#12 カワイイは高くつく
「あまったれんじゃねぇ。」
領事さんとやらが帰って行ったので、俺たちはキースと話し合いの続きをしていた。話の流れ的に、あわよくばこの首輪を外してもらえるんじゃないかと期待したのだが、この反応である。
「お前らに着けた魔封帯を解除するには役所に税金を納める必要があるんだ。外したければ自分で稼げ。」
「マジすか…。」
「俺たちはお前らが奴隷の身分だろうが関係ねぇ。むしろ、今のままの方が逃げられる可能性がねぇんだ。そんな奴にわざわざ大金を払ってやるとでも思ったのか?」
そうですね。おっしゃる通りです。ていうか、もしかしてこれ役所に行かないと取れないやつなのか…。
「まぁ、だが雑用仕事してても何年先になるかわからねぇ。そんなんじゃ、やる気もでねぇだろ。ついてきな。」
そう言ってキースは席を立った。どこへ連れて行こうというのだろうか?
着いたのは魔動兵装の格納庫。昨日出発したニケ隊のジークフリートも戻ってきて、四機並んでいる。メンテナンスでもしているのか、何人か小柄な人達が作業をしている。
その更に奥の方に、俺達が先日動かしてしまったジークフリートが置いてあった。何故かそれも誰か作業している。
「おーい、ゲンさん。」
キースが声をかけると、その人物は振り返った。
「おう、キース。」
振り返ったその人は、立派な髭を生やし、筋肉ムキムキのちっちゃいおじさんだった。
「ドワーフの魔動兵装整備士、ゲンさんだ。お前らの乗るジークフリートを直してもらってる。」
「おう、おめぇさん方が新人さんか。よろしくな。」
「よ、よろしくお願いします…。」
うーんと、ドワーフ?お前らの乗る?なんかいくつか疑問が沸いたんですけど、まずどれから聞くべきか…。
「えーっと、俺達のジークフリート…?」
「そうだ。こいつを動かせるなら、お前らにはこいつを使って仕事をしてもらう。」
「え?どういうことですか!?」
キースとゲンさんは顔を見合わせる。すると、ゲンさんが手に持っていた工具を置いて、話してくれた。
「ジークフリートは消費する魔力がでかいから、精霊石が無いと動かねぇんだよ。にも関わらず、ここに嬢ちゃんを乗せるって言うんだ。どうかしてるぜ、まったく…。」
ゲンさんはこのジークフリートについて教えてくれた。
ジークフリートは精霊石を動力にして動いているが、これがかなり高額らしい。だからこいつはほったらかしになっていたと。
それが突然、整備の依頼が来たと思ったら、意味のわからん改造をさせられてる、とぼやいていた。
「こいつで俺達の護衛の仕事を手伝えるなら、相応の給金を出す。それでどうだ?」
「ほ、本当ですか!?も、もしかしてりんごの分も?」
「そうだ。」
「やります!やらせて下さい!」
もはや仕事の内容はどうでもよかった。ずっと先の見えなかった暗闇に光が指したような気分だ。
「倉庫の修理代とジークフリートの改装費はお前の給金から引いておく。その分もしっかり働いてもらうからな。」
そう言うとキースは、ニヤリと笑った。なんかすごく悪い顔をしている。
こ、これで本当によかったんだろうか…。なんだかちょっと不安な気持ちになってきた…。
ゲンさんと修理内容をあれこれ話して、キースはさっさと帰ってしまったが、俺はちょっと興味があったので、ゲンさんの作業を見学させてもらうことにした。
ゲンさんは腰に巻いたベルトに、工具っぽいものをたくさん指している。それを次から次へと持ち替えて、ジークフリートになにかを彫っている。さすがドワーフというべきか、パーツを取り付けては、そのパーツに曲線や直線、なにやら文字っぽいものまでフリーハンドで美しく描いていく。まるで人間3Dプリンターだ。
あっという間にオンボロだったジークフリートが、だいぶまともな格好になってきた。
「こいつらの武器って『銃』…、で合ってます?」
「ん?まぁ、何を武器に持ってもいいが、銃を持つことが多いな。」
「あれって、何を発射するんですか?」
「なにって、そりゃ弾丸だろうよ。ほれ、そこの箱に入ってるのがそうだ。」
ゲンさんの指差した先には蓋が半開きになった木箱が置いてあった。確かに見覚えのある形をした弾丸が入っている。
「こいつはな、弾の後ろに着いてる薬莢ていう部分に魔石が入ってるんだ。劇鉄っていう爆破の印紋の彫られた部品と反応して爆発することで弾を打ち出す。」
なるほど、つまりは俺のいた世界の銃と同じ構造か。
「これって魔法よりも強いんですか?」
「強いかっていうと、相性の問題だな。単純に鉄の塊が飛んで行くってことは魔法障壁じゃ防げねぇからな。魔法兵団にとっちゃ天敵みたいなものよ。」
「あ、なるほど。そういうことか。」
「おめぇ、なんだか理解が早ぇな。アカデミーにでも通ってたのか?」
ん?アカデミー?それは学校のことで合ってるんでしょうか?
「すいません。たぶん違います。アカデミーって何ですか?」
「おう、そうなのか。精霊学や魔法学を研究する学生が勉強しに行くところさ。ジークフリートのプロトタイプもそこで開発されたんだ。」
ん?プロトタイプ?それは試作機のことで合ってるのか?
セントラルの勘違いがあってからどうも警戒してしまう。
「その、ジークフリートを開発した人ってどんな人だったんですか?」
「ああ。なんだかえらく遠い国から来たとかいう奴で…、なんて名前だったかな…?最初こそ言葉の違いで苦労したらしいが、天才的な頭脳の持ち主だったらしくてな…。あぁ、そうだ、レント。確か、レントミヤザキって名前だったはずだ。」
もしかして。いや、もしかしてなんだけど、その創設者の人って…。
「その創設者の人って今どこにいるんですか?」
「それがな。戦争が始まってすぐに行方不明になっちまったって話だ。それについては、いろんな噂があったが、確かなことは誰にも分からねぇらしい。」
「そ、そうだったんですか…。」
その人はおそらく、俺と同じ世界から、なんらかの原因でこの世界に来たに違いない。名前的にも日本人っぽい。
そう考えると、こっちの世界にちょいちょい既視感のある物が存在するのも納得がいく。
「それにしても信じらんねぇなぁ。本当に嬢ちゃんの魔力でこいつを動かすってのかい?」
「そんなに信じられない事なんですか?」
「あぁ。理論上、不可能じゃねぇんだがな…。例えるなら、本来なら馬が引く馬車を、人間が引けるように改造しろって言われてるようなもんよ。」
「なるほど。わかりやすいです。」
「まぁ、仕事だから一応、言われた通り作るけどな。後はおめぇたち次第だ。せいぜい、頑張れよ?」
そう言ってゲンさんはガハハと笑った。
「ゲンさーん!これってボクが乗るとこ?」
りんごは床に置いてある頭部の部品を指差している。
「あぁ、そうだ。人が乗る以上、少し丈夫に作んねぇとな。」
確かに他の機体と違って少し武骨で、頑丈そうになっている。
「かわいくない。」
『は?』
俺とゲンさんは声を揃えて聞き返した。たった今、安全のために丈夫に作ったと言っただろ。
「魔力の消費増えていいから、もっと『堅牢』と『強化』の印紋描いて小さくしてよ。これじゃ、かわいくないよ。」
りんごがぶーぶー文句を言ってくるもんだから、ゲンさんは少し困った顔をした。
「そりゃ、構わねぇが、かわいくってどうすりゃいいんだ?」
「んーっと、耳つけるとか。」
『耳!?』
俺とゲンさんはまたも声を揃えて聞き返した。いや、耳ってあんた、コスプレじゃあるまいし…。
結局、りんごがあーだ、こーだと注文をつけて、ゲンさんがパーツを着けたり外したりするという、おかしな作業が始まった。
ゲンさんに申し訳ないとは思ったが、その場で形状を変えられるゲンさんの魔法技術は、傍らで見ていて面白かった。
そして、やっと出来上がったのは『うさ耳』のついたシャープな顔つきのイケメンの頭部だった。
ゲンさん曰く、燃費度外視の見た目重視という、普段なら絶対にやらない仕様だそうだ。
最後に頭部ユニットを取り付けれた時には、すっかり夜中になっていた。
「追加の改造はキッチリ請求しとくからな。しっかり稼げよ、ひよっこども。ガハハ!」
そう言ってゲンさんは俺の肩をバシバシ叩いた。ゲンさんは、仕事をやり切って大変満足そうだったが、俺は意味のわからん事に費やした追加の請求が怖くて、ゲンさんに叩かれている以上に全身がガクブルしていた…。




