第58話
二〇二七年七月。
夏の澄み切った青空の下、俺とリサさんの結婚式が執り行われた。
チャペルの扉が開き、柔らかな光の中で純白のウエディングドレスに身を包んだリサさんが現れた時、俺はその息をのむほどの美しさに胸が詰まった。参列者席には、デレデレの笑顔で帰蝶ちゃんを抱っこする内山田課長、隣で嬉しそうに微笑む佐藤とみきさん、大家さん、そして宮崎から駆けつけてくれた俺の母親が、温かな涙を浮かべて拍手を送ってくれていた。
そして、挙式のクライマックス――結婚指輪を運ぶ『リングドッグ』の大役を任されたのは、やはり我が家の「二人と三匹」の相棒たちだった。
首元に可愛らしい蝶ネクタイとリングピローを装着した、大福、アズサ、そしてちまきちゃん。
「みんな、頼んだぞ……!」
バージンロードの先で俺とリサさんが待つ中、扉が開かれ、三匹の入場がアナウンスされた。
誰もが息を呑み、感動的な一幕を期待した――次の瞬間だった。
「フゴッ!? フゴフゴフゴォォォッ!!」
披露宴会場の隅に設置されていた特製ウエディングケーキの甘い香りを鼻腔に捕らえた瞬間、大福のギョロ目がギラリと怪しく光った。
大福は指輪のことなど一瞬で脳内メモリから消去し、「お肉! ケーキ! 我に食わせよ!」と言わんばかりの猛烈なダッシュで、バージンロードを脱走してケーキの台座へ突進して行ったのだ。
「あはははは! 大福くん、そっちじゃないよ〜!」
「やっぱりやったか、大福!!」
会場全体が大爆笑の渦に包まれる。期待を一切裏切らない我が家の食いしん坊怪獣の暴走に、俺とリサさんも思わずお腹を抱えて笑ってしまった。
だが、残された二匹の「プロ意識」は完璧だった。
『ワンッ!』
呆れ顔で大福を一瞥した黒パグのアズサとチワワのちまきちゃんは、互いに顔を見合わせると、お上品に歩幅を合わせてバージンロードをまっすぐに進んできた。
そして、俺たちの足元へ到達すると、誇らしげに「フゴッ」と胸を張り、大切な指輪を届けてくれたのだった。
「ありがとう、アズサ、ちまきちゃん。……大福も、最高のアトラクションをありがとうな」
指輪を交換し、誓いのキスを交わす二人。
ケーキの周りを警備員(式場スタッフ)に優しく制止され、「フゴォ……」と悔しそうに鼻息を吐いている大福を抱き上げると、会場は万雷の拍手と祝福の声に包まれた。
完璧すぎない、だけどどこまでも温かくて可笑しい、俺たちだけの最高の結婚式。
二人の手と、愛しい三匹の肉球によって結ばれた絆は、永遠の光の中に溶け込んでいったのだった。




