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第二話 レンデン学院入学。慣れない学院生活で俺は目を回す。

▍私学レンデン学院


あれから二節が過ぎ、俺とワゲは今制服を着て私学レンデン学院の前にいる。

「脳筋のワゲとガキのくせに小賢しいお前が組んだら最強なんじゃね?」という兄貴分のプロシェルの依頼で二人してレンデン学院に潜入させられることになった。

まだたったの二節、たったの十四日だぞ。まだまだ体中アザだらけでここ二、三日でようやく動けるようになってきたばかりだというのに人使いが荒い。

最初の二日くらいは高熱も出て本当に死ぬかもと思ったんだぞ。


潜入と言ってもこっそり忍び込むわけではなく、新入生として正式に手続きして堂々と乗り込む。

俺たちはここでこれから学院の寄宿舎で寝泊まりする生活を送ることになる。こういう事情からも子供の俺とワゲが適任だったのだろう。

とは言え、ワゲには人と混ざっての生活などできないように見える。さっきも威嚇してきた大きな野良の(ガブル)を蹴りの一撃で壁に叩きつけていた。幸い(ガブル)の命は無事だったようで、キャンキャン鳴きながら逃げて行った。オーオー、かわいそうに。どうも敵意を向けてくるものには躊躇なく攻撃するようだ。


俺たちの仕事はこの学院内にあるという石室を見つけること。どこにあるどんなものなのか手がかりがまったくないという雑な依頼だ。だから長期間の潜伏になるかもしれない。

俺「たち」と言っても、ワゲがこの調子だと実質動くのは俺一人という感じかな。ワゲはいざという時のボディーガードくらいに思っておくしかないか。

ワゲは俺と会う前のことはまったく覚えていないようで、どうしてあの森に居たのかもわからないという。記憶喪失ってやつなんだろう。俺を助けてくれた恩もあるということで、プロシェルがここ二節の間の面倒を見てくれていたわけだが…、やっぱりこうやってこき使う魂胆だったんだな。


「おい!お前たち!何をしている!」

学院の入り口で強面の男が怒鳴った。

あー、きっと学院の警備の人だな。うわー、木刀なんて持って勘弁してくれよ。ここそういう学校なの?


するとワゲが一歩前に出た。

あ、やばい!強烈な蹴りが繰り出されるんじゃないか。

「待って待って、止め止め!」と慌ててワゲを止めにかかる。

ワゲはこちらを見てどうしたものかと思案顔だ。

いや、思案するようなことじゃないだろう。先が思いやられる。


その強面の男の方は勘違いしたらしい、「人に向かって止め止め!とは何事か!お前たち何部の何組だ!」

「いや、ちょっと。俺たち別に何も悪いことしてないよ。」

「何?立派な遅刻だろう!」

やけに絡んでくるな。迫力の剣幕でこちらに近づいてくる。


それを見てワゲはどうするか結論を出したようだ。横っ飛びしながら男の腹に横なぎの蹴りを叩きつけた。男は声もなくその場に倒れた。

「うわーっ!やっちまったかぁぁ…。」

学院に入る前からこれだ。俺は思わずおでこに手を当てて唸る。

こうなったらもう押し通るしかない。

「じゃあ、俺たち急ぐんで」とワゲの手を引っ張って何事もなかったように足早に通り過ぎようとすると、強面の男は意外にもすぐに立ち上がった。痛そうにわき腹を抑えてはいるが…。ワゲのやつ一応手加減してるんだな。

「お前たち!ちょっと来い!」

男はこっちに近づいて来ようとはしているが、ワゲに蹴られたダメージでまともに歩けないみたいだ。可哀想に。

こうなるともう穏便にやり過ごすことは無理だな。逃げの一手だ。

俺たちは男に構わずに足早に学舎の中へ逃げ込んだ。きっともう授業が始まっている時間だから早いとこ教室に入って他の学生たちに紛れ込むことにしよう。


プロシェルがどういう手を使ったのか、俺たちは中等部の同じ組に入ることになっている。俺は自分の教室を見つけて駆け込んだ。

ふぅ。見られてないな。俺たちがどこの誰だかばれてなきゃいいんだけど。


教室はまさに講義の真っ最中だったようだ。突然飛び込んで来た俺とワゲは教室中の注目を浴びている。俺と同じ十四歳くらいの三十人ばかりの男女と黒板の前にいる講師だ。

みんな硬直して俺たちの方を見ている。

あー、こいつらからすると突然の闖入者だもんな。静かになっちゃうわけだな。

「コホン」

俺はもったいぶって咳ばらいをした。ひとつ挨拶しておくか。

「今日入学したオドだ。みんなよろしく頼むな。」

俺の名前はリュウではなくオドということになっている。

「だって、ワゲのやつがお前のことオドって呼ぶんだし偽名にもなってそっちの方がいいんじゃね?」というプロシェルの声が脳裡に蘇った。

俺たち二人は同郷の幼馴染って設定だ。村では優秀な二人で、村のみんなの期待を背負って二人で田舎からでてきたんだって。あんまり細かい所は突っ込まれると困るな。


俺は同年代の子供たちと触れ合った経験がほとんどない。この学院にいるのも石室を見つけるという仕事完了までの間だ。こいつらとは友達になるつもりはないがもしかしたら情報集めに利用することはあるかもしれない。せめて邪魔しないでもらえるようにはしたいな。俺は頭の中で計算を巡らせるのだった。


「これは随分な登場だね。今日入学するオド君とワゲ君だね。ひどい遅刻は初日ということで大目に見よう。さぁワゲ君も一言挨拶するんだ。」

うん?ワゲが挨拶だって?えー、あいつ挨拶なんてできるの??

俺は怖々ワゲを見る。ワゲは無表情で立っているだけだ。


「そら、ワゲ君。何か挨拶を。」

「いや」

ちょっ、いやってなんだよ。いやって…。組のみんなちょっとひいてないか?講師の顔もひきつっている。


▍新入生


俺たちは空いている席に適当に座った。

俺が座ると「あっ!」と声をあげる学生がいた。

うん?なんだ?

その学生は体格の良い男子で最初驚いたような顔をしていたがすぐに怒ったような顔をした。

周りの学生たちはそこまで露骨ではないが、何か俺を見てはっとしたような顔をしている。

はて。何かやらかしてしまったのだろうか。まぁいちいち気にしてられない。


講師は授業を再開した。

俺は本を読んだり勉強したりするのが好きだ。武術や剣術みたいな体を使う方は好きじゃないんだよな。今回の仕事は俺向きで嬉しいよ。ちゃんと学校に入って勉強するのに憧れてたんだよなぁ。


授業は算術だった。程度はあまり高くないようだ。

「ソータ君、この場合ラガロの畑の租税は何ハタッシュか?」

ソータと呼ばれた学生が立ち上がった。さっき声をあげて怒ったような顔をした男子学生だ。

「わかりません。三ハタッシュほどでしょうか?」

ソータは決まりが悪そうに小さな声で答えた。

あー、学校で勉強しててもその程度か。畑の面積に標準収穫値を乗じてさらに租税率を乗じれば…簡単な計算じゃねーか。

「違うぞ。当て推量で答えるんじゃなくて式に当てはめて考えるんだ。」

講師に言われてソータは恥ずかしそうに座った。

「じゃあ、新入生の学力を見せてもらおうか。オド君、どうかね?」

そう来たか。俺はすらすらと回答して見せた。

学生たちからは「おー」と感心する声が上がった。

「よし!いいぞ!流石だな。」

講師も俺をほめる。

へへん。やっぱ俺はこういう方がいいな。この前の死霊たちなんて冗談じゃないぜ。うへっ。ストラ山ミコラ村。石室など探さずにずっと勉強して居たいもんだな。

あれ?ソータはこっちを睨んでいる。恨みを買っちゃってるのかな?勘弁しろよな。


「じゃあ、この問題はどうかな?ワゲ君。」

みんながワゲに注目している。俺も注目している。

おいおいワゲ君。どう切り抜けるんだ?手のひらが汗ばむ。

「どうかな?とは?」

ワゲが言うと、教室は一瞬静まり返った後大爆笑になった。

「どうかな?とは?」と真似する者。 「これは傑作だ。ヒーヒッヒ」と腹を抱えて大笑いする者。

俺は冷や汗もので必死にみんなにフォローする。「ごめん。ワゲはこういうの慣れてなくって、慣れるまで勘弁な。」

なんだか頼まれたわけでもないのにワゲの保護者みたいな役回りをやっている。損な性分だよ。


授業が終わると組のみんなが俺たちを遠巻きにしている。どうやら新入生とどう接していいかわからないというところか。確かに唐突に登場したうえにワゲのあの不愛想ぶり、どう付き合っていいのか微妙だよな。


そんな中一人の優しそうな少年がにっこりしながら進み出てきた。

「やぁ、僕はセドリック、セドって呼んでね。」

セド君か。これから情報収集にも利用したいから仲良くなって糸口を作らないとな。周りの連中も距離を詰めて俺とセドの会話を聞いている。


俺は持ち前の気配り術でセドを取り込みにかかる。

「ねぇさっきはすごかったね。勉強ができるんだね!」とセドが言う。

「ありがとう。たまたま得意な所だったんだよ。」と俺は返す。

こういうのは相手のことがわからないうちは謙遜が無難。


「趣味は何なの?」

「読書かな。セドの趣味は?」

ちゃんと相手にもボールを投げ返すのが会話の基本だ。


「僕、この前の休みは港の方に行って来たんだ。」

「へー、どうだった?」

と一見関連性のわからない会話も相手に振って相手にしゃべらせる。

この分ならそうかからず気を許してもらえそうかな。とりあえず最初の情報源は確保できそうだ。


そういえば、ワゲはどうしてるかな?

おっ?意外にワゲの周りにも人が集まって楽しそうにしてるな。しかも女子が多い気がする。一体どんな会話を?


「ワゲ君って変わってるね!」

「あぁ。」

これだけで女の子たちは大受けできゃっきゃと笑っている。えっ?ああいうのが受けるの?都会の子には朴訥な感じが珍しいのかな?それに改めて見るとワゲは目鼻立ちがはっきりしている。もてそうな顔立ちに見えなくもない。


「ワゲ君はどこから来たの?」

「知らない。」

これでまたキャーと大笑い。


「知らないわけないでしょー」

いや、ワゲは本当に自分がどこから来たか知らないんだけど、なんか嘘もつかないでうまく誤魔化せてるな。ああいう会話術もあるのか。覚えておこう。


「おい、新入生!」

そこへソータがやってきた。

「オドだ。」

「じゃあオド!そこはな、アリスの席なんだよ。どけよな。」

うん?アリス?たまたま今日欠席している子の席に座っちゃったのかな。だとしてもいないんだから今日は座っててもいいだろう。何よりソータの言い方が気に入らない。

「知るかよ。空いてるから座ったんだ。」

そう答えるとソータはすごい形相で俺の胸倉を掴んできた。

「てめー!」

そして馬鹿力で俺を持ち上げて力づくでどかそうとする。

「おいっ!何するこの野郎!」

俺はソータに殴りかかった。ソータがいったん手を離して後退したので拳は宙を斬った。


「ソータ君。ちょっと待って。オド君は何も知らないんだから…」

「どういうことだ?この席に何かあるのか?」

「アリスはな!行方不明なんだよ!」

ソータは吐き捨てるように言った。気のせいか少し涙ぐんでいるように見える。

「えっとね。ほらこの街では時々人が失踪するの知ってるよね。アリスもね、この前から急にいなくなっちゃったんだよ。」

セドが事情を話してくれた。

「セド!アリスは失踪なんかしてねぇ。すぐ戻ってくるんだよ!」

なんだ、ソータの奴本当に泣き出しそうじゃないか。他の学生たちはしゅんとしている。そうか、俺がこの席に座った時に妙な空気だったのはそういう事情があったのか。

俺は空いている他の席に移動した。

移動した…が、ソータに気を取られていて気が付かなかった。その時ワゲは敵を見るような目でソータを睨んでいたのだ。

あ、やばい!待て待て!と俺が思った時には遅かった。

ワゲは跳躍からの強烈な踵落としをソータの頭に叩き込んだ。

ソータは一瞬動きを止めると、膝から崩れ落ちて倒れた。

わぁ!しまった。ワゲ。やってくれたな。どうすんだこれ。まさか殺してないよな?


一瞬の静寂。

そして教室中蜂の巣をつついたような大さわぎ。


「お、おい!大丈夫か?」俺はソータに駆け寄った。

良かった。息をしている。うめき声もだしてる。あっ、手が動いた。大丈夫…かな?

「うぅ」ソータは呻きながら手で頭をなでている。目をぎゅっと閉じていて脂汗をかいている。相当なダメージだったようだ。

「お前…。あいつ…何なんだよ…」ソータは絞り出すようにそう言うと戦意喪失。自分の席に座って突っ伏した。


講師が教室に戻ってきた時には、教室は一応は静かに収まっていたのだった。


▍寄宿舎


「ワゲ、武術の授業の他では学院の人に攻撃しちゃだめだぞ。」

一通り授業が終わると俺とワゲは二人で講堂を出た。この機会にワゲに釘を刺しておかないと。こんなことだとすぐに学院から追い出されてしまいそうだ。何より俺の身がもたない。


「それでどうして身が守れる?」

「うーん。相手から攻撃してきた時はしょうがないかなぁ。それでも大怪我させるのはだめだ。」

「殴られたり蹴られたりされるまで攻撃するなと?」

「あー、殴られたり蹴られたりしそうになったらその直前に攻撃するのはいい…かな?」

「そんなことでは本当の危機に太刀打ちできないぞ。」

「本当の危機が迫ってきたら解禁するから、その時はまず俺に言えって。」

「ことわる」

この扱いにくさ!

「頼むよ。言うこと聞いてくれよ。学院でうまくやっていくためには必要なんだよ。」

「約束はできない。だができるだけ要望に沿うことを考えよう。」

ふぅ。今のところはこのくらいで満足するしかないか。


俺たちは寄宿舎に着いた。今日からしばらくはここで寝泊まりするのだ。

俺たちの部屋は一般的な八人部屋だ。机とベッドはそれぞれに専用のものがあるようだ。

厄介なことにあのソータは同室だった。

ソータは俺たちを見ると嫌な顔をしたがワゲにやられて警戒しているのだろう、特に突っかかってくるようなことはなかった。

部屋の他の学生たちも昼の騒動を聞いているはずだ。俺たちに話しかけてこようとはしなかった。そうだよなぁ俺たちのこと危ない二人組にしか見えないよな。自分でもそう思うもん。


俺は椅子にドスンと腰かける。背もたれに首を載せて天井を仰ぐ。

ふぅ。俺結構疲れてるな。知らない場所、知らない奴ら、仕事。そりゃ疲れるよな…。うまくやっていけるかなぁ…。


そんな俺の傍らでワゲはいろんな体勢でゆっくりと手足を伸ばし、体の調整に余念がない。

「お前元気だねぇ。」

「あぁ」

「………」


他の学生たちは俺たちそっちのけで勉強したり談笑したり楽しそうだ。俺はぐったり椅子に座り、手を頭の後ろに組んでそれを眺めていた。

おなかがすいてきた。

プロシェルから生活費はもらっているがあまり多くはない。節約しなくては。

「オド、飯はどうするんだ?」

ワゲが言う。

「とりあえず木の実を持ってきてるよ。今日の所はこれでしのごう。明日になったら学院内の店をちょっと回ってみるか。今日はもう疲れた。」

俺は持ってきた木の実の一包をワゲに放って二人で殻を剥いて木の実を食べ始めた。

ガリ、ガチガチ

この木の実の殻は固く歯や爪を使って剥く時に結構音がする。


「新入生、静かにしろよな。勉強できないだろ。」

同室の学生が言うが、気にするもんか。

「うるせー。これが俺らの夕食だ。文句あるか。」

というと学生たちは笑い出した。

「おいおい、本気かよ。なんでそんなもんが夕食なんだよ。」

金がないんだよ。俺は何も言わずじろっと睨んでやった。

そいつはちょっとびっくりしたようだ。

「お前らな。」

たまりかねたようにソータが口を開いた。

「お前らな。寄宿舎の前にあるあのポタラシア食堂。あそこの飯は寄宿舎代に含まれてるんだぞ。好きなだけ食べ放題だ。」

えっ。なんだって?好きなだけ食べ放題?そんなことがあるのか?

「わかったらさっさと食堂行って来いよ。目の前でそんなうるさいもん喰われると迷惑なんだよ。」

ソータは怒ったように言った。


ソータの言う通り、ポタラシア食堂では寄宿舎の学生は無料で食事ができた。しかも食べたいものを好きなだけ食べてよいという。ワゲは良い匂いのするドロッとしたソースのかかった山盛りのご飯と鳥肉の串焼をとり嬉しそうにむしゃむしゃ食べだした。

あれは香辛汁かけご飯ってやつだな。でも、俺が知っているどの香辛汁かけご飯よりもすごく良い匂いがする。

あんまり良い匂いがするので俺も食べてみた。スプーン一杯を口に含むと、絶妙に配合された香辛料の複雑に絡み合った香りや心地よい刺激が口の中に広がった。そして汁に含まれる肉は煮詰められてものすごく柔らかくなっている。

「なんだよこれ。こんなうまいもんが世の中にあるのか。」


俺とワゲは夢中になって食べるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

執筆のモチベーションになるようにコメントなど声援をいただけるととても嬉しいです。

よろしくお願いします。

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