修羅場
トワさんは怒りにより己をコントロール出来なくなってしまっている。
これでは男のプライバシーは守られない。
「ダメですよ。これは個人的な趣味なんですから。
あなたも無理して答えないでいいですからね」
ここは男の名誉の為にも強く言う。
フィギアの名前など恥ずかしいに決まってる。
もしこれが調書の為に答えざるをえないなら仕方がないこと。
それでも部外者に知られて好奇の目にさらされて良い訳がない。
せめて皆が居なくなってから落ち着いて答えてもらえればと思う。
フィギアか……
大人にしろ子供にしろオモチャが原因で別れたとすれば男女とは実に難しいもの。
結婚も同棲も赤の他人が一緒になるのだからそれは当然大変なんだろうな。
私も同僚に笑われたように変に子供っぽいところがあって直さなければなと思う。
特に無類のタピオカ好きだからトワさんみたいにひかれたらどうしよう?
そう思えば思うほど一歩を踏み出せない。
おっと…… 今は目の前のことに集中しなくては。
トワさんが言うぐらいだからヒーローフィギアでもないだろう。
そうすると彼女が嫌がるフィギア。
それは可愛らしいタイプ。もっと言えば恥ずかしいタイプだろう。
私も幼い頃に興味を持ったから気持ちはよく分かる。
一体買うとやめられなくなりすべてコレクションしたくなるんだよね。
収集癖があると特に。私は飽きっぽいので熱中することはなかったが。
そう言えばモールの三階にその手のショップがあったな。
もう一度集めるのも悪くないかな。
「どうしたんだ? フィギアなど知らない?
そりゃ実家に行けば昔集めていたフィギアは見つかるだろう。
だがなぜそれをトワが知ってるんだ? 」
まだ紹介してないと言い張る。紹介するようなものか?
彼女には最後まで隠し通すものでは?
「待て! 儂は覚えてるぞ! お主がフィギアが原因で別れたと。
トワさんが言うのが正しい。お主が間違っておるのじゃ。
お主は住んでいた部屋を追い出され保管場所を探してると言うから紹介した。
それさえ忘れてるのか? よく思い出せ! なぜ忘れる。
振られたショックから立ち直れてないのだろうが現実を受け入れるのだな」
お爺さんの有難い説教。男もついに折れるか?
「ははは! 何を言うんです。俺はあなたに新居を探すように依頼したんです。
誰が倉庫を紹介しろと? 」
男は動じない。だがどちらかが間違ってるかは一目瞭然。
「お主に決まってるであろう? なぜ分かり切った嘘を吐く! 」
「だから違うって! 」
「違うものか! 儂はお主から直接聞いた! 」
「それは偽物で俺の偽物が現れて混乱させた! 」
無理のある設定。それでは誰も信じてはくれない。
「偽物? あり得ない! 正気かお主? 」
「正気も何もそれしか考えられないでしょう? 」
「もうやめて! 」
再び泣き出すトワ。
「ほれお主のせいでまた泣かせてしまったぞ?
どれだけ周りに迷惑を掛ければいいんじゃ? 」
「知るか! 俺が悪いんじゃない! 」
頑な男と頑固な爺さん。隣で涙するトワ。
修羅場と化した交番。
外では何だ何だの大騒ぎ。また困った市民が大量発生した。
これでは業務に支障が出るレベル。
「プライバシーですから覗かないでください」
交番も大騒ぎだが周りもかなりのもの。
もはやパニック寸前。
「大丈夫かオマエ? 」
ブブンカも心配そうに見つめる。
そんな緊迫した状態でもマイペースな女性。それが左横田さん。
男曰く伝説のトナラ―。
「もう私帰ってもいいですか? あのストーカーが悪いんでしょう」
左横田さんは男に興味を失った。
彼女にとって男は憎きストーカー。
男がそれを認めることはないだろうが彼女の中では既成事実になってるのだろう。
「いいんですが今は困ります。混乱が収まってから」
交番の周りには人だかりが。これでは左横田さんだって嫌だろう。
新たなストーカーが出現するか新たな被害者が発生するか。
「ですが帰って食事しなくてはいけないのでこれで」
制止を聞かずに出て行こうとする。
「ダメです! 後で送りますからどうか今は大人しくお願いします。
事件解決までしばらくお待ちください」
それでも納得のいってない左横田さんは一歩外へ。
もちろん強制ではないので止められない。
ただ彼女の為にも落ち着いてからが良い。
「もう嫌! 」
そう言ってすぐに戻って来る左横田さん。
十秒の帰還は新記録?
続く




