第14話 母と娘の会話 ― 1985年の記憶と、阪神ファンだった理由 ―
虎吉が風呂で「六甲おろし」を熱唱している夜。
リビングには、美津子と遥香だけが残っていた。
遥香
「なあ、ママってさ……昔から阪神ファンやったん?」
美津子は少し驚いた顔をした。
そして、ふっと笑った。
「うーん……“熱狂的”ってほどやなかったけどね。
なんとなく阪神、って感じやったよ」
遥香
「なんとなく?」
美津子
「そう。だって当時は関西に阪神、近鉄、阪急、南海って
4つも球団あったんやから」
遥香
「え、そんなにあったん?」
美津子
「そうよ。
南海ホークスは大阪球場、
近鉄バファローズは藤井寺、
阪急ブレーブスは西宮、
阪神は甲子園。
どこも“地元”みたいなもんやった」
遥香
「へぇ……なんか今より賑やかやな」
美津子
「せやね。
でも――1985年だけは、関西中が“阪神”やった」
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■ 1985年の記憶
美津子は、少し遠くを見るような目になった。
「バース、掛布、岡田の“バックスクリーン3連発”。
あれはほんまに衝撃やった。
テレビの前で叫んだもん」
遥香
「ママが叫ぶって珍しいな」
美津子
「そら叫ぶよ。
あの年の阪神は、なんか“奇跡”みたいでね。
優勝パレードもすごかったし……
関西中が浮かれてた」
遥香
「パパももちろんその時には阪神ファンなん?」
美津子
「いや、あの人は“生まれた時から阪神ファン”や。
1985年は、あの人にとって“人生の原点”みたいなもんやろね」
遥香
「なるほど……だからあんなに騒ぐんか」
美津子
「そう。
阪神が勝ったら泣くし、負けても泣くし、
忙しい人やでほんま」
二人は笑った。
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■ 母の本音
美津子は、少し照れたように言った。
「でもね……
阪神が勝ったら、なんか嬉しいのは今も変わらへんよ。
あの頃の気持ち、ちょっと思い出すから」
遥香
「ママも結局、阪神ファンなんやん」
美津子
「……まあ、そうかもしれへんね」
その時、風呂場から虎吉の声が響いた。
「♪六甲おろしに颯爽と〜〜〜!!」
遥香
「パパ、絶好調やな」
美津子
「開幕三戦目で12点取ったら、そら壊れるわ」
二人は顔を見合わせて、また笑った。




