【第21話 独占欲】
成美の会社での出来事を、
家で聞くのが幸也の日課だった。
仕事の報告や同僚との会話を嬉しそうに話す成美の口から、
時折出てくる「三木さん」という名前。
仕事ができて、成美の働きを正当に評価し、
気遣いもできる男。
成美自身も「いい人」と信頼しているようだった。
そんなある日 会社の飲み会があるという。
幸也の中で、静かに警戒の鐘が鳴っていた。
◇
成美は終業後いつものメンバーと
飲み会場所の居酒屋へと向かった。
そこには、三木がすでに来ていた。
「あー成美さん。こっち空いてますよ~」と声をかけてきた。
成美は「お疲れ様です。」と言って三木の隣に座った。
「成美さんって、本当に仕事できるよね」
「そんなことないですよ」
「いや、本当に。俺、成美さんと仕事すると楽しい」
「私も三木さんと仕事しやすいです」
と成美は仕事での会話をしていたつもりだった。
ところが三木はその言葉を聞いて
少し照れたように嬉しそうな顔をしていた。
一次会が終わり、
「じゃあ二次会行く人ー?」という声が聞こえる。
成美は、「私は帰ります」と言って店を出た。
すると和やかな空気の中で三木が成美を追いかけてきた。
「成美さん、ちょっと待って」
「はい?」
「……二人で、もう少し飲まない?」
成美は少し戸惑い、
「え? でも……」と口ごもった。
「仕事の話、もう少ししたいんだけど」
「あ……仕事の話ですか。それなら……」
断りきれず頷きかけたその時だった。
「――なる」
夜の空気を凍らせるような低い声が響いた。
振り返ると、そこにはコートを羽織った幸也が立っていた。
息を少し乱し、
恐ろしいほど冷ややかな瞳で見つめている。
「……幸也さん!?」
驚く成美の横で、三木が
「……彼氏さんですか?」と問いかける。
成美が答えるより早く、幸也が言い切った。
「そうだ」
大股で歩み寄り、成美の前に立つ。 三木が
「すみません、成美さんとは少し話をしていただけで――」と言いかけると、
幸也はぶっきらぼうに遮った。
「知ってる」
「え?」
「なるから聞いてる」
幸也はずっと知っていた。
三木が成美を高く評価していることを。
だからこそ、「二人で飲まない?」と
踏み込んできた今、幸也の我慢は限界を迎えていた。
「なる」
「はい……」
「こっち来い」
幸也が伸ばした手が、成美の手首を掴む。
三木が慌てて
「成美さん、俺は本当に――」と
手を伸ばそうとした瞬間。
幸也は成美を自分の胸元へ強く引き寄せ、
背中に腕を回して抱き寄せた。
「悪いな。こいつ、俺のだから」
と言ってその場を後にした。
◇
幸也の車内。
助手席に座る成美は、ハンドルを固く握りしめたまま
無言で前を見つめる幸也の横顔を伺っていた。
「……幸也さん、怒ってます?」
「怒ってねぇ」
「でも……もしかして…妬いてくれてたりします?」
「……悪いかよ」
開き直るような幸也の答えに、
成美は言葉を詰まらせた。
幸也はハァと重い息を吐き出すと、
ガシガシと自分の髪を掻き揚げ、苦々しい表情で成美を見た。
「お前があいつのこと何とも思ってねぇのも分かってる」
「じゃあ……」
「分かってても嫌なんだよ。
……俺の知らないところで、他の男にお前を欲しがられるのが」
ストレートすぎる独占欲に、成美の胸がドキンと跳ね上がる。
「……私、幸也さんのところに帰るつもりでしたよ?」
「知ってるよ……!」
「じゃあ……」
「知ってても、迎えに行くんだよ! ……もうこれ以上、言わせるな!」
自分の格好悪さを吐露するように叫んだ幸也の顔は、耳まで赤く染まっていた。




