【第17話 愛を返す日】
その朝、先に起きた成美は、
ベッドから出てこない幸也に違和感を覚えた。
いつもなら成美より早く起きているか、
成美が声をかければすぐに目を覚ますはずの幸也が、
荒い息を吐きながらベッドの中でじっと丸まっている。
「……幸也さん?」
驚いて駆け寄り、額にそっと手をかざす。
熱い。かなりの高熱だった。
あの鉄人のような幸也が、
珍しく風邪で倒れていたのだ。
「……なる……水……」
掠れた声で呟く幸也。
「すぐ持ってきますね。待っていてください」
成美は手際よく水と冷えピタ、
解熱剤を用意し、幸也に水分を摂らせて薬を飲ませた。
汗を拭き、枕元にスポーツドリンクを置く。
薬が効いてきたのか、幸也はうつらうつらと眠りについた。
成美はベッドの脇に椅子を引き寄せて座り、
眠る幸也の顔をじっと見つめた。
眉間に少しだけシワを寄せて眠る姿は、
いつも会社や家で見せる圧倒的な男らしさとは違って、
どこか幼く、頼りなく見える。
愛おしさが胸の奥から溢れ出し、
成美はそっと手を伸ばすと、
幸也の髪に指を通し、頭を優しく撫で始めた。
よし、よし、とリズム良く撫でる手。
幸也はそれが心地よかったのか、
気持ちよさそうに少しだけ表情を緩めた。
成美がそっと手を離そうとすると、
幸也の大きな手が力なく成美の袖を掴んだ。
「……もうちょっと」
目を閉じたまま、
掠れた声で小さくおねだりするように呟く幸也。
(っ……可愛い……!)
普段なら絶対に言わないであろう幸也の甘えた一言に、
成美の胸がキュンと激しく鳴った。
あまりの愛おしさに耐えきれなくなった成美は、
吸い寄せられるように顔を近づけると、
幸也の熱い頬に、小さく口づけをした。
チュッ、
と静かな部屋に小さな音が響く。
すると、閉じられていた幸也の目が、
ゆっくりと開いた。
熱で少し虚ろな瞳が、
間近にある成美の顔を捉える。
幸也はちょっとだけ驚いたように目を見開いたあと、
フッと力なく口角を上げた。
「……なる、今のは反則だろ……」
頬を赤くしながら、
幸也は掠れた声で不敵に笑う。
成美は自分からしたことなのに
恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも、
逃げずに優しく微笑み返した。
「いいんです。患者さんは大人しく寝てください」
成美はもう一度、幸也の頭を優しく、
ゆっくりと撫で始めた。
幸也は安心したように大きく息を吐くと、
成美の手の温もりに包まれながら、今度こそ深い眠りへと落ちていった。
◇
夕方。
じっくり汗をかいて眠ったおかげで、
幸也の熱はすっかり下がっていた。
体を起こした幸也に、成美が温かいお粥を運んでくる。
「熱、下がって良かったです……お腹、空いてますか?」
甲斐甲斐しく世話を焼く成美を、
幸也はベッドの上からじっと見つめていた。
「なる」
「はい?」
「……お前に看病されるのも、悪くねぇな」
ぶっきらぼうに投げかけられた、
幸也なりの最大のお礼。
成美は嬉しそうに目を細め、
「ふふ、またいつでも倒れていいですよ」と冗談めかして笑った。
「馬鹿言え。次は俺がお前を甘やかす番だ」




