―――― 0000 prototype Ⅳ ――――
「帰ったなら報告せんか、馬鹿たれ」
「げ」
「げ、とはまた随分凡俗な言葉を覚えたものだな。ア」
「エース、です。…今の僕はもうその名は捨てた。今は、ただ。『エース』であればいい…そうでしょう、『元帥』閣下?」
エースがエントランスから伸びる廊下を歩いていた矢先のことだった。
角から音も気配もなく姿を現したのは一人の大老、この『組織』を作り上げた張本人であった。元帥、と呼ばれたその男は目下に立つ人物を見つめていた。そして自らの言葉を遮るように、噛みつくようにエースがその名を訂正してきたことに元帥はわずかに眉間に皺を寄せたもののどこか昔を懐かしむような表情浮かべては至って冷静に答えた。
「…元帥…古い名だ。然し今は指令は無かった筈、そう呼ぶ必要もない。それから。…余り凡俗には墜ちるな、いいな」
釘を刺すように元帥はエースににらみを利かせては重く響く声で続けた。
「儂我は凡俗と関わるべきでない。殺すことに躊躇してしまえば元も子もなくなる」
「…もちろん、心得ていますよ。相手が誰であろうと指令は須らく遂行します」
にっこり、とエースは微笑みオブラートに包んだような言葉を返した。目だけは笑うことなく毅然と元帥を見据えていたが。
「なら良い。他の者にも顔は見せてこい。…その前に『礼拝』は済ませておけ」
「はいはい、了解しました。それじゃぁまたね、…『爺さん』」
ひらり、と手を振りエースは元帥の隣を通り過ぎ廊下を歩いて行った。
「…は、何を今更。お前に爺さんと呼ばれる筋合いはないわ」
廊下に残された元帥は誰もいない空間にぽつりと零した。先程まで見せていた表情とは打って変わり、まるで何かを悼むように、後悔をないまぜにしたようなものだった。




