待った。
「…俺が呼んでくれって言ったのはノーマなんだけど」
「知ってる。けどちょっと僕がノーマのこと怒らせちゃってさ、あいつ、拗ねてどっか行っちゃったもんで」
エースの言葉にアークは顔を上げ、怪訝な顔を見せた。
「お…また随分珍しい顔、何、予定でも狂った?」
「…、別に」
アークが珍しい顔を見せたのはほんの一瞬で、直ぐにまた下を向いてはエースのことなどいざ知らずといわんばかりに自分の作業に戻ってしまった。エースは眼下に広がる細々した金属片に目を移した。
「これ、どの部品だ?」
「ハンマー」
「最近使ってなかったよな、次の指令の時に久しぶりに使おうって?」
「使わなくても整備は必要だし」
およそ半分の言葉数だけで返すアークに慣れたようにエースは質問を返しては一つの金属片を摘み上げた。
「…ちょっと、触らないで」
「これ、ここんとこ欠けてるぞ。蝶番に接する箇所か」
「…見せて」
アークはエースの手中の部品に手を伸ばした。部品は微かに欠けているものの、常人であれば大したことないと放り出していただろう。だがアークは違った、否、この「組織」に属する者なら断じて見逃さない欠落だった。
「なるほど、お前がノーマを呼んだ理由が分かった。僕も見てやるし他に欠陥があったらまとめて出してやる」
は、と目を見開いたアークは目的を伺うかのようにエースを見つめていた。
「他意はない。ただ、かわいいかわいい従兄弟を手伝ってやりたいってだけさ」
「…もうそんなんじゃないだろ、『兄さん』は」
アークは再び目を伏せたもののその言葉にはどこか寂しさが滲んでいた。
「…そうだな、もう、そうじゃない。けどアークやノーマ、リリーにメアリー…それから、アーリア。皆僕の大事な…そうさな、部下、かな」
かたん、とエースはまたひとつ部品を摘まんではにこりと微笑みかけた。
「また見っけ」




