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第一話 相性判定の出来レースと型落ちAIの警告


 空が青い。雲一つない。


「はあ……」


 理想的な青空の下を、大きなため息をつく青年が歩く。長身で肩幅も広く、こげ茶色の短めに切り揃えられた髪に切れ長の瞳。黙っていれば、おそらく美青年。


「黙っていれば、は余計だよ。玄武」


「ふおっほっほ」


 青年は左側の胸ポケットから顔を出すプラスチック製の亀を睨む。


「補助AIのくせに、生意気だ」


「すまんのう。お前さんが随分と辛気臭い顔をしとったもんでな。どれ」


 玄武と呼ばれた亀の両目が青く光る。


「バイタルが若干じゃが乱れとるな。ストレスか?」


「そりゃね」


 舗装された目に痛いほど真っ白な道を歩きながら青年は頷く。青年の目は、道の向こうにたたずむ巨大な玉ねぎのような形のホールを睨んでいる。


「……何が、運命の番だよ」


 青年はぼやきながらもホールを目指して歩いていった。



 かつて――この地には美しき女神と強き戦神がいたという。

 この二柱は地上に突如あふれた瘴気を放つ魔の王を倒した英雄であるという。


「戦神の加護を得られたものは騎士」


 ホール内に青年が入ると、教官服をまとった中年男性が身振り手振りでカメラに向かって話しかけていた。


「……仕事熱心なことで」


「ほっほ。スパチャとやらが入るからなあ」


「でも、あれ、動画用じゃない?」


「知らんのか。最近は動画でも投げ銭できるのじゃぞ、樹」


 樹と呼ばれた青年は首を振る。


「知らない。興味ないし」


「おぬしはゲームばかりじゃからなあ。とはいえ、物事は何事もやりすぎはよくない。昨日は四時間も」

「お説教は後でね」


 ぐっと右手で玄武の頭を抑え込むようにポケットにねじ込む。不自然なふくらみができたが、致し方ない。

 樹と玄武が語り合っている間も教官は熱心にカメラに話しかけている。


「女神の加護を得られたものは魔女となります。魔女の持つ魔法と浄化の力。これがあることで、この国は瘴気を抑え込んできました」


 熱弁を振るう教官をよそに樹は、空いている席に座った。椅子に座った際に音が鳴ったためか、教官が樹に気づいた。


「おお、来たのかね」


 カメラが回っているからか穏やかな笑みを顔に浮かべている。樹は通常の彼の不愛想な顔を思い浮かべて、そのギャップに笑いをかみ殺す。


「遅れてすみません」


「いやいや。いいんだ。君は、我が騎士科の優等生だからね。訓練に勉強に忙しいだろう」


 あえて優等生と言う言葉を使ったのは宣伝にするためだろうか。樹はあいまいな笑みを作る。


「さて、早速だが」


 教官は樹から見て右側へ視線を向けた。丁度影になっている右側壁にぴったりと背を預けていた三人の女子生徒が、こちらに歩み寄ってくる。


「紹介しよう。神託によって選ばれた君の番候補たちだ」


 制服のスカート部分を、貴族の令嬢のようにつまんで礼をする三人。樹は会釈だけ返す。


「こちらは、相性が90パーセント。こちらの子は君の魔力との波長が合う。こちらの彼女は今をときめく円城寺家のご令嬢で、相性も悪くない」


 矢継ぎ早に説明される。まるで、商品の目玉を言うように。


(物かよ)


「一押しは彼女だがね。彼女と結ばれれば、君の出世は間違いなしだ」


 にこりと微笑みながらも樹を見る目が、濁っている。諦めと、疲れがにじんでいるように樹には見えた。


(神託ねえ。所詮最先端AIによる上の連中のご意見を加味した都合がいい組み合わせを提示するだけの奴)


 樹は、幼い頃に玄武に読み聞かせてもらった女神と戦神の冒険話が大好きだった。

 支えあう、愛の話だ。樹はそう教わった。愛する人のために魔法を学び、危険を顧みずに戦場へやってきた女神。女神の気遣いを勇気に変えて立ち上がった戦神。


(それが、現代にいたっては出来レースか)


 樹の心には重く、泥のようにまとわりついた不快感がこびりついている。この現代においては効率化と上の意思に則ったまやかしの話しか転がっていない。


「誰を選ぶ? まあ、急に言われて戸惑っているかもしれないが君はもう三年だ。今月中には番を決めて実戦訓練をし、騎士団配属を目指さねばね」


 急かす教官に対し、樹はやさぐれた感情を押し殺して口を開こうとした。

 警報音が鳴り響く。驚いて固まる一同。そして――轟音。


 パリィィン。


 バラバラと割れたガラスの破片が雨のように降り注いできた。






 

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