第三十一話 新学期と新たな不安
学生にとって夏季休暇は、あっという間に過ぎてしまう。
そして騎士養成校にとって夏休み明けというのは、ある意味修羅場でもある。
*
「それでは、前期試験の答案を返却する」
騎士科の3-Aにて、生徒たちは頬を引きつらせている。
一部を除いて。
「ふむ。自己採点では98なんだが、どうだろう?」
「そのマイナス2点はなに?」
九条のつぶやきを拾った樹が尋ねると、九条は真面目に答えた。
「ほら、記述式があっただろう。ちょっと小難しく考えすぎてしまってね。そこが、減点になってる可能性が」
「ああ、なるほど」
樹は九条の話を頬杖をつきながら聞いている。
「……いいよな。どう考えても赤点じゃない連中はよお」
「90点台なんて……俺の学生人生で見たことねえぜ」
男子生徒のつぶやきが聞こえたのか、教官がため息をついた。
「三橋、九条、取りに来い」
「ん? はい」
「わかりました」
二人が立ち上がり教官の元へ行く。教官は二人にそれぞれ答案を渡す。
「一緒に渡した小さい紙が実技試験の結果だ。三橋は絶対なくすなよ。騎士団の入団試験受ける時にいるからな」
「はあい」
受け取って二人は席に戻る。
席に戻った二人に教官は言った。
「……お前たち二人、自習室で自習しとけ」
「へ?」
「いいんですか?」
答案を確認していた樹と九条が教官の指示に驚いて顔を上げる。
「ああ。お前たちは赤点ではない。単純なケアレスミスと記述式の回答が意図と少し外れてただけだ。解説なんぞいらん」
言って教官の顔つきが変わる。
「問題は……残りのお前らだあああ!」
「ひいいっ!」
悲鳴を上げる他のクラスメイトたちに教官は怒鳴る。
「これだから! Aクラスは、頭が筋肉で出来ていると言われるんだ!」
「三橋と九条ほど取れとはいわん! せめて、赤点を回避しろ!」
ばんっと激しく教卓を叩いたせいで答案用紙が舞い踊る。
「どいつもこいつも……平均38点だと!? 馬鹿なのか!?」
「み、三橋と九条くんいれても?」
「いれとらんわ! 入れてこれなら救いようがない!」
騒ぐクラスメイトと教官のやり取りに、九条があっけにとられる。
「……ここ、Aクラスだろう?」
「九条くん。さっき、先生が言ってたでしょう? Aクラスはね、実技の成績がトップなだけ」
樹の説明に九条は「なるほど」と頷いた。
「……確かに騎士は、魔物や魔獣を倒せるほうがいいね」
「そうだけど、養成校の試験で出される筆記試験クリアできないと基地に入った時に苦労するから」
最低限の学力と文章理解度、計算問題。
また、一般人の救助方法や応急処置の仕方の確認が主に騎士科では試験に出る。
「第一、貴様ら、字が汚すぎるんだ! もっと丁寧に書かんかっ!」
「騎士団入ったらパソコン使うんだから」
「馬鹿者っ! 報告書の種類によって手書きのものは、まだある!」
教官の叱責と生徒たちの言い訳がしばらく教室中で飛び交っていた。
*
「あら、それじゃあ、午前中はずっと自習室に?」
「そう」
椿と合流し食堂に行く道すがら、樹が午前中暇だったことを伝える。
「夏休み明けの名物じゃのう」
「そうなの?」
「去年までは樹だけ一人、自習室じゃったな」
「今年は違うの?」
椿が尋ねると、背後から気配がした。
「おや、僕をお忘れかい?」
「あら、九条さま。ごきげんよう」
「……最近、高台くん、冷たくないかい?」
ひょろりと現れたのは九条であった。ちゃっかり樹の隣を陣取り一緒に歩き出す。
「野暮用は終わったの?」
「ああ。つつがなく」
樹が尋ねると九条は頷く。
「野暮用ですか?」
首をかしげる椿に、九条は笑顔を向けた。
「そうなんだ。聞きたいかい?」
「いえ」
「そんなはっきりと……」
「まあ、聞いてあげてよ。椿さん」
「樹くんが言うなら……」
「なんで、そんなに不服そうなんだい」
言いながらも九条は咳ばらいをしながら、語りだした。
「我が九条グループが協賛して、今年度の体育祭を取りやめて全体トーナメント大会を実施することになったんだ!」
「全体トーナメント大会?」
椿が目を瞬かせると、樹が解説した。
「毎年、体育祭って騎士科だけが盛り上がってるでしょ?」
「そう、ですね。魔女科は、その……運動が得意な方は少ないので」
「それが不公平じゃないかと思ってね。父にも協力をお願いしたら喜んで協力すると言ってくれたよ」
九条のやりたいことがイマイチ見えなかった椿は樹に尋ねた。
「あの、結局トーナメント大会ってどういう?」
「なんか、ソロの部、ペアの部を作って文字通りトーナメント戦をするらしいよ」
樹の言葉に椿は瞬きをする。
「え……学園側がよく許可しましたね」
「するよ。九条グループの御曹司だし」
「やめたまえよ。僕が家の名を使って無理やりねじ込んだみたいじゃないか」
言いながら九条は鼻を鳴らした。
「ふん。まあ、安心したまえ。他にも協力者はいるんだ」
「へえ? 九条グループだけじゃないんだ」
「ああ」
言って九条は誇らしそうに告げた。
「あの医療ロボットを初め介護ロボット、AIシステム開発の大御所、東三条家も協賛してくれるんだ」
九条の言葉に、樹は勿論、椿は言葉を発せなかった。




