【第5話 運命の再会】
幸也が成美を初めて見たのは、
まだ成美が新入社員だった数年前のことだ。
当時、取引先として商談に訪れていた幸也は、
部屋に入ってきた新人が緊張した面持ちで部長にアイスクリームを差し出し、
部長がフリーズしたあの現場に居合わせていた。
成美が焦って部屋を出て行ったあと、
固まっていた部長の顔が思わずほころび、
ピリついていた商談の空気が一気に和んだのを覚えている。
(あんなドジな新人がいるんだな)
幸也にとって、それが「なる」という存在の最初の記憶だった。
だから幸也だけは最初から、
世間が言う「完璧で頼れる成美さん」を知らない。
それから数年後。
幸也は、仕事の帰りに立ち寄った本屋で、
見覚えのあるような後ろ姿を見つけた。
最初は「……あれ?」と思っただけだった。
数年前の記憶が、ぼんやりと蘇る。
(……あのときのアイスクリームの新人か?)
成美は幸也の存在には気づかないまま、本棚を眺めている。
以前の、緊張した新人の顔しか知らなかった。
けれど今は、店員に何かを尋ねるときも、自然な笑顔を浮かべている。
(……こいつ、あんな顔するんだな)
幸也だけが、二度目の「なる」を見つけた瞬間だった。
◇
しばらくして、成美は別の棚へ移動した。
一冊の本に手を伸ばした、そのとき。
反対側からも、同じ本に手が伸びてきた。
「……あ」
「……悪い」
顔を上げた成美と、男の目が合う。
「……成美さん」
「……え?」
急に名前を呼ばれ、成美は目を瞬かせた。
(私の名前を知ってる……? この人、誰だろう……? )
(でも、覚えてないなんて言ったら失礼かな。どうしよう……)
頭の中で「誰……!?」とパニックになりながらも、
失礼にならない笑顔を作ろうとする成美。
その引きつった反応を見て、幸也はフッと息を吐いた。
「……やっぱり覚えてないな」
「え?」
「いや。なんでもない」
「えっと……」と困惑する成美に、幸也はぶっきらぼうに言った。
「昔、会ったことある」
「……そうなんですか?」
「お前、アイスコーヒー頼まれてアイスクリーム持ってきただろ」
「………………」
記憶の奥底から、あの悪夢のような新入社員時代の失態が鮮やかに蘇る。
成美の顔が一瞬で真っ赤に染まった。
「……あーーーーっ!!」
「やっと思い出したか」
頭を抱える成美を見て、
幸也はクスッと小さく笑った。
「せっかくだ。飯、付き合え」
「え?」
「俺、今パスタ食いたいんだけど、一人であの店入るの嫌なんだよ」
「……ああ、そういうことですか?」
「そういうこと。ついて来い」
「え、ちょっと……!」と戸惑っている間に、
幸也は迷いのない足取りで歩き出す。
断る隙も与えられない強引さ。
けれど、不思議と嫌な気はしない。
成美は慌ててその背中を追いかけながら、
自分の「しっかり者」の仮面が、
この男の前ではなぜか簡単に剥がれてしまうことを、まだ知る由もなかった。




