第六話 石室突入!俺は突入したくないのに…。
▍草むら捜索
「ワゲ!よくやったぞ!…それにしても何でお前急に出走したの?」
「いや、なんか気が付いたら競争に参加してたんだ。」
…まぁいいか。こいつのおかげでメダリオンが手に入った。先ほどの解読手法を実物のメダリオンに当てはめると大耳王の葬儀の日付がはっきり読み取れた。その日付は…。
「おいおいおい、なんてこった!今日じゃないか!おぉ、運命の神カダーよ!運命の石板になんてこと書きやがるんだ!」
いや、もしかしてこの競技会の由来がそもそも大耳王の葬儀なのかもしれないな。だとしたら大耳王のメダリオンが受け継がれているというのも頷ける。
もうすぐ夕方だ。蝋燭岩の上に夕日が乗っかっているように見える場所を探さないと。
その時、大人の男二人を引き連れてルシディアがやってくるのが見えた。
「ワゲ、すごいじゃないか。さっきの見てたぞ。」
流石偉いお姫様はワゲのこともう呼び捨てだよ。
男二人は護衛だろうか?一人は腰に剣を帯びていて白髪交じり。察するに姫様のお守り役というところだろうか。もう一人は全身を覆う茶色いローブをまとってフードをかぶっており珍しいことにどうも魔導士のようだ。フードで顔はよく見えないが青白っぽい細い顔のようだ。年齢はわからない。
「悪いが今時間がないんだ。またな。」
「お前は貴人に対する礼儀を知らないな。」
自分で貴人って言うのかよ。いきなりお前呼ばわりだし。
「オドだ。」
「良ければこの前の借りを返そうか?何か急いでる事情があるんだろう?」
うーん。ルシディアは気に入らないからあまり手を借りたい気はしないが、石室を見つけるには手が多い方が良さそうだ。
「なら、夕方に蝋燭岩の上に夕日が乗っかって見える場所を探してくれ。」
「なに?随分奇妙な事情だな。」
ルシディアが魔導士の方を見ると魔導士は頷いた。
「なんでそんな場所を探している?」
「訳を言わなきゃ協力してくれないなら協力しなくていい。」
「ふぅ。まぁいいだろう。カラコ、わかるか?」
ルシディアは御付の魔導士に問いかけた。
「この季節、もうじき夏至ですからサウラーはだいたいあのあたりに沈みます。」
と言ってカラコと呼ばれた魔導士は西の方の一点を指さした。
「それが蝋燭岩と重なる地点ということは、おおむねあのあたりでしょう。後は夕方実際にあのあたりに立って蝋燭岩とサウラーを観測しながら位置を特定するのが良いでしょう。」
「そんくらいは俺だってわかってるよ。それをやるのに人手が欲しいって言ってるんだ。」
「では行くか。少し早いが、夕方となるとそうのんびりもしていられまい。」
魔導士のカラコが指し示した先は学院の遊休地だった。膝下くらいまで草が伸びている広い野原でところどころ低木も生えている。もう少し行くとその先は森になりさらにその先は敷地の外というかもう山だ。
そこからは蝋燭岩がよく見えた。
「オド。お前たちはプロシェルから言われてここに来たんだな。」
ルシディアの口から突然プロシェルの名前が出てリュウは心底驚いた。
「なんだと!…なんのことだ。」
「誤魔化さなくていい。傭兵団に、左手の革靴団に石室捜索を依頼したのは私だ。お前たちが革靴団の者だと確信がなかったが今はもう確信した。このあたりに石室があるということだろう?」
こいつが雇い主?本当に?でもプロシェルの名前と石室が出てくるんだから多分本当だ。
「…」
「このまま日が暮れるのを待つと辺りは暗くなるから、入り口を探すのは明日以降になるだろう。どうせ蝋燭岩とサウラーが重なる場所と言ったってそんなに正確な場所までは特定できまい。大耳王の時代からの誤差もあるだろう。私は…待ちたくないんだ。今からみんなでこの辺を探そうじゃないか?」
ルシディアの言うことはその通りだ。正確な場所は特定できないだろうということはリュウも思っていた。だからあたりをつけて周辺を捜索するしかない。
「いいだろう。『列王外記』では石室のことを神聖なる岩屋とも書いてあった。もしかしたら地面が岩になっているのがその場所かもしれない。」
「やはり、『列王外記』か。しかし蝋燭岩の話はどうやってわかったんだ?」
「…メダリオンに書いてある。」
ここで魔導士カラコは感嘆した。
「なんと。あのメダリオンを解読したとは!古代アムダラック語で複雑なアナグラムが施されており誰も解読できなかったものだ。」
「アムダラック人のアナグラムには癖があるんだよ。あとゲマトリアもあったぜ。」
「信じられぬ。こんな子供があんな複雑な文章を解読するとは。」
「それにしても競技会で優勝してメダリオンの実物を手に入れるとはな。くくっ。くはっはは。あのメダリオンは当時かなりの数が作られていて、今でも結構骨董品で流通しているんだぞ。学院長室でも見かけたな。くっくく。なかなか頼もしいじゃないか。ははは。」
ルシディアは吹き出しそうだった。
リュウとワゲ、それにルシディアとカラコ、もう一人のルシディアの護衛の騎士のナイアンビュルゲはあたりの草原に分散してなにか怪しい入り口のようなものはないか、地面が岩場になっているところはないか探し、やがてリュウがそれを見つけた。
「おーい!ここ!岩場になってるぞ。」
遠くから見ると付近と同じように草が茂っているだけだが他と違ってそこの地面は岩になっていた。
リュウが蝋燭岩を眺めるとちょうど蝋燭岩の上にサウラーの日輪が乗っかる形になっていた。
夕方の風は気持ちよく、蝋燭岩の光景を見るとリュウにはなんだか自分が遠い国、物語の中にいるように感じられた。
入り口がないか岩場を丹念に探すと一部が埋められたように土になっていた。そこをみんなで少し掘ると木製の床のようなものが現れた。それは木製の大きな蓋だった。二人がかりで蓋をはずすと中には暗い空間が斜め奥の方に広がっているのがわかった。
その木製の蓋はそれほど古い物には見えず、土も最近埋めたように感じられ、リュウは不審に思ったがそこまで追求するのはもう俺の仕事じゃないと感じた。
「ここだな。これで俺たちの仕事は完了だ。そういうことでいいんだよな?」
「あぁ…!いいとも!よくやってくれた!感謝するぞ!」
ルシディアは体を震わせていた。
▍石室の逃走
サウラーはもう山の後ろに隠れてしまったが辺りにはまだ少し明るさが残っていた。
「姫様!」
ナイアンビュルゲの低い声が警告を発した。
いつの間にかリュウたちはすっかり例の男たちに囲まれていた。
「図書館の人!」
とリュウが唸る。
「守護団。現れたな。」
「守護団?」
ルシディアはこの男たちを知っているようだ。
もう周囲は薄暗く、男たちの姿はあまりよくは見えないがどうも矢をつがえてこちらを狙っているようだ。
まじかよ。この距離、この人数で矢なんて放たれたら…。稀覯本室に侵入する罪はそこまで重かったのか…。
「私が盾になります。その穴に飛び込んでください!」
ナイアンビュルゲは鎖帷子を着て上腕を覆う肩当ても着けている。他の人間よりは少しは矢に耐えられそうだ。
「爺、すぐ追いついて来いよ。」
ルシディアはそう言うとさっと穴に飛び込んだ。カラコもそれに続く。
おいおいおい。この穴の中どうなってるんだよ。よく飛び込めるな。
その時ヒュンと矢が素早く飛んでくる音がした。矢はまったく見えない。それがリュウには一層恐ろしかった。
「ヒー!くそっ」
リュウとワゲも穴に飛び込んだ。
穴は…それは穴と言うより何か洞窟のようなものの入り口で大した深さはなかった。それは下に向かって行く緩やかな坂になっていて二十ゲールほど進んだところにルシディアたちがいた。そこでカラコが何かの魔法だろう、先が明るく光る棒のようなものを持って照らしていた。
その明かりに照らされているものは明らかに人工的な石壁の通路。足元も石畳のようになっている。カラコの光る棒の明かりでは先の方がどうなっているのか見えない。
ナイアンビュルゲも飛び込んで来た。
「姫様!早く奥へ行ってください。ここは危ない。」
暗闇での明かりは良い的になってしまう。一行は足早に奥に進んだ。
少し行くと通路は左に折れていた。これで少なくとも矢の的になることは一時的には回避できる。
「図書館の人たち、追ってこないな。」
リュウがそう言うとルシディアが不審がった。
「図書館の人?あれが図書館の人のわけがあるか。あれは守護団を名乗る連中だ。実体は誘拐団だと私は踏んでいる。」
「えっ。やっぱそうかぁ。そうだよなぁ。」
「それにしても連中なんで追ってこないんだ?中に入れない事情でもあるのか?」
リュウが単純に感想を言う。
「中に入れないのではなく、入る必要がないのかもしれないぞ。」
ワゲが言うとみんな押し黙った。
話している間にも通路は右に折れ左に折れ、あるいは分かれ道と複雑な様相を呈していた。
「なんだこれは。迷路ではないか。」
「大丈夫かよ。ちゃんと出られるんだろうな。」
リュウだけではない。一同が同じ心配をしていた。
「お前たち地図とか持ってるんだろうな?」
「何を言う。中のことはさっぱり知らんぞ。入るのも初めてだ。石室の場所も知らなかったのだぞ。」
気が付けばこのリュウ、ワゲ、ルシディア、カラコ、ナイアンビュルゲの五人が固まって真っ暗闇の中を地図もなくさまよっている状況だ。カラコの魔法の明かりだけが唯一のよりどころだがその明かりもせいぜい一ゲールちょっとの範囲を照らしているだけで心許ない。リュウの左腕などもうほとんど暗闇の中にあって見えないほどだ。
知らず一行は明かりを中心に密集して歩いていた。
何だよ…この状況。こいつら勝算があって石室に飛び込んだわけじゃないのか…。おいおい、これ出られるのかよ。もしかしてもう二度とサウラーの顔を拝めないなんてことないよな…。
道は複雑に入り組んでいてリュウの方向感覚はまったくなくなっていたが時折段差のようなものもあり道が下り坂になっているのはわかった。
「ここからははっきりと階段になっています。姫様お気を付けて。」
「おい、お前らどこに行くつもりなんだ。どんどん下に行っているぞ。まるで勇者ベディアタスの黄泉の迷宮みたいじゃねーか。」
「残念だが、私たちには魔法の小石はないな。」
「おい!言ってる意味わかるだろ!」
リュウはこの状況で余裕がなくなってきている。もともと気の長い性格でもなくルシディアに怒りをぶつけた。
「少年よ。今は諍いをしている場合ではなかろう。我々の優先事項は暁の真理だ。」
ナイアンビュルゲが諭した。
「暁の真理?なんだそれ…。それがお前たちの目的?そうだ、それにあの連中、守護団っていうのは一体?」
「質問が多いな。まぁいいだろう。お前たちは役に立っている。暁の真理は古代アムダラック人が大切に崇拝した宝だ。石室にあると言い伝えられている。どんなものかはわからないが私たちはそれが聖御物ではないかと期待している。そうでなくても祖国奪還の軍資金の足しになるものならそれでよい。」
「聖御物!」
聖御物だって!もう伝説とか神話の話じゃないか。神が人間に与えたなんかすげー武器とか宝だよな。
「信じられないという様子だな。別に信じなくても良いが。でも、考えてみろ。古代アムダラック語が読めてあのメダリオンを解読できたお前ならアムダラック人の歴史も詳しいのではないか?彼らの領土はせまく人数も少ないが歴史上何度も圧倒的に不利な戦いに勝利している。そしてついには周辺の大国はアムダラックに侵攻すること自体をすっかり諦めてしまった。だからいまだにここだけは周辺が大国に囲まれているのに独立を保っていられるのだ。どうしてだと思う?」
「それは…中立を宣言して経済力でバランス外交を展開し、学問の力で各国の知識人との結びつきを強め…、それから、そう大国の緩衝地帯として…」
「はっ、ははは」
ルシディアは本当に面白そうに笑いだした。
「賢いのに世間知らずだな。国際政治はそんなものではないぞ。そんなものなら我が祖国は滅ぼされなかった。」
「……。だからって聖御物は飛躍しすぎだろ。」
「それは認める。それは私の願望だ。だが何かしら暁の真理と呼ばれる大切な宝があるということはいろいろ記録に残っている。祖国奪還の軍資金になれば良いのだ。」
「で、あの守護団ってのは?」
「どうも昔から石室を守っている一団らしい。私たちも良くは知らないんだ。まぁ犯罪組織の類だろう。私たちが石室の宝を探し始めたころから時折妨害するようになってな。この前など危うく殺されそうになったこともあったぞ。そうか、あの時もお前たちが助けてくれたんだったか。」
話をしている間に階段を下りきるとまた暗闇の中に複雑な迷路が広がっていた。
ふぅ。落ち着け落ち着け。こんな時こそ落ち着いて冷静に。
こいつらが地図もないのに確信をもって進んでいるのは多分とにかく下に行けばいいと思っているからだな。階段や緩やかな坂になっている下の方に下の方に行っているだけか。
そんで、下に行けばいいと思ってるのは下に行けば宝が、暁の真理があると思ってるからか。
帰る自信がなきゃそこまで冷静じゃないよな。帰りは逆に登ればいいと思っているわけか?勇者ベディアタスの黄泉の迷宮じゃあるまいしそんなに広大な迷路のはずがないと踏んでいるってところかな。
読んでいただきありがとうございます。
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