【第28話 明かされた真実と、二人の覚悟】
成美に「逃げないで」と言われた言葉を、
幸也はずっと重く受け止めていた。
約束の夜。幸也は数日ぶりに、二人のマンションの鍵を開けた。
リビングに静けさが広がる中、成美はソファーに座り、
幸也をまっすぐに見つめた。
幸也は隠し通すことを諦め、
向かい側に腰を下ろす。
「……千鶴ちゃんのこと、いつから知っていたんですか?」
静かな成美の問いに、幸也は低く答えた。
「……少し前からだ」
「何をされたんですか?」
成美の瞳から逃げないと覚悟を決めた幸也は、
いままでの出来事をひとつひとつ、丁寧に明かし始めた。
最初は、ただのお前の後輩として普通にアプローチしてきたこと。
彼女がいると伝えても「知っています」と笑い、
何度も断っても巧妙に近づいてきたこと。
そして、その目的が自分への情愛などではなく、
成美への激しい「妬み」だったと分かったこと。
『成美さんから、幸也さんを取る』
『あなたが私を選ばなくてもいい。成美さんがあなたを失えば、それでいい』
「……俺があいつの言う通りにしなければ、
成美に何をするか分からないと脅された」
エレベーターの不自然なトラブル、
差出人不明の不審な荷物が届いていたこと。
それらが単なる偶然ではなく、千鶴の影だと察していたこと。
夜中に千鶴と会っていたのは、成美と別れた振りをすることで、
成美への危害を止めさせる約束を取り付けるためだったこと。
「……だから『仕事が忙しくなる』と言った。
お前から離れる振りをするのが、
あの女のターゲットからお前を外す唯一の方法だと思ったからだ」
「なのに、『別れるんですか?』ってお前に聞かれて……
フリだなんて言えるわけねーし」
幸也は痛切な思いを吐き出すように、
拳を強く握りしめた。
「……俺が勝手に決めたことだ。
お前に言えば……お前は絶対に
『自分が目立っていたから』って自分を責めると思ったから」
◇
すべてを聞き終えた成美は、深く息を吐いた。
幸也がどれほどの地獄を一人で耐え、
自分を守ろうとしてくれていたのか。
その愛の深さは痛いほど理解できた。
理解はできた。……でも。
「幸也さん。……それが私を思ってのことだということは、理解できました」
「……ああ」
「でも……すごく、ムカつきます」
「……」
予想外の言葉に、幸也は言葉を失った。
成美は悔しそうに唇を噛み締め、涙の浮かぶ瞳で幸也を睨みつける。
「私は……幸也さんがそれほど苦しんでいることにも気づかず、
一人で抱え込ませていた自分自身にもムカつきます!」
「いや、お前は悪くない。お前がそうやって自分を責めるのが嫌だったんだ」
「私、そんなに弱いですか?」
成美の問いに、幸也はハッとして口を閉ざした。
「私……ただ守ってもらうだけの彼女ですか?」
「……いや。お前は一人でなんでもできるタイプだ。やりすぎるほどにな」
「幸也さんの方こそ! 私の知らないところで、
全部一人で抱え込もうとするタイプじゃないですか!」
「……あー、そうだな」
成美はフンと鼻を鳴らし、少し照れくさそうに視線を逸らした。
「……私の、幸也さんへの愛も、見くびられたものです」
「お前……俺の愛も、相当見くびっているだろ?」
言葉の意味に気づいた成美は、思わず吹き出してしまった。
「クスッ……もう、私たちのろけあっている場面じゃないですよ」
「そうだな」
二人の間に漂っていた重苦しい空気が、すっと溶けていく。
成美は微笑みを浮かべ、しっかりと幸也の目を見つめ返した。
「私たちは……一人でも大丈夫かもしれません。
でも、一人で全部背負わずに、二人で背負いませんか?」
幸也は深く息を吐き出し、照れくさそうに頭をかいた。
「あー……今回は、俺の完全な反省だな」
ようやく、いつもの頼もしくも愛おしい二人の顔に戻っていた。
一人で抱え込むのではなく、二人で立ち向かう。
本当の意味で互いの「横」に並んだ二人の絆がそこにはあった。




