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疑惑の傍観者

「もう私帰ってもいいですか? あのストーカーが悪いんでしょう」

これで何回目だろう? 最初は引き止めたがもう放って置いてる。

「ではお気をつけて」

だがすぐに戻って来る。

さっきからこれの繰り返し。もう相手にするのも面倒だ。

周りには人だかり。これでは左横田さんも動けない。

「とにかく皆さん落ち着いてください! 」


「何でもない。ほら散った散った」

同僚が痺れを切らし市民を睨みつける。

慌てて逃げて行く。

これで数時間は効果があるはず。その分苦情が殺到するだろうな。

自分のせいじゃないからいいが。業務に支障が出るだろう。

さあ余計な邪魔もなくなった。そろそろフィナーレと行こう。


「落ち着くのは確かだがここで静か過ぎるのも怪しくないか? 」

前田さんがおかしなことを言いだす。

もうライブは終わって暇なんだろうな。

暇だからって混乱させるようなことをわざわざ言わなくても。

とっとと帰ってくれないかな。

ブブンカと前田さんは引き止めてない。


「どう言う意味ですか前田さん? 」

「そのままだよ。この男はそんな奴じゃない。

同じあのちゃんファンだからな。でも脱衣所で見たのさ俺も。

最初は幻影だと思ったよ。でもよく見ればあれはフィギアだった。

この男は脱衣所にまで持ってきた。だからフィギアの件は事実だろう。

でもそれをフィギアだと思ってなければどうだ? 」

前田さんは男の上司を睨みつける。

我々の斜め上を行く前田さん。適当な思い付きでもなさそうだ。


「あなたね。フィギアがフィギアじゃない? 意味不明なんですけど? 」

左横田さんが冷たい視線を送る。

彼女にとって前田さんもブブンカもただの痴漢でしかない。

もうお隣さんでも何でもないのだろう。

「そうですよ前田さん。もう少し我々に分かるように具体的にお願いします」

「そうだぞ。これは大事なことなんだ」

同僚も続く。

「ブブンカもチンプンカンプンね」

そう言って手を広げる応援疲れのブブンカ。


「言ってもいいが俺は責任取らないぞ。それでもいいな?

それからフォローもしろよ。一人では追及をかわされる恐れもあるからな」

どうやら心当たりがあるようだ。

ここは一つ前田さんに任せるのもいいかもしれない。

どうせ打つ手は無い訳だし。


「分かりました。では前田さんお願いします」

「だから…… 何らかの理由で勘違いしてしまった。

もっとはっきり言えば勘違いさせられた」

「誰にじゃ? 」

お爺さんも黙ってられない。

「まさかカス君は操られてるの? 」

「そうじゃなくて。実験されてんだろ。そこの人によ! 」

男の上司。彼は一言も発せずに様子を見守っていた。

「いや俺は無関係だから。大人しくしていただけで」

大量の汗を垂らす。もう限界は見えている。


「もしかしてアトリ計画って? 」

閃いたぞ。確か男の会社で来年発表される新作で概要はロボットだったような。

詳しくは専門家に。一番詳しいのは男の上司だろうか?

「ちょっと待って…… アトリ計画? アトリ?

アトリってカス君が大事にしているフィギアの名前じゃない」

トワさんが反応する。

男は当然ながら否定する。


「カス君。あなたの恋人ってまさか? 」

「ああアトリだよ。恋人からとってアトリ計画。この人が命名したんだ。

何となく思い出して来た」

精気のない男。まだ完全には思い出せてないらしい。


「それでアトリは今どこに? 」

「知るはずないでしょう? 間違いてゴミ箱に捨てたんじゃないの? 」

「ははは…… まるでもの扱い。君はいつもそうだった。

アトリに嫉妬して。ただの可愛い女の子じゃないか。

たぶん君が出て行ったから俺はアトリと付き合いだしたんだと思う。

違うのかエクセル? 」

もう男は自分の空想の世界に入ってしまった。

向こうの住民となった今誰も男を止めることが出来ない。


「エクセルって誰よ? 私はトワ。また新しい女。もう信じられない! 」

「まあまあ。ここは堪えて」

同僚が止めに入る。


「それでアトリ計画とは何じゃ? 」

「さあな。興味ないぜ。そうだろ? 」

「ブブンカは興味アルね」


「止めろ! それ以上は言うな! 」

男の上司が必死に止める。

だが誰一人として聞いてない。アトリ計画で皆大盛り上がり。


「止めろ! 止めるんだ! 」

ブブンカに掴みかかる。

アトリ計画は極秘事項。彼にしてみればこれ以上は認められないのだろう。

「何をするんですか? 公務執行妨害で逮捕しますよ」

「うるさい! 俺が捕まったていい。これ以上会社に迷惑が掛けられない」

豹変する男の上司。


                  続く

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