第三十二話 理想のAIモデル
東三条グループの本社は、大江戸でも中央区に位置している。
この国のAIシステムの先駆け的存在でもあり、実際、多くのシステム開発に携わっている。
「とはいえなあ」
顎にたくわえた白いひげを撫でながら、小柄な老人が革張りの椅子に腰かけて呟く。
「今でこそ、自律思考AIは毛嫌いされているが、将来的には目指したい」
「はい、会長」
会長と呼ばれた小柄な老人は、傍に控える青年――充を見る。
「自律思考AIの欠点は、学習が必要なことだ。人間の思考のクセを読み取るには時間がかかる」
「そうですね。膨大なデータが必要です」
「うむ。そして何より」
会長は呟いた。
「今はやりのハイブリッドタイプのモーターは、高すぎる。安価なものを使用すればすぐ充電が切れてしまって使えない」
「それも課題で、例のプロトタイプは生産が中止になったんでしたっけ?」
「そうだ。GENB――GeneralNaturalBrainを意図したプロトタイプ」
一般的で自然な知能を持つAI、つまり。
「人間に近い自律思考を持つAI。これを完全な形で作り上げるには、データが必要だ」
「だからこそ」
会長は目を細める。
「現在普及させた均一思考型にてデータを集めさせサーバーにログを保存している」
「そのログが、国や他システムの構築に利用されています」
「そうだ。まあ、それを許容する代わりにログを取る許可を取ったんだ。致し方ない」
言ってから会長はつづけた。
「人間に近いアンドロイドが製作できれば、人間は危険な仕事をしなくていい。例えば、そう騎士とかな」
会長の言葉に充は頷く。
「そこにピッタリな逸材、というわけですね」
「うむ。ぜひとも欲しい。今は無理でも将来的には、自律思考でき戦闘もできる理想的な戦闘型アンドロイドを作り上げ」
会長は続けた。
「生産性を高く維持し続ける。不要なリソースはすべて削っていくべきだ」
「現在でも介護、医療はAIロボットがほとんど代わりに行っています」
「そうだ。導入時のコストこそ膨大かもしれん。だがあとは維持だけでいい。高い賃金を使って必死に人を集める必要はない」
会長は言って充を見上げた。
「よいか、充。これは社会貢献なのじゃ。我々は、この国の労働力をアンドロイドを使って確保し続ける」
「これから少子化はもっと加速していく。どうしたって人間は減っていく。ならば」
「ロボットに任せられる仕事はどんどん任せていけばいい」
会長は言い切る。
「樹は逸材だ。戦闘用ロボットのデータ元にもなるし、何よりあの魔力操作能力」
会長の目が輝いた。
「魔女になったは良いが、魔力回路がうまく発達せず入院治療を余儀なくされた者もたくさんいる」
「その者たちの救世主になるかもしれん」
充が会長の前に書類を出した。
「それを引いても、優秀ですしね」
「ほお?」
書類には樹のこれまでの成績や素行が書かれている。
「うむうむ……口数少ないが真面目で勤勉」
「かといって自分の意思がないわけではない。おじいさまの、いえ、会長の理想とする人格AIモデルにもふさわしいかと」
「いいじゃないか!」
パンっと膝を叩くと会長は充へ告げた。
「これくらいあれば、システム構築を教えれば戦力になりそうだ」
「はい」
「益々惜しいな。充、今度の学園のスポンサー枠、取れたといったな?」
「はい。しっかりと」
笑顔で書類を見せた充に会長は頷いた。
「しっかり捕まえてこい。手段は、問わん」




