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第九話 明かされる真理。俺は嘘だと叫ぶ。

(あかつき)の真理


リュウが部屋の中に降り立つと、外の喧騒はほとんど届かず思いのほか静かだった。

そこは小さな部屋だった。中央には石棺があり、正面の壁には見事なレリーフが施されている。床には砂まみれの布のようなものが散乱していた。壁の一部は崩れて外とつながっており、風はそこから来ている。


ここは墓所か。

リュウはすぐにその壁の崩れた部分に駆け寄ってどうなっているか確認したが、その先は崖になっていた。

これじゃ…ここから出られやしない…。


ともかくリュウは内側から扉を開けにかかった。予想通り大きな木材が閂になって扉を塞いでいた。

「ぬぅーー!」

リュウは下からその木材を持ち上げようと踏ん張る。なかなかの重さだがどうにか成し遂げた。


「いいぞ!開けたぞ!」

リュウの声を聴いて、反対側からナイアンビュルゲたちが力を込めたのだろうドアがわずかに開いた。

「ぬぅ!ぬぅ!」

ナイアンビュルゲは体当たりをしているようだ。ドアがまたほんのちょっとだけ開く。どうも古すぎるせいで閂がなくても相当開けにくくなっているようだ。まだ人が通れるほどの隙間は空いていない。


ギャ!ギャ!ギャ!ギャ!

凶暴な大猿の声、翼蜥蜴(アラボルギ)の大群の音も聞こえてくる。ワゲは無事なんだろうか。


リュウはこの状況で何かできることがないか探す。

剣とか斧とか何かないのか?

しかし部屋の中には使えそうなものは何もなさそうだ。そして部屋の中央にある石棺に目が留まった。


石棺の上にはうっすら砂が積もっている。リュウはできるだけ砂を払うと石棺の蓋をはずそうとしたが案の定かなり重いものだった。それでもなんとか一、二ケットだけ持ち上げて蓋をちょっとだけずらすことはできた。そしてずらした蓋を横に思いっきり押した。


その中には…風化した布をまとった骸骨。その骸骨の頭の部分にあるのは…

すげぇ…!これは…これは、なんて綺麗なんだ…!

リュウは状況も忘れてそれに目を奪われた。


それは黄金の宝冠。何百年・何千年前のものかはわからないが見事な輝きを失っていない。

そして宝冠の中央には透き通るような見事な大紅玉がはめられていた。

なんて大きな紅玉なんだ。俺の拳くらいはあるぞ。それに見ろ、この輝き!まるで赤く光っているようじゃないか!これだけで国が一つ買えるんじゃないのか?

リュウは大紅玉に目を奪われていたが宝冠には大きな金剛石も無数に散りばめられておりその一つをとっても城の一つや二つと同じくらいの価値があるのではないかと思わせるのだった。


これが、暁の真理…。なるほど、大した宝だよ。でも…。

そう、今は宝よりもまず扉を開けてナイアンビュルゲやルシディア、それにワゲたちをこの危機から逃れさせないと。


そうしている間にもナイアンビュルゲが何度も扉に体当たりする音がけたたましく聞こえている。どぉーん!どぉーん!

「姫様、これくらいになれば通れるのではありませんか?」

「でも、爺!」



リュウは他には何かないか?と石棺の中を観察すると骸骨はその胸に古びた本を抱いているのがわかった。


本かぁ…。いつもなら大歓迎だけどなぁ…。古代アムダラック語は読むの大変だから勘弁してほしいなぁ。せめてラティリオン語であれば…。

そう思いながらリュウは思わずその本を手に取って最初の頁を開いてみた。

お、良かったラティリオン語だ。これなら得意だ。

そして、そこに書かれていた本の題名は、『暁の真理の書』。


なに!?こっちが宝なのか?この本が?あの宝冠よりも?

リュウは背筋がぞぉーっと冷えるのを感じた。


古代アムダラック人たちが圧倒的に不利な戦いに何度も勝利して周辺の大国を寄せ付けなかったというその秘密がこの本にあるというのか?


リュウが震える手で頁をめくると次の頁には大きな字で次の一文だけが書かれていた。

― 我は秘められし真理を語るものなり

予言書?神の啓示とか?そんな類のやつか?


そして次の頁には…

― 汝が求めたる秘密は オド なり

リュウの全身の毛が逆立つ。

オド!オドだって?!まさか、まさか…。いや二音節の単語なんだ。偶然の一致だろ…。偶然だ…。偶然だ…。


この本は頁ごとに短い文章が一つずつ載っているのだろうか。リュウは頁をめくった。

― 我は オド を語ることを許されざるものなり

なんだなんだ?勿体ぶりやがって。こんなのが宝の本なのかよ。


そして次の頁…。

― オド と呼ばれし者 リュウ よ!


嘘だ!嘘だ!嘘だ!こんなことあるわけがない!

なんだこの本は!なんなんだ!なんなんだ!

リュウは血の気が引き体は硬直した。もう周りの物音など耳に入らない。

リュウの手はガクガク大きく震えだす。手だけではない。足までもガクガクと大きく震える。こんな…、こんなことって…

震える手でやっと次の頁をめくる。

― エクタルバシュ の ディリ が汝に道を示すであろう。

エクタルバシュのディリ?

「どういうことだ!おい、オドの秘密ってなんだ!」


リュウは頁をめくったが次の頁は白紙だった。

「おい!真理の書なんだろ!秘密を示せ!」

白紙の頁を見つめてリュウが叫ぶ。


すると頁の上に小さな光が現れた。その小さな光が文字の形をなぞるように移動するとそこには文字が現れてくるのだった。まるで見えない何者かが光のペンで文字を書いているようだ。

― 我…は… オド …を語ることを…許されず…


「ダメだ!知っていることを話せ!」

今やリュウはまるで本と会話しているようだ。

― オド……は…我…ら……の………

光は何かを伝えようとしているのか?

リュウが固唾を飲んで見守っていると、なんと本は端の方からゆっくりと粉のように崩れ始めた。

「おい…。おい!しっかりしろ!」

本はみるみると砂になっていく。


最後に、崩れ去る最後の瞬間に素早く光が動いて文章が現れた。

幔幕(まんまく)が汝らを運ぶ

その文章が書かれるとすぐ本は完全に砂になり砂の他は何も残らなかった。


▍帰還


幔幕(まんまく)?幔幕って…?

つまり布って言うか幕のことだよな…。

リュウはあたりを見回して散乱している布に気が付いた。もともとはこの墓所の壁一面を飾っていた見事な幕だったのであろうが今は砂まみれですっかり色あせている。


そうか!そういうことだ!

リュウは自分のやるべきことがはっきり分かった気がした。


急いで幕を掴んでこちらは折り畳み、あちらは広げ、そして幕から伸びている無数の紐の一部を自分の体に巻き付け…と忙しなく作業する。


ようやく人一人が通れるくらいに扉の隙間が広がった。

「シオニア!アリス!先に入って!」

シオニアにアリスだって?行方不明になってたって子じゃないか!

ルシディアがそう叫ぶと二人のぐったりした女の子が隙間をくぐり、そのすぐ後にルシディアも飛び込んで来た。


飛び込んでくるなりルシディアの目は宝冠に釘付けだ。

ルシディアは宝冠を手に取って打ち震えている。

「おぉ!なんと見事な!これが…これが(あかつき)の真理!」


それに続いてナイアンビュルゲとワゲも飛び込んで来た。ナイアンビュルゲは肩当てを外してなんとか扉の隙間から入れたようだ。

翼蜥蜴(アラボルギ)どもを防がないと!」

ナイアンビュルゲは扉の内側からも松明をかざして翼蜥蜴(アラボルギ)の侵入を食い止めようとしたが、翼蜥蜴(アラボルギ)はあまり狭い隙間には入ってこないのかこちらの部屋には興味がないようだった。


一方で怒り狂った大猿はものすごい力で扉を殴りつけている。扉ごと壊されるんじゃないかという衝撃だ。

「長くはもたんぞ!その穴から出られるのか?」

ナイアンビュルゲは壁の崩れたところに駆け寄って、その先が底知れぬ崖になっているのを見た。ここからの脱出はとてもできそうに見えない。

「無理だ!崖になってる。それより、この紐をしっかり体に結びつけるんだ!」

リュウが叫ぶ。

幕は大昔に壁にかかっていたのであろう、丈夫そうな太い紐がたくさんついている。リュウは幕をうまい具合に折りたたんでみんなが体に結び付けやすいように紐を伸ばしておいたのだ。


「?どういうつもりだ?」

「これで風に乗るんだ!早く!」

「なんだと!正気か!?」

「全員、早く!」

各自はその紐をしっかり自分の胸にあるいは腕に括り付けた。

ぐったりしているシオニアとアリスにはナイアンビュルゲも手伝ってしっかりと紐が結びつけられた。


「よし!飛ぶぞ!」

リュウは穴の際に全員を誘導した。

穴をくぐると三ゲールほどは岩のトンネルのようになっており、その先は崖だ。

崖の底は夜の暗闇にまぎれまったく見えない。下に木があったとしても落ちればまず助かるまい。


「全員覚悟決めろよ!ヨーラ!で飛び降りるぞ。ラと同時だぞ!」

いつの間にかリュウが全員に指示を出していた。全員崖のぎりぎりに立ち、固唾を飲んでリュウの合図を待っている。

「ヨーラ!」

全員が一斉に崖から飛び降りた。すごい勢いで落下していく。

「うおおぉぉぉぉ!」

暁の真理!信じるぞおおぉぉぉぉ!

今にも地面に叩きつけられるのではないかという恐怖。いや、その前にこの落下の速度に体が耐えられるのか、体中がひっくり返るような感覚。

そして、崖下からものすごい風が吹きあがり、一同を括り付けている大きな幕がその風を受けて広がった。

幕はそのまま風を受けて高く高く舞い上がっていく。

今度はすごい上昇の速度だ。

「きゃー!」

「ぬおー!」

もうみんな何にも遠慮しない。叫びたいだけ叫んでいる。

リュウはぎゅっと目を瞑っている。


そして…、上昇が落ち着いた。

リュウは目を開く。


ふわり。

なんと、リュウたちは膨らんだ幕に支えられて空中に浮かんでいるのではないか!遠くを見るともういまにもサウラーが顔を出しそうな明るさだ。

リュウは自分たちが山の頂上より少し高いところに浮かんでいるのがわかった。上を見ると幕がうまい具合に広がり風を受けている。

「みんな!見てみろよ!ほら!すごいぞ!」


学院が、街が、はるか下の方にミニチュアのように見えている。そしてその先には海が広がっている。

海の向こうからサウラーの最初の光が射す。

まぶしい!リュウは目を細めた。そして下の方を見る。

街の建物が、森の木々が、山襞(やまひだ)が、横からサウラーに照らされて細かい濃い影でくっきりとその存在を浮かびあがらせた。

なんて綺麗な眺めなんだ!

その光景はきっと一生忘れられないものになるだろうとリュウは思った。


高度が少しずつ落ちていく。

リュウはうまく紐を引っ張って幕の向きや形を変えて旋回しながら学院に降りられるように調整した。

学院の敷地では何人かの子供たちがうろうろしているのが見えた。

あれ?あれセドじゃないか?ソータもいる。

セドやソータはリュウたちが上から降りてくるのを指さしてあんぐりと眺めていたが、今や着陸というくらいになると「オド!ワゲ!」と手を振りながら駆け寄ってきた。

「みんな何やってるんだ?まだ寝てる時間だろ?」

「何言ってるんだ!お前たちが帰ってこないから、失踪したかと…。夜通し探してたんだぞ!無事で良かった!」

ソータの顔は今にも泣きだしそうだ。

「なんで…?なんでそんなに一生懸命?」

「馬鹿野郎!何言ってるんだ!俺たち友達だろ!」

「友達…?」

リュウは何を言われたかわからないようにきょとんと聞き返した。

「そうだよ!友達だ!」

ソータが力強く応える。

そうするとなぜだかリュウは胸がいっぱいになって涙があふれだしそうになった。

そしてソータとセドとそれに周りから走り寄ってきた寄宿舎の学生たちはリュウとワゲを中心にしてその無事を喜び合うのだった。

読んでいただきありがとうございます。

続きの最終話は短い後日談です。時間をおいてみていただいた方が良いかもしれません。


執筆のモチベーションになるようにコメントなど声援をいただけるととても嬉しいです。

よろしくお願いします。

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