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【第19話 二人だけの場所】

いつもと違うルートを走り抜けた車が停まったのは、

すっかり夜の静けさに包まれた高台だった。


車を降りると、そこは街の喧騒が嘘のように

静まり返っていた。

遠くでゆらゆらと揺れる街灯の明かりと、

心地よい夜風だけが二人を包み込んでいる。


「……ここ?」


成美が不思議そうに周囲を見渡すと、

幸也は遠くの街明かりを見つめた。


「昔、俺が住んでた街だ」

「……何にもないですね」

「だからいいんだよ」

成美が首をかしげると、幸也はフッと口元を緩めた。


「誰も来ねぇし、静かだろ」

二人で並んで、静かな夜景をしばらく見つめる。

どこまでも澄んだ空気に、隣にいる幸也の体温が心地いい。


「仕事も、人付き合いも、

 何も考えたくねぇ時に来てた。

 ……ここ、俺の場所だったんだ」


幸也の口から漏れ出た過去の欠片に、

成美はハッとして振り返った。

弱みを見せず、いつだって完璧で強い幸也が、

かつて一人で息を抜きに逃げ込んできた場所。


「……『だった』?」

成美が呟くと、幸也は静かに成美の手を取った。

指先を絡め、包み込むようにギュッと握り直す。


「今は、お前を連れてくる場所だな」


一人だけの避難場所だった所に、

私を連れて来てくれた。

その言葉の重みに、成美の胸の奥がじんわりと温かくなる

。

すると、幸也はポケットから小さな紙袋を取り出し、

成美の手のひらにぽんと乗せた。


「これ」

「え……?」


開けてみると、そこにあったのは、

昼間ショッピングモールで成美が

「可愛いなぁ」とじっと見つめていたあのピアスだった。


「これ……! いつの間に買ったんですか!?」


目を丸くして驚く成美に、幸也は

「お前、見てただろ」と呟く。


驚きと感動で言葉を失う成美に、

幸也がゆっくりと手を伸ばしてきた。


温かい大きな指先が、成美の耳たぶを優しく撫でる。

耳元に届く低い声が、夜風に溶けるように響いた。


「……ちゃんと、つけとけよ」

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