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【第11話 触れられて、芽生える本音】

お疲れ様会の翌日。 コラボ期間が終わり、

成美はいつもの自分のオフィスで、いつものデスクに向かっていた。


けれど、何かが違う。

仕事の手を動かしながらも、

胸の奥にぽっかりと小さな穴が開いたような感覚があった。


(……何だろう、これ)

以前の成美なら、この違和感を無視して仕事に没頭していただろう。


だが、昨夜の感情を自覚した成美は、

自分の胸の奥をそっと探ってみた。


(……寂しいのかな、私)

成美は少しだけ迷い、

手元のスマホを取って幸也に電話をかけた。


『どうした』

画面越しに聞こえる、いつもの低い声。


「……あの……」

『何だ』

成美は心の中で自分に問いかける。


(言っていいのかな……? 幸也さんになら、言ってもいいよね……?)

意を決して、成美は小さな声を乗せた。


「……ちょっと、寂しいです」言えた。


引き止めたり困らせたりするんじゃないかと怖れて、

ずっと誰にも言えなかった言葉。


電話の奥で、幸也がフッと息を吐く気配がした。


『そうか』


大げさに驚くことも、鬱陶しがることもなく、

幸也はごく当たり前のように言った。


『なら、会うか』

「え……?」


成美の時が止まる。

「寂しい」と口にすることは、誰かに迷惑をかけることだと思っていた。


けれど、幸也は違った。

「寂しい」と言えば、

「会う」と言ってくれる。


成美にとって、それは人生で初めての体験だった。


◇

仕事を早めに切り上げ、指定された場所で幸也と合流した。


「こんにちは」と控えめに挨拶をした。

幸也が片眉を上げる。


「何だよ、その顔」

「え?」

「嬉しそうじゃねぇか」

「……っ」


誤魔化そうとしても、

緩んだ目元とほころんだ口元は隠しきれていなかった。


そんな成美の様子をじっと見つめていた幸也は、

無言のまま、すっと両腕を広げた。


「おいで」


成美が一瞬だけためらうと、

幸也は拒む隙を与えないように、

成美の身体を引き寄せて力強く抱きしめた。


ぽん、と幸也の広い胸の中に包まれる。

腕の強さ、身体の厚み、衣類の匂い。


その温もりが全身に伝わった瞬間、

成美の肩から、ふぅっと力が抜けていった。


幸也の背中にそっと手を回しながら、

成美は胸に顔を埋めたまま呟いた。


「……嬉しいです」

素直な一言が、するりと口から溢れ出る。


(……やっぱりな)


成美を抱きしめたまま、

幸也の目が静かに細くなった。


頭に手を乗せた時もそうだった。

ハグをしてやると、

この女は強張っていた鎧を脱ぎ捨てて、

嘘みたいに素直になる。


◇

二人で街を歩き、

美味しいものを食べ、

穏やかな時間を過ごした。


楽しい時間はあっという間に過ぎ、

幸也は成美を駅まで送ってくれた。

夕闇が深まる中、幸也が成美を見下ろした。


「じゃあな」

「……はい」


そう答えたものの、

成美の足は地面に張り付いたように動かなかった。

幸也が立ち止まり、振り返る。


「どうした?」


「……」答えられない。


「またね」と笑って背中を向けるのが

「いい彼女」なのだと、昔の癖が引き止めようとする。


けれど幸也は、その躊躇いの意味をもう知っていた。


「……まだ帰りたくねぇのか?」

成美は小さく首を横に振った。


「……帰りたくない、わけじゃ……」


「じゃあ何だ」


素直になれず、困ったように俯く成美。

幸也はそっと成美を抱き寄せた。


耳元で幸也の鼓動を感じながら、

成美はついに降参したように呟いた。


「……もっと、一緒にいたいです」


抱きしめられた状態で、ようやく出せた本当の本音。


腕の中で小さく身を縮める成美の頭に手を置き、

幸也は静かに目を細めた。


さっきまで「帰りたくないわけじゃない」

なんて言葉で本心を隠そうとしていたのに。


こうして腕の中に閉じ込めてやると、

ちゃんと「もっと一緒にいたい」と言える。


(……なるほどな)

幸也は言葉には出さず、ただ胸の中で呟いた。


「……そうか」

幸也はそれだけ言うと、成美を抱き寄せて唇を重ねた。


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