第二十八話 東三条家の目的
下ろされた場所は、ラウンジのようだった。
広々とした空間で、座り心地のよさそうなソファや椅子が点在してある。
椿は父親に引っ張られるようにして、最奥に連れていかれる。
「お待たせいたしました」
パーテーションが設置された区画に近づくと、社交用の笑顔を張り付けた父親は愛想のよい声で相手を呼んだ。
「東三条様。どうぞ、娘の椿です」
パーテーションの向こうにいたのは、椿よりも少し年上の男性だった。
紺色のスーツを身に着けた黒髪の目鼻立ちがすっきりしている。
(あれ……この人)
何故だかどこかで見たことがある顔だった。とはいえ、何処で見たのか。
椿が黙っていると、父親に背中を小突かれた。椿は、はっとして頭を下げる。玄武が肩に乗っているので軽くだが。
それも父親の癇に障ったらしい。
「もっときちんと挨拶をしないか」
「ああ、構いませんよ」
相手の男性は気にしている様子はなく、穏やかな表情だ。
「それよりも……何で彼女だけなんです?」
「へ?」
相手の問いかけに椿は勿論、父親も固まる。
「ど、どういう、ことです?」
「いや、どうって」
相手は困ったように眉を下げた。
「僕は祖父から、そちらのご令嬢とご友人とのお茶会だって聞いてたんですけど」
「え……」
椿は呆ける。父親に限っては、みるみる青ざめていく。
「いや、えっと……うちの娘と話がしたいと」
「ええ、まあ、そうですね。正確にはお嬢さんと」
男性はポケットからスマートフォンを取り出し、操作をして椿と父親に見せた。
「この、少年と話がしたかったんですが」
スマートフォンには椿を介抱している樹が映っている、例の動画が映されていた。
*
樹は、玄武についているGPSにて椿の所在地を探っていた。
「……旧帝ホテル、かな」
マップは正確ではないと勇は言っていたが、恐らくここで合っているだろう。
(旦那様が待っているって言ってたし)
椿の父親が、拉致まがいのことをして連れ出したのは十中八九見合いだろう。
そして、貴族階級が顔合わせするなら高級ホテルと相場が決まっている。
「このまま突っ込んでいっても多分、門前払いされるよなあ」
樹は旧帝ホテル行のバスを見つけて乗り込んだ。到着まで十分。
一か八かで樹は九条へメールをしてみる。
『今、時間取れる?』
樹のメールに数秒ほどで既読がつく。
『どうかしたのかい?』
樹が先日送りつけた気障なアニメキャラのスタンプまでついてきた。
(今度、無料でもらえるスタンプを教えてあげなきゃ)
樹は、一人決意しながら九条へお願いをする。
『椿さんが、多分見合いだと思うけど旧帝ホテルに連れていかれちゃって』
『あいにくロケットランチャーは持ってないな』
『違う。ホテルに着いたらテレビ電話かけるから、九条君の友人だから通してほしいってお願いしてくれない?』
『しょうがないにゃあ』
これは誰が教えたんだろうと思いつつ、樹はバスが到着するのを待つ。
そこへ、九条からメールが届いた。
『フロントには話を通しておいたから。もし止められたら、連絡があった三橋樹です、と言えばいいよ』
『ありがとう。今度何かおごるよ』
『楽しみにしてるよ』
謎のハートのスタンプは無視する。旧帝ホテル前にバスが到着し、樹は急いでバスを降りた。




