第三話 俺は被害者だろ!勇ましい女の子が俺を騒動に巻き込む。
▍ワゲの告白
こうして俺たちの学院生活が始まった。
ソータみたいな嫌な奴はいるけどそれは仕方ない。どこに行ったって嫌な奴の一人や二人いるだろう?
俺はもともと本を読んだりするのが好きだから、勉強三昧の日々が始まるかと思うとワクワクする。
毎日あのポタラシア食堂で美味しいご飯が食べられるし、夜は暖かいお風呂でゆっくりして快適なベッドで何の心配もなく眠れる。これが普通の奴らの暮らしなのかなぁ。
プロシェルの所にいる時なんて荒っぽい大人たちに囲まれて仕事、そうじゃなければ雑用の日々だ。人使いが荒いんだよ。この前の仕事なんて赤騎士に切られそうになって死霊に追いかけられて崖から飛び降りたんだからな。命がいくつあっても足りないよ。それに比べて今回の仕事の天国なこと。カナハカシュに感謝あれ!だ。
とは言え、正体もわからない石室というものを探せと言うのは雑な使命だな。
「石室って言っても俺もわからねぇんだよ。そもそも石室がどういうものかってところから考えるのが仕事だな」なんてプロシェルは言ってたけど。
まぁプロシェルのいい加減なところは今に始まったことじゃない。文句を言ってもしょうがないんだ。だいたい俺はプロシェルに逆らうなんてことはできやしないんだから。大きな借りを作っちゃってるからな。
仕事に時間がかかる分学院生活が楽しめる。そう思えば全然悪くないじゃないか。むしろずっと石室を探してるふりをするっていうのも手じゃないか?
いろいろ思うところはあるけど、とにかく俺たちは石室の捜索に着手した。
まずは放課後、学院の敷地内を歩いてそれっぽいところがないか目星をつけるんだ。何しろ学院は広い。後ろの山はさすがに学院の敷地じゃないけどその手前の高台、横幅四ゲンゲールほどが全部敷地なんだからな。
石室って言うからには石の部屋なんだろ?だいたい古いお墓とかどこかの地下室のイメージだよな。そんな雰囲気の所がないか最初は足で稼がないとな。
ワゲは言葉少なにいつも付いてくる。いろいろ常識がなくて苦労させられるけど腕っぷしが強いのは頼もしい。
「ワゲ。学院生活は楽しんでいる?」
「あぁ」
なんと、何の気なしに聞いてみたがワゲは不愛想な様子でこの生活を楽しんでたんだ。
「オドは違うのか?」と珍しくワゲが会話を投げ返す。
「俺は楽しいに決まってるよ。もともと荒っぽいことは嫌いで、本を読んだりする方が好きだからな。セドはいい奴だし。…ソータは嫌な奴だけどな。」
珍しく会話が成立している。この機会にもっと聞いてみるか。
「なぁ、なんで俺のことオドって言うんだ?」
「俺は…俺は記憶がない。はじめての記憶がお前をオドって思ったことだ。それには確信があった…ように思う。多分記憶をなくす前の俺にはお前をオドって言う根拠があったんだ。俺は俺を信じる。」
うーん。はじめてちゃんと聞けた気がする。気がする…けど。
「俺は怖いんだ。自分が何者なのか。あの森で一体何をしていたのか。」
それはそうだろうな。もし自分がそんな状況だったら学院に潜入なんてしてる場合じゃないだろうな。
「お前のことをオドって言うのは、そこだけが記憶をなくす前の俺とのつながりだから…かもしれない。」
…かもしれない、か…。こいつも脳筋に見えて結構悩んでるんだな。
「わかった!俺のことをオドと呼んでいい。俺が許可する!」
「ありがとう」
それにしてもワゲの奴、こんなにちゃんと喋れるじゃないか。普段口数が少ないのは喋れないんじゃなくて単に喋るのが面倒なだけなのか?
▍亡国姫ルシディア
そうこうして銀曜日になった。銀曜日は授業は午前中で終わり午後は自由時間だ。銀曜日の午後と金曜日は街に出かける学生も多い。
俺たちはこの日は学院内の目抜き通りを歩いていた。
ここはいろいろな店が並んでいてまるで街の中みたいだ。さすがレンデン学院はすごいところだな。おしゃれな食べ物屋や本屋・仕立屋・雑貨屋、それに酒場まであるじゃないか。銀曜日の午後だけあって人通りも多い。
歩いてる奴らは同じ学院の生徒が多いのになんだかやけにおしゃれに見える。
俺たちは金がないから買物を楽しむというわけにはいかないな。最低限の生活費はもらってるけど。やっぱポタラシア食堂が最高だな!
石室探索というよりは学院内観光みたいになっちゃってるな。さすがにこんなところにはそれっぽいものはないのかな。でも裏の方もちゃんとみないとな。計画的に歩かないと。
「オド、あれ喰いたい。」
ワゲが店先で見るからにうまそうに焼いている腸詰を指さした。
なんだよあれ、肉の脂のすげーいい匂いが漂ってるじゃん。これはワゲじゃなくても喰いたくなるよ。
「俺も喰いたいけど、金が…ねえ!」
「…」
「あとな、俺らは遊びで歩いてるんじゃないからな。」
そんな話をしながら歩いていると急に店の脇の路地から学生服を着た女の子がすごい勢いで飛び出してきて俺と目が合った。
お、中等部の女の子かな?うちの組じゃなさそうだけど…。長い髪を後ろで一つに束ねてなんか…なんか、ちょっとかわいい?
「おい!誘拐団だ!警備隊を呼べ!」
女の子は俺に叫んだ。
これは?俺は的確な状況判断と行動力には自信があるんだけど、これは?この状況は何?
戸惑っていると脇からばらばらと男たちが三人走り出てきた。剣を持っている!
おいおいおい。
「きゃー!」
周りの人たちもその様子に気が付いて遠巻きに騒ぎ出した。
女の子は俺の方に走り込んできた。危ね。俺は女の子をかわして脇にどけようとしたが、男の一人がこのタイミングを逃すまいと一気に距離を詰め女の子にタックルする。
女の子はすんでのところでタックルをかわしたがその勢いで俺とぶつかって俺は後ろに倒れて尻餅、女の子は俺の上に倒れ掛かるように転倒してしまった。
「おい!邪魔するな!」
女の子が怒鳴る。
えっ?今の俺が悪いの?俺って被害者じゃない?
女の子はすぐに立ち上がったが三人の男に囲まれる形になってしまった。俺もその囲みの中に入っちゃってるわけだけど…。
女の子は腰から短剣を抜くと腰を低くして構えた。と思いきや唐突に正面の男に切り込む。
うぉ。武闘派かよ。勇ましいことで。
短剣はあっけなく男に叩き落されたが、その勢いで女の子は男に首辺りを蹴りつけた。
男がよろめく。
周囲は「おー」とどよめく。
俺は巻き込まれただけの通行人だ。冗談じゃない。屈みながらゆっくりと男たちの間から囲みの外側に出ようとする。別に俺を狙う理由なんてないよな。見逃してくれるよな?
しかし男は俺の腕をぎゅっと掴んだ。
「ちょっとー!俺、関係ねえよ!」
と抗議するが明確に俺に意趣があるらしい。まさか人質?
「おい、ご学友が身代わりになっているぞ。逃げるのか?」
女の子は正面の男がよろめいたところをすり抜けて突破しようとしていたが、俺を掴んでいる男にそう牽制されて振り返った。
そして女の子はちっと舌打ちする。周りの様子を見ながらどうしようか迷っているようだ。
えーっと、俺にできることは何かないか…。そうだ!
「ワゲ!おい、ワゲ!」
ワゲは無表情に成り行きを見守っている。
「ワゲ!やっちゃってくれ!解禁だ。」
その言葉が合図になった。
ワゲが素早い動きで男の顎めがけて強烈な拳を叩きつけると、男はもんどり打って倒れた。そして間髪入れず跳躍すると身を回転させながらもう一人の男の顔面を蹴りつける。
「!?」
残った男が一体何が起こったのかと事態を把握しようとしている間に、ワゲがその男の懐に入り込んで胸を何発か殴打すると、その男は膝から崩れて倒れた。
俺が合図してから三人の男が倒れるまでわずか数カンタック。男たちがうめき声をあげたり身をよじっているのを見るとどうやら殺してはいないようだ。
「おー…、すげぇ…。」俺は嘆息した。
こいつ、この前の約束守ってくれてたんだな。
周囲からは大歓声があがる。
「うわー!」
「ルシディア様―!」
「いいぞー!」
「あの子は何者だ?」
女の子は短剣を拾いながら俺の方をキッと睨んだ。
「やれやれ、まったく余計なところにいてくれたな。」
「なんだと!俺は巻き込まれたんだぞ。俺たちがお前を助けたんじゃないか!」
「俺たち?」
と女の子は俺とワゲを見る。
「まぁ確かにそっちの子には助けられたな。いずれ礼はするぞ。私は恩知らずではない。」
うん?思い返してみると確かに俺はこの子を助けてない…のか?
「お前、名前は?」
「ワゲ」
「お前は何者だよ?」
そう聞くと女の子は最初意外そうな顔をすると、少しニヤっとして答えた。
「私はルシディアだ。こいつら誘拐団だぞ。見ろ、失踪したシオニアのブレスレットをしている。」
そういうとその女の子、ルシディアは倒れている男の腕から綺麗な銀のブレスレットを取り上げた。
その後は警備隊やらが駆けつけて来て事態は収拾したけど、男たちは警備隊が駆けつける前に素早く逃げ去ってしまった。俺はもちろんそれを見ていたけど、追いかける気にはならないよな。
「なぁ、ワゲ。俺らの組にも行方不明のアリスって子がいるよな。」
「あぁ」
「この街は失踪が多いって誰か言ってたよな。」
「うーん」
とワゲは唸った。
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