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【第1話 しっかり娘】

静寂の中に、カチャカチャと響く皿の音と、香ばしいソースの匂い。

そこが、幼い成美(なるみ)にとっての最初の世界だった。


両親が営む小さなレストラン。

二人とも働き者で、朝から晩まで店にいる。


幼い頃、レストランは成美にとって遊び場だった。

厨房から聞こえる音。食器の音。お客さんの笑い声。

父と母が忙しそうに動き回る姿。成美はその中を走り回っている。


「なる、危ないぞー」

「はーい!」

父に言われて笑う。


母に、

「なる、これ持っていってくれる?」と言われれば、

「いいよー!」と嬉しそうに運ぶ。


その頃はまだ、手伝いというより遊びだった。

大好きなお父さんとお母さんがいる場所。


それが、成美にとってのレストランだった。

でも、成美は少しずつ大きくなる。

小学生になる頃には、皿を洗えるようになる。


注文を取れるようになる。料理を運べるようになる。

「なるちゃん、これお願い」お客さんからも顔を覚えられる。

父と母は忙しい。


でも、成美が手伝えば二人が少し楽になる。

だから、成美は嬉しかった。


「私も役に立てる」

それが、成美にとって小さな誇りになっていく。


そして六歳下の弟。

弟が生まれたとき、成美はまだ小さい。


でも、弟が泣けば、「大丈夫、大丈夫」とあやす。

両親が忙しければ、

「お姉ちゃんがいるから大丈夫だよ」と弟に言う。


だからある夜。両親が帰って来られない日。

成美と弟だけで家で夕食を食べる。


「お姉ちゃん、お母さんまだ?」

「うん。お仕事終わってないんだって」

「いつ帰ってくる?」

「……たぶん、遅いかな」なるは笑って、

「大丈夫だよ。お姉ちゃんいるから」と言う。


本当は、成美だってお母さんに帰ってきてほしい。

本当は、一緒にご飯を食べたい。

本当は、「お母さん、早く帰ってきて」って言いたい。

でも、弟がいる。だから言わない。


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