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第二話 魔力暴走のハッキング・ナビゲート


「な、なんだ!?」


 裏返った声の教官を無視して樹は飛び出す。重たい扉を押し開けると、先ほどまで目が痛いほど真っ白だった道がえぐれている。


「これ、は?」


「あそこじゃ、樹」


 ポケットに押し込めていた玄武が首を出す。小さな手をちょいちょいと示す方向を見れば、一人の少女がうずくまっていた。


「う、あ……くっ」


 少女を中心に風が沸き起こっている。発生した風はかまいたちのように道を、植木を切り刻む。


「とまらない……うう」


 両手で体を守るように抑え込んで苦しんでいる少女。長い黒髪が風に合わせて流されている。


「あれは……一体、なにが」


 悲鳴を上げて距離を取っていく生徒たち。それを避けて少女を遠巻きに見つめる白いボディのアンドロイドが数体。樹が少女の元へ近づこうとするとアンドロイドが止めてきた。


『危険です。現在は一時的な魔力膨張による不調を発生しております。一定時間すぎるまでは建物内で待機を』


「何を言っておる。このポンコツが!」


 樹のポケットから飛び出した玄武が叫んだ。


「あの嬢ちゃん、どう見ても魔力暴走起こしとるだろうが! お前、それでも最新式か!」


『……旧式AIの判断は信用できません。私が正確です』


 一歩も譲らないアンドロイドの対応に玄武のほうが我慢がならなかったらしい。


「魔力の波が荒れすぎじゃ。制御がうまくいっとらん。しかも、どうも昨日今日に始ったもんじゃないな。かなり無理をして抑え込んでたのが、こらえきれずに暴走した感じじゃ」


「……どうしたらいい?」


 樹が尋ねると玄武が目を青く光らせる。


「助けるなら、樹が魔力を受け止めてやれ。おぬしは、男じゃが魔力もちじゃ。受け止めて、おぬしの魔力回路を通して嬢ちゃんに戻して循環させるんじゃ」


「戻したら、意味なくない?」


「たわけ。昔教えてやったじゃろうが」


 玄武が「よいしょ」と樹の左肩に乗り、耳元に指示を出す。


「今の嬢ちゃんは自分からあふれている自分の魔力を制御できとらん。魔力は血液みたいなもんじゃ。自分の魔力を流されても異物判定せんから体がじゃんじゃか流しまくるんじゃ。じゃが他人を介すると話が変わってくる」


「俺が調整して、あの子が受け止めきれる量を返せばいいってこと? 処理能力が限界すぎるから調整弁をしろってことね」


「正解じゃ」


 やることが決まったと樹は玄武を肩に乗せたまま少女へ近づく。アンドロイドたちが止めてくるが、樹は無視した。


「あぶないっ!」


 少女が叫ぶ。瞬間、樹の前に何処かから飛んできたらしい金属製の看板が降ってきた。樹は左腕にはめていたスマートウォッチにタッチした。


「防御術式セット、展開」


 樹が呟くとスマートウォッチから魔法陣が浮かび上がる。浮かんだ魔法陣が樹を守る盾となり看板を跳ね飛ばした。


「……あなた、騎士、よね? 魔法、使えるの?」


「簡単なものならね」


 樹が少女の前に座る。先ほど展開した防御魔法が飛んでくる物や少女が発する風を防いでいる。玄武が地面に降り立って少女を見上げた。


「嬢ちゃん、意識はしっかりあるんじゃな。じゃが、バイタルと魔力の乱れは規定値から外れとる。危険状態じゃ」


「……この子、補助AIなの? 随分と、人みたいな話し方をするのね」


「旧式なんだ。今では開発されてないやつ」


 言って樹はスマートフォンを取り出し、少女と自分の間に置いた。


「玄武。スマートフォント同期して。魔力循環の補佐アシストを」

「了解じゃ」


 玄武が小さい脚を動かしてスマートフォンの画面にタッチする。


『命令を実行しています……同期完了。魔力循環ナビ、開始します』


 女性のナビゲート用音声が玄武から聞こえる。樹は深呼吸を一つして、右手を少女に差し出した。


「な、に?」


「君の魔力を俺が受け取って、俺の魔力に変換する。それを君に返して循環させる。今の君は、自分の魔力で自分を攻撃してる。俺が介入することで無尽蔵な魔力放出は収まるはず」


「……理屈は、分かるけど。危ないわ」


「なんとかなる。玄武もいるし」


 樹の声に玄武が顔を上げた。


「わしがしっかりナビするぞ。ほれ、二人とも手をつなぐんじゃ」


 少女は不安に瞳を揺らしながらも手を出した。樹が握る。途端に流れ込んでくる熱さすら感じる魔力の量にめまいを覚えた。内臓全体が揺さぶられ、吐き気がこみあげてくる。胃液を無理やり飲み込んだ。


「っ!」


「樹、深呼吸じゃ。バイタルが低下しておる。飲み込まれるな。おぬしが魔力を宥めるイメージじゃ」


 樹は脳内で荒れ狂う波に逆らうイメージを変える。浮かべるのは穏やかな海。優しい波を生み出すおだやかな春の海。


「あたたかい……」


 樹の中で彼の魔力に変換された魔力が、少女に戻される。冷え切っていた指先に熱が戻っていく。


「落ち着く……あったかくて、ほっとする」


 目を細める少女の、栗色の瞳を玄武が見上げる。


「バイタル……平常値まで回復。魔力の波も穏やかになったのう」


『ありえません。魔力循環を、訓練生が旧式AIのナビゲートだけで成し遂げるなど』


『理解不能』


 学園のAIが困惑の報告を口走り、まるで慌てたようにどこかへ走り去っていった。意識を集中していた樹が目を開けると、あれほど激しかった風は収まり、残っていたのは春らしい暖かで優しい空気だけだ。


「もういいじゃろ。お互いバイタルも安定、魔力循環もうまくいったな」


 玄武に言われたため、二人はゆっくりと手を離した。何故だか名残惜しいような気がしたが、樹は考えないようにした。


「落ち着いたみたいで、良かった。それじゃあ」


「え、あの」


 追いすがるような視線を感じたが、あえて目を合わせなかった。樹は立ち上がりスマートフォンと玄武を抱えて足早に去ってしまう。残された少女は、呆然とその後姿を目で追うしかできない。

 少女のスマートフォンが鳴った。驚いて画面を見ると、見たこともない通知が山ほどついていた。


『ねえ、椿なの? この動画の子』


『まじやばい』


『ねえ、大丈夫?』


『てか、騎士科の子? めっちゃイケメンじゃない?』


「動画……?」


 椿が添付されたURLを開くと、先ほどの騒動が遠目ではあったが一部始終公開されていた。学園の公式アカウントからで、少女の目の前で再生数がみるみる増えていった。



はじめまして。

日茉莉かなかと申します。思いついたままに勢いで書き上げ、投稿させていただきました。

お暇つぶしになりますように。

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