第二十六話 平和が壊れる時は、いつも突然で
それから残りの滞在期間は、あっという間に過ぎていった。
「もう帰る日になっちゃったわね」
寂しげに石ノ霧町駅まで見送りに来てくれた由香里と勇に、椿は名残惜しく思いつつ挨拶した。
「本当に、お世話になりました。本当に」
言って椿は由香里に近づいて手を取った。由香里も握り返す。
「ありがとうございました。沢山、お話してもらえて……楽しかったです」
「私もよ。よければメールでも電話でもしてね」
「はい!」
すっかり打ち解けたらしい由香里と椿の様子に、樹は驚きつつも、安堵する。
「……少し元気になったみたい」
「そうじゃな。バイタルも落ち着いておるし」
樹と玄武が話していると勇が近づいてきた。
「そういえば、樹。言ってなかったな」
「なに?」
「スマホ、貸してくれ」
言われて勇に貸すとしばらく操作される。数分後、勇にスマートフォンを返された。
「なにしたの?」
「今までは、離れていたし心配だったからな。玄武につけていたGPSの設定をお前からは切れないようにしてた」
「だけど来年はお前は騎士で正式に基地に行くんだろう? 多分、父さんや母さんが知っちゃいけない場所もあるだろ」
「だからお前側でGPSの位置情報を知らせるか知らせないか設定できるようにした」
画面に新しいアプリが増えているのに樹は気づく。
「これ?」
「そうそう。 ああ、あと玄武とはぐれた時用に見つける機能もついてる」
アプリを開くと確かに、玄武のイラストつきのアイコンがある。
「これを押したら……」
ピピという電子音と共に地図アプリが開き、マーカーが出る。石ノ霧町駅の表示がある。
「精度は、まあまあってところだから過信するなよ」
「わかった。でも助かるよ。ありがとう」
スマートフォンをしまうと、丁度魔導列車が到着した。
「それじゃあね」
「気を付けて帰るんだぞ」
樹の両親に見送られ、二人は大江戸に戻っていった。
*
新幹線までスムーズに乗り換えが終わり、後は大江戸駅に戻るだけである。
「駅ついたら真っすぐ帰る? それとも、夕食どこかで食べてから帰る?」
樹の提案に椿は目を輝かせる。
「あ、あの」
「なに?」
「……実は、行ってみたいところが、あって」
「いいよ。どこ?」
椿は、何かを決意した顔をする。
「ふぁ、ファミリーレストランというものに、行きたいです」
「ファミレス? いいけど、どこ? いっぱいあるよ?」
「い、いっぱい!?」
「うん」
樹はスマートフォンを取り出して適当に検索する。
「ええとね、駅近くなら……こことか、ここも」
「……あの」
「うん?」
椿は顔を真っ赤にさせて呟く。
「お、お子様ランチとか、プレート、みたいなのが、食べてみたくて」
「あー……」
樹は悩む。
(どうだったっけ? 年齢制限ある店が多いよな。大丈夫な店もあったけど)
考えている樹の胸ポケットにいた玄武が「ふおっほっほ」と笑った。
「お嬢ちゃん。お子様プレートは、おこちゃま専用じゃ」
「そ、そうなんですか!」
「あ、こら、玄武」
樹が慌てるが、玄武が続ける。
「じゃが、ダイニールという店に欲張りプレートというのがあるぞ」
「あ、駅のすぐ近くにあるよ」
「ほ、本当ですか?」
樹がスマートフォンを操作して画像を見せる。大きなハンバーグに可愛らしい旗が立っている。
「わあ……あ、でも食べきれるかな」
「食べきれなかったら樹が食べるじゃろ」
「うん。気にしないで店についたら頼みなよ」
「はい」
嬉しそうにうなずく椿に、樹もほっと息を吐く。
それから約二時間後、二人は駅に到着した。
「ふう。着いたね」
「はい」
二人してゆっくりと駅構内を歩く。
「荷物、母さんたちがお土産だって持たせるから多くなっちゃったね。ロッカーに預けようか」
「そうですね。空いてるかしら」
二人して駅構内のロッカールームを探し、大型が一つだけ空いていたのでそこに荷物を押し込んだ。
「よし、じゃあ行こうか」
「はい。楽しみです」
嬉しそうに微笑む椿と共にロッカールームを出ようとした時、だった。
ぞろぞろと行く手を遮るように黒服の男たちが現れる。
「え……」
椿の顔がさっと青くなる。先頭に立つ黒服が、椿に恭しく頭を垂れた。
「お迎えにあがりました、椿お嬢様。旦那様がお待ちです」




