【第22話 猫と癒しの時間】
昨夜の出来事の余韻が、
まだ胸の中に温かく残っていた。
休日、仕事を終えてソファーに腰かける幸也は、
どこか少しだけ疲れが見えていた。
そんな幸也の隣に、成美はそっと歩み寄った。
「……幸也さん」
「ん?」
「今日は、私が甘やかします」
一瞬、幸也の手が止まる。
成美を見上げ、どこか面白そうに片眉を上げた。
「……お前が?」
「はい!」
幸也はフッと口角を緩め、
ソファーの背もたれに体を預けた。
「何してくれんだ?」
真剣な顔で考え込む成美。
「えっと……」と少し迷ったあと、意を決したように言った。
「……頭、撫でます」
「それだけかよ(笑)」
思わず吹き出す幸也に、
成美は少しだけ唇を尖らせた。
「……嫌ですか?」
「いや」
幸也は少しだけ前に体を倒し、
成美の前に頭を差し出した。
「じゃあ、やってみろ」
成美は「はい」と微笑み、
幸也の髪にそっと手を伸ばした。
少し硬くて温かい幸也の髪を、よしよしと丁寧に撫でていく。
幸也は目を閉じ、成美の手の平の心地よさを静かに味わっていた。
しばらくして、幸也がゆっくりと目を開けた。
「……俺は、お前に触れられるより、お前に触れたい」
「え?」
「だってお前、猫みたいで落ち着くから」
成美はぽかんと目を見開いた。
「猫……?」
「何だよ」
「……猫って言われたの、初めてです」
「そうか?」
幸也はソファーに深く座り直すと、
自分の膝の上をぽんぽんと優しく叩いた。
「ほら」自分の足元を指差す幸也。
成美は一瞬驚いたものの、
幸也の瞳にある圧倒的な優しさと温もりを感じ取り、
思わずクスッと笑ってしまった。
「……にゃー」
お茶目にそう言うと、
成美は迷いなく幸也の膝の上にごろんと頭を乗せて寝ころんだ。
幸也は満足そうに目を細め、
成美の髪に大きな手を滑らせる。
最初は頭。それから、柔らかい頬、流れる髪、そして背中へ……。
愛おしそうにゆっくりと巡る幸也の手のひら。
「触れることで安心する」幸也の手つきと、
「触れられることで安心する」成美の体温が、
静かな部屋の中で優しく溶け合っていく。
成美は幸也の膝に頬を寄せ、上目遣いに幸也を見つめた。
「……幸也さん」
「ん?」
「癒やされました?」
幸也は少しだけ考えるように天井を仰いだあと、
優しく目を細めた。
「ああ。かなり」
自分の「甘やかし」がちゃんと幸也に届いたことが嬉しくて、
成美の顔がパッと華やぐ。
すると、幸也が成美の額にそっと触れながら、静かに尋ねた。
「お前は?」
成美は幸也の手に自分の手を重ね、心からの笑顔を浮かべた。
「……私も、癒やされました」
「ならいい」
幸也の膝の上で、成美は安心したように目を閉じた。
その頭を撫でる幸也の手も、いつまでも止まることはなかった。




