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供犠の村  作者: 空岡立夏
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3-4、かごめかごめ④

 来た道を引き返す。太郎は地面ばかり見ていて、英恵をちっとも見てくれない。

 それが英恵には気に入らなかった。


「太郎」

「……」

「太郎!」

「あ、うん。なんだっけ」


 崖の下から上を見たとき、ワシの巣が見えた。あそこは出張っていて、その上――崖の半分から上の部分がどうなっているのかは、見えない。

 今一度崖を振り返って見てみる。


「崖、あんなに凸凹なんだな」


 遠目に見ると、だいぶ突出していたりへこんでいたりする。特に、ワシの巣の上には、なにか空洞があるようにも見えた。

 双眼鏡か――


「あ、スマホ!」


 太郎は、ポケットにスマホがあることを思い出す。そのままカメラのズーム機能であの崖の詳細を見る。見たところで死んだかいとは生き返らない。だが太郎は、その崖を、この目で確かめたかったのだ。


「ワシの巣……に、あとはでっぱりとへこみ……はあ、なにもない、よな。そりゃあ」


 その時、強い風が吹き抜ける。崖のへこみが、はたりと動く。なにか、生き物でもいるのか、崖の一部に影が見えた。

 これ以上はズームできない。太郎は目を凝らす。しかし、


「きゃっ……!?」


 英恵が躓き、体勢を崩す。太郎は慌てて英恵の体を支えた。スマホを持ったまま。


「ごめんなさい、ありがとう」


 きっと英恵は、さっきの弥彦にショックを受けて、足元が覚束無いのだろう。

 スマホをポケットに戻し、英恵は太郎の肩を撫でた。英恵が太郎に体を預ける。


「かいとのことは……私も残念に思うけれど」

「……でも、あの崖。あんなに凸凹していたら、落ちる間にかいとも原形とどめないよな」


 弥彦のことを思い出す。弥彦は、バラバラになったかいとの肉片を、服に包んで持ち帰るつもりだったのだろうか。吐き気がするも、もう死体にも慣れて、戻すことはなかった。

 とぼとぼと歩く。英恵が、小さく太郎に答えた。


「そうだね。とおり崖は、昔からああなの。飛び降りるときに岩肌に人がぶつかるから、削れて平らではなくなった」


 あの崖には、願い事をするときささげものを落とすのだと、忠人から聞いたのは記憶に新しい。

 二人は村を歩く。


 かごめ かごめ

 かごの中のとりは

 いついつ出やる

 夜あけのばんに

 つるとかめがすべった

 うしろのしょうめんだーれ


 昨日まではだるまさんが転んだをしていた子供たちが、今日はかごめかごめを歌い、遊んでいる。太郎と英恵がいなくなってからしばらくたったというのに、ずっと、ずううっとかごめかごめで遊んでいたようだった。

 輪になって、真ん中の子供は目をふさいでしゃがんでいる。

 やがて歌がやむと、「だーれだ」、と籠の中の鳥に問う。


「のっちゃん!」

「わー、ばれた! なんでわかるの」

「そりゃあ、あっちゃんの声だもん、わかるよ」


 この村には、そういえば女が少ない。太郎が見た限り、ふたりだけだ。太郎が会ったなかではかいとの母親とあとひとりだけだった。

 今朝、英恵をせっかんしたのはほとんどが男だった。女は、折檻するところを見はしても、加わることはしなかった。

 権利がないのだ。

 つまり、女は大人になっても男の下にしかいられず、だけれど、子供を言葉で虐げることだけは許される。

 英恵がこの村を出たがるのは、やはりそういった扱いに辟易しているからなのだろうか。


「英恵。この村って、男子偏重なの?」

「え?」


 英恵の目が、一瞬太郎からそらされた。なにか、なにかを隠すように。

 視線の先に、井戸が見える。ももの家から遠く、崖から十分ほど、神社の裏手の土地だった。

 そういえば、この村の川の水は煮沸せずとも飲めると、忠人が言っていた。ならばこの井戸も、現役なのだろう。

 思い起こせば、今日、様々な場所を歩く中で、異様に井戸に出くわしていた。

 太郎の足がそれとなく井戸に向かう。


「太郎?」

「あ、いや……井戸って珍しいなって」


 しかし、間近に来ると、その井戸の中には梯子がかけてあった。

 よくよく見れば、井戸のつくりは『新しい』。今も使われている井戸のようだ。


「梯子?」

「太郎、危ないよ。また村の人に見つかったら」

「でも……」


 梯子を降ろして、なにに使うのだろうか。

 水が入っているのなら、つるべと桶が傍にあるはずだ。けれどそれもない。ただ、井戸の中に梯子がかけてある。

 傍に有った小石を、井戸の底に向かって投げる。耳をすませば、水の音はしない。

 ごと、と石が地面に接地する音が聞こえただけだった。


「下に、なにかある?」


 梯子は新しく、日常的に使われている形跡があった。そもそも、日常で使わなければ、梯子を立てかけたままにしておくはずがない。

 直近で、誰かがこの梯子を使った、と考える方が自然だった。

 太郎は迷うことなく、井戸の中に入っていく。


「ま、待って太郎、危ないって」

「俺一人で行くから平気。スマホも、ライト機能は残っているし」

「そういう問題じゃない! ああもう、私も行くから、待ってて!」


 英恵はスカートを捲り上げる。今日は太郎にハーフパンツを借りていないから、はしたないと言われたらそれまでだ。だけれど、英恵には、太郎を見守る義務があった。

 だから、足をあらわにするようにスカートの裾を捲り上げてウエストゴムに挟んで、太郎に続いて井戸の中に降りた。

 先に井戸に降り立って、太郎はあたりを見渡した。

 少し時間をおいて、英恵も井戸の底に足をつける。そのまま、急いでスカートを下におろすそのタイミングで、太郎がスマホのライトをつけた。

 水の気配はなく、太郎はスマホのライトで辺りを照らす。


「あれ、向こうに道がつながってる」


 井戸のわきに、道が続いている。その先は、どこにつながっているのかもわからない。わからないが、この井戸はなにか、なにかを太郎に訴える。

 井戸から続く謎の道。そんなもの、この先になにか『隠したいもの』があると言っているようなものだった。


「太郎、行っちゃだめだよ。大人たちに怒られる」

「英恵は、この地下のこと、知ってたの?」

「し、知ってたら教えていたよ。でもこれ、どこにつながってるのやら」


 英恵はそっと太郎の手を握る。太郎も、それを振りほどくことはしなかった。太郎だって、この地下通路が、怖い。

 また、呪いなんてものが現れたら、ここには逃げ場がないのだから。

 だが、この地下の先に、呪いの手掛かりがあるとしたら。

 そう考えると、進まないという選択肢はなかった。



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