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#13 平和の守護者

「まったく。素直じゃないんだから。」


ヴィーがコーヒーをキースの机に置いた。


「なんの事だ?」


「あの子達のこと。」


キースはコーヒーを一口飲むと、鼻で笑う。


「壊れていたジークフリートを安く改修して、一機使えるようになるんだ。なにもおかしいことじゃないだろ。」


さも当然とばかりに答えるキースであったが、ヴィーは聞く耳を持たない。


「ジークフリートの中なら安全だものね。いざとなったら二人だけでも逃がしてあげられるし。」


「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。で?どうなんだ、あいつらは。」


「基本的な使い方はすぐに覚えたみたいね。というよりも、ベテラン顔負けの腕前よ?キースも一度見てみなよ。」


「…ほう?」


飲みかけのコーヒーを一気に飲み干すと、キースは席を立った。


「本当に次の仕事にあの子達を連れてくのかい?」


「あぁ。奴らには書状でこちらの要望は伝えてあるが、今のところ特に大きな動きはねぇ。ニケに警戒はさせてあるが、万が一に備えて出来ることはやっておく…。」


中庭まで歩いてくると、りんごとユーリの乗るジークフリートが見えてきた。


トントン、トトトン、ターン…


くるっと回ってポーズ


到底、訓練している最中とは思えない妙な動きをしている。


「な、なんの真似だ、ありゃ…。」


「ダンス…じゃないのかい?ジークフリートであんなことできるんだねぇ。」


クスクスっとヴィーが笑う。それとは逆にキースは落胆の表情を浮かべる。


更にくるっと回ったかと思うと、ピタッと止まって銃からペイント弾を発射する。一発、二発、三発。


弾はすべて的に当たり、ジークフリートは銃を下ろす。


「こら、りんご…。お前、俺の動きに合わせて変な動きを付け足してるだろ。俺がふざけてるみたいに見えるじゃねぇか。」


〈いいじゃん、このくらい。ボクだっていろいろと試してみたいんだもん。〉


「まぁ、でもおかげで色々分かってきた。要は、()()するかの決定は俺で、()()()()()を実行するのはりんごって事か…。」


〈そろそろ休憩しよーよ。ボク、お腹空いちゃったよ。〉


「は?えーっと、ゲンさん大丈夫っすか?」


ゲンさんは少し離れた場所で、バインダーに挟んだ紙に何かを書き込んでいる。


「ん?あぁ、そうだな。後はもう最終調整で終わりだから、引き上げてもいいぞ。」


「ありがとうございました。んじゃ、戻りまーす…。」


訓練を終えて、ジークフリートは格納庫の方へ戻って行った。


「…あの動きから全弾命中だと?ふざけた野郎だ。」


「な?意外と掘り出し物かも知れないよ、あの子達。本当に仲間に入れてやってもいいんじゃないのかい?」


ヴィーは期待を込めた目でキースを見つめた。


だが、キースは目をそらし、ため息をつく。


「まったく…。おせっかいも程々にしとけ…。俺達みたいな戦いにまみれた生き方は、他人を幸せになんか出来ねぇんだ。」


そう言うと、キースはヴィーの肩にそっと手を乗せた。ヴィーはうつ向いて、その手に自分の手を重ねて軽く握った。


----------------------------


「お前らがジークフリートを十分に扱えるってのはわかった。だが、ひとつだけ問題がある。」


俺とりんごはキースの部屋で、ジークフリートの試運転結果を伝えられていた。その手には、ゲンさんが書き込んでいたレポートが握られている。


午前中にやっていたのは、どうやら各部位の稼働状態のチェックと、俺の操作技術の適合試験みたいなものだったらしい。俺は渡された紙に書いてあったメニューを順番にこなしただけなのだが、ぶっちゃけゲームのチュートリアルをやってるみたいだった。


つまり、楽勝。一体なんの問題があるというのか。


「りんごの精霊術。霧で視界を阻害する術みたいだが…、これは戦闘中には使うな。」


あぁ、なるほど。そうか、これはゲームじゃなかった。フレンドリーファイアが常に有効みたいなものか。同士討ちの危険性を考えると、たしかに使えん…。


「これから俺達はサルバトールから、家族を助け出す為に作戦を進めていく。お前らをエサする形にはなるが、どちらにしろお前達は奴らに追われてるんだ。協力してもらうぞ。」


「協力…ですか。」


「あぁ…。奴らはすでに二度失敗してる。そこに、此方から交換条件を出してやったんだ。否応にも奴らは応じざるを得ないだろう。」


「はい。」


「もしも俺達の家族が生きていれば、奴らに動きがあるはずだ。その時は、力ずくで家族を奪いに行く。居場所さえ分かっちまえば、こっちのもんだからな…。」


そこまで言ったところで、キースは少し言葉につまった。そこから先の言葉を話すことに躊躇するように…。


「だが、俺達の家族がすでに死んでいた場合は、なんらかの形でお前らを奪いに来るだろう。」


キース達を戦場へ送り込む為の言わば『人質』となっていた彼らの家族は、戦争が終わってしまえば用済みになる。どこかで生きている可能性もあるが、闇に葬られてしまった可能性も考えられる。


『家族はきっと今も生きている』


そんな希望を盲信するほど、現実が見えていない訳では無いという事か…。


「そこで、お前らには次の護衛任務に参加してもらう。」


「…え?ご、護衛任務…、ですか?」


「そうだ。この街の領主の娘が王宮で開かれるデビュタントに出席する為に王都へ向かう。その護衛だ。」


ちょっと話の流れがよく分からない。なぜ領主の娘の護衛がその対策となるのか?


「兄のコーネリアスとは顔馴染みでな。ウチはもう何度も王都までの護衛はやってるから慣れたもんさ。妹のユリアにも何度か会ったことがあるが、どちらも貴族であることを気取らねぇ奴らだ。」


「でも、大丈夫なんですか?俺達が付いて行ったら、巻き込んでしまうんじゃ…?」


「ふっ、お前らが狙われてるなんて、俺達しか知らねぇんだ…。もしも誰かが襲ってくるとしたら、そりゃ、きっと領主様を狙った賊だろうなぁ…。」


そう言ってキースはニヤリと笑う。すげぇ悪い顔してるんですが…。


まぁ、なるほど。なんでよりによって領主様の護衛なのか分かりました、その顔で…。



--------------------------


城塞都市ストゥルベルクは、元々は魔獣の森を通り抜ける準備をする為に、旅人が利用していた宿屋町が発展した都市である。


ケイオスが独立戦争で境界戦を魔獣の森とし、砦として利用したことで、より一層守りが固い都市として成長した。


その為、文化や技術力も大きく発展し、領主も技術研究に惜しまず予算を注ぎ込んでいる。


「これでどうかな?」


ブロンドの髪をポニーテールで結んだ白衣の少女が、青年へ話しかける。


男性は、左手を前に突き出して手の平を閉じたり開いたりしてみた。


その左手には、印紋(ルーン)が刻まれており、青白くうっすらと光っていた。


「す、凄いです。まるで自分の腕が戻って来たみたいだ…。本当に…、本当にありがとうございます…。」


そう話す青年の両目からは涙が溢れていた。たまらず青年は顔を両手で覆った。しかし、涙は指の間から次々と流れ出してくる。


魔動兵装の技術は『義手』を操作する仕組みにも応用が可能なため、魔物に襲われて腕や足を失った人々への『医療』としても利用されていた。


「あとは腕の馴染み具合を見ながら微調整をしていくから、一週間後にまた見せに来てね。」


それを聞いて、隣に立っていたメイド服の女が、口を挟む。


「お嬢様。まさか来週のご予定をお忘れな訳ではありませんよね?」


メイドはメガネを光らせ、眉間にシワを寄せた。


「あ、あー…。そうだった…。行くのやめようかな、王都…。」


恐る恐るメイド服の女に目を向ける少女だったが、ショートボブの髪が逆立つほどの剣幕で睨み付けている顔を見て、慌てて弁明する。


「あはは…、冗談、冗談…。なんちゃってー…、みたいな?」


「もう…。いい加減、ご自覚下さいませ。お嬢様はこの街を納めるオーエン家のご息女なのですよ?いくらお嬢様が優秀な研究者とはいえ、その道へ進むことは叶わないのです。」


「わかってるよ、ごめんってミラ。ごめんね、ケヴィン。そういう事だから次回から応診は別の担当に変わるけど、ちゃんと申し送りしとくから。」


そう言ってケヴィンの義手をそっとユリアは握った。


「そんな、とんでもございません。私は十分に助けていただきました。」


ケヴィンはユリアの手を取り、深々と頭を下げた。その姿を見たユリアは嬉しくも、寂しい感情が入り交じり、胸が苦しくなった。


後にやってきた魔装具の技士を交え、リハビリの方針を伝えると、ケヴィンは帰って行った。何度も頭を下げながら…。


「世の中、不公平だわ。お兄様は魔法学にしろ武術にしろ、成果を出せば『優秀』と讃えられるのに、私が実績を出せば皆、困った顔しかしない。みんな口を揃えて『女だてらに』って。私はきっと、生まれてくる性別を間違ったんだわ…。」


「また、そんなことをおっしゃって…。」


ミラは着替え終わったユリアの髪を梳かしながら、ため息をついた。


ユリアもつられるように、大きなため息をついて窓から青く澄んだ空を見上げる。


「あー…。つまらない。なにかワクワクするような大事件でも起きてくれないかしら…。」


「そんなこと、たとえ思っても口に出してはいけませんよ?それに、この街は鉄壁の守りを誇る『城塞都市ストゥルベルク』なのです。なにも起きたりはしません。」


「冗談ですぅ。」


ユリアもそんなことはわかっていた。だからこそ『つまらない』と言っているのだ。おもしろくないので、ほっぺたを膨らませてふてくされてみる。


鏡台の鏡越しにふてくされた顔を見て、ミラもやれやれといった表情を見せる。こんなところを旦那様にでも見られたら、ミラが叱られてしまうからだ。


気休めにミラも窓の外へ目を向ける。


窓の外には青空と、美しく整えられた庭木とその向こうには、平和でいつも通りの町並みがどこまでも続いていた。


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