4-3、はないちもんめ③
最初は、太郎と英恵、ももとゆうやがペアになって、手をつないで掛け合いをする。
横並びになって手をつなぐと、妙な気恥しさがあった。
太郎は英恵の方を見ないで、前だけに集中する。心なしか、英恵の手が熱い。
「勝ってうれしいはないちもんめ」
ゆうやが嬉しそうに前に出て、足を蹴り上げた。
「負けて悔しいはないちもんめ」
英恵も負けじと足を蹴り上げた。太郎はといえば、控えめに前に進むだけだった。
「ほら、太郎。楽しまないと。子供って敏感だから、村の空気とか、本当はわかってて明るくふるまうんだから」
「あ、うん。だけど俺、英恵みたいに器用じゃないんだよなあ」
「もう。……私だって、兄弟いないから上手くはないよ。ももが羨ましい」
その声音は、羨望よりは、恨みがましさが滲んでいるように太郎は感じる。
しかしごつ、と英恵に肘でつつかれて、太郎は声を大にしてはないちもんめを歌う。
勝って嬉しい花いちもんめ、負けて悔しい花いちもんめ
隣のおばさんちょっと来ておくれ
鬼がいるから行かれない
お布団かぶってちょっと来ておくれ
お布団ビリビリ行かれない
あの子が欲しい、あのこじゃわからん
この子が欲しい、このこじゃわからん
相談しましょ、そうしましょ
太郎と英恵は身を寄せ合う。
「どっちもらう?」
「どっちって……ここはゆうやだろ」
「ええ、でも私、ももの方がじゃんけん弱そうだと思うの」
「そういう問題!? ここはさ、子供の顔たてなきゃ。欲しがられなかった、なんて知ったら、ゆうやくん泣くかも」
ひそひそと、話す。ももとゆうやも楽しそうにこちらを見て、指さしああだこうだと頭を悩ませているようだった。
ももの顔は、困惑こそあるものの、うれしそうだ。
ももには家族がいないと、ももは言っていた。だったら、唯一の肉親であるカナやゆうやに家族を求めてしまうのは、致し方ないことだった。
ぼんやりとする太郎の頬を、英恵がつねった。
「集中して。で、どうしよう。ゆうやもらっとく?」
太郎は英恵に謝り、はないちもんめに戻っていく。
そういえば、次の呪いははないちもんめの番だったな、なんて思いが浮かんだが、かき消す。今はゆうやに集中しないと。
「そうだ、無難にゆうやくんだろ」
話し合ううちに、ももとゆうやが声をそろえて「決ーまった!」
と、横並びになって、太郎と英恵の方を向き直った。
英恵は太郎にうなずいて、ふたりも横並びに直って、ゆうやとももに向き合う。
「せーの!」
先導を切ったのはゆうやである。
前に歩きながら、わらべ歌を歌う。
「はなねえが欲しい!」
予想内だった。ゆうやはももといい、お姉さんに憧れがあるようだった。
太郎と英恵は声を合わせて、
「ゆうやが欲しい」
ここで、ゆうやと英恵が前に出て、じゃんけんぽん、で手を出した。
英恵がパーで、ゆうやがチョキだ。
やめてほしかった。太郎はここにきて、英恵を失った。まるでそれは、このあと本当に英恵が呪いにとられる暗示のようにも思えて、太郎の胸が不安に染まる。
「もーらった!」
「マジかよ、英恵」
「ごめん、太郎。私は今この時から、ゆうやの組になりました!」
ノリノリで、ゆうやの右側に陣取る英恵。太郎の不安など素知らぬ顔である。
太郎はぱん、と自分の両頬を叩く。大丈夫、大丈夫。まだ間に合う。次の呪いははないちもんめ。
そして、太郎の関係者で起こるのなら、今日はこのあと、宿にこもればいい。
ゆうやにはももがいるし、英恵には太郎がいる。
それにしたって。
太郎は頭を抱える。次に太郎がじゃんけんで負けたら、はないちもんめはあっさりと終わってしまう。
ここは大人の意地だ。ゆうやを落胆させないためにも、太郎はなんとしてもじゃんけんに勝つ必要があった。
だというのに。
チョキの手を見つめて崩れ落ちる太郎と、グーの手で跳ねまわるゆうや。
ゆうやはどうやら、勝負運が強いらしい。
「あーあ。はないちもんめ、終わっちゃったじゃん」
「じゃあ、もう一回! もう一回だ、ゆうやくん!」
むきになって、太郎がじゃんけんの構えをとる。
ゆうやは思いのほか乗り気で、
「じゃあ、グーとパーで別れま、しょ!」
結局、太郎はゆうやに五連敗し、一度もゆうやから一番目に「欲しい」と言われることはなかった。
日も暮れはじめ、そろそろももが家に帰ろうというその時、向こう側から鬼の形相で走りくる女性の姿が見えた。
女性、ではない。見覚えがある。先ほど会ったばかりの、カナの姿だった。
中年太りの身体で必死に走りながら、ゆうやの名前を呼んでいる。
「ゆうや! なんでももちゃんといるの!?」
「だって、ももねえは――」
「だってじゃない!」
しかし、ゆうやの声は遮られた。
中休みになって、時間を持て余したカナが一時帰宅したのである。
カナはももを見るなり、その頬を思いきり叩いた。そうして、ゆうやを抱きしめて、ももから隠した。まるで、「うちの子を盗らないで」と言いたげに。
「来ないでって何度も言っているのに……」
「ママ、違うの。俺がももねえを呼んだんだよ」
「ゆうや!? ももちゃんはお姉ちゃんじゃないのよ? 知らない人を家に上げちゃダメってあれほど」
「じゃあ、太郎さんとはなねえはいいの?」
ぐっと口を結んで、カナがもう一度ももをにらんだ。
ももは縮こまって、その場に膝をつき、土下座した。地面に膝をつく。ミニスカートだから、直に膝が泥に汚れた。
舗装されていない道路には、はないちもんめの足跡が残っている。
「も、もうこの家には来ません! だけど、ゆうやくんには会わせて……」
「ダメよ! あんたの家はもう『終わった』けれど、私の家はまだなのよ。私の子供を盗らないでちょうだい!? あんたがいたから、あんたの妹は生贄になったんでしょう!?」
つまり、ももには父親のほかに、妹という肉親がいたらしかった。その肉親は、いつぞやかにあの崖から生贄として落とされたのだろう。
父親はそれを気に病んで、ももとは別の家族を持った。と、カナが続けた。
「カナさん、私、悪気はなくて」
「悪気はなくても、神に食われた家族が、私に近寄らないで!」
まるで、自分の子供は生贄にささげてなるものか、と抗っているようにも見えた。
ももの家では、妹を喜んで差し出したのに。いや、ももだけではない、かいともまた、進んであの崖から飛び降りた。お役に立つのだと言いながら。とおりゃんせを口ずさみながら。
カナがゆうやの手を引いて、玄関を開け中に入る。ゆうやが名残惜しそうにももを振り返り、「ももねえ」と手を伸ばした。
玄関は開け放たれたまま、家屋内にゆうやとカナ、敷地の外に、太郎と英恵。
門扉の敷居をまたぐように、ももが立っている。
まるで、あの世とこの世の境にいるようだと太郎は思った。
ももはやがて、敷居をまたいで屋敷を出る。
カナが泣きじゃくるゆうやを家の奥に押しやって、ぴしゃりと玄関を締めていった。




