【第13話 明かりの灯る場所へ】
約束通り、休日に持ち帰ってしまった仕事を持って
幸也のマンションへ通うようになってから、数ヶ月が経っていた。
午前中に二人で集中して仕事を片付け、
午後は二人でソファーに並んで、
特に何をするでもなくネット配信を観たり、
淹れたてのコーヒーを飲んだりしてまったりと過ごす。
成美にとって、その時間は、
人生で初めて心から「息ができる」と思える、
かけがえのない時間になっていた。
けれど、楽しい時間のあとには、
必ず「帰り」がやってくる。
送ってもらった自分のアパート。
鍵を差し込んでドアを開けると、
静まり返った部屋の冷たい空気が押し寄せてくる。
(……暗いな)
(……冷たいな)
明かりのついていない自分の部屋にぽつんと立った瞬間、
胸の奥がキュッと締め付けられるような寂しさに襲われる。
そんな夜を、成美はもう何度も何度も繰り返していた。
◇
そして、ある日曜日の夕方。
幸也のマンションの玄関前。
靴を履き終えた成美は、
ドアノブに手をかけたままピタリと動きを止めていた。
いつもなら「今日もありがとう」と
無理に笑顔を作って帰るはずの成美の表情が、
あからさまに暗く沈んでいる。
背後からそれを見ていた幸也は、
何も言わずに歩み寄ると、
後ろから成美の体をすっぽりと腕の中に包み込んだ。
ポン、と頭の上に顎を乗せられ、
温かい背中に抱きすくめられる。
「なんだ?」
耳元で響く、低く優しい声。
成美は幸也の腕の中でそっと目を閉じ、
今まで自分の心の中に溜め込んできた
「冷たさ」と「寂しさ」をじっと噛みしめた。
成美は小さく息を吐き出すと、
ぽつりと本音を漏らした。
「……私、幸也さんの家にいる方が……落ち着く」
成美の言葉を聞いた幸也は、驚きもせず、
抱きしめる腕に少しだけ力を込めた。
そして、前を向いたまま、ごく当たり前のことのように言った。
「なら、今日はお前のアパートに荷物取りに行くか」




