第55話
二〇二七年六月。
あの大熱狂の『広島パグミーティング』から、早いもので一年という歳月が経過していた。
俺とリサさんは、お互いのアパートが隣同士という最高の距離感にあったため、無理に同棲を始めることもなく、二人と三匹の穏やかな日常を少しずつ重ねてきた。
そして――俺は腹を括り、リサさんにプロポーズをした。
「俺と、結婚してください」
みなと公園の海風の中で俺が差し出した指輪に、リサさんはぽろぽろと嬉し涙をこぼしながら、「はい……! 喜んで!」と答えてくれた。
そこからは、まさにトントン拍子だった。リサさんのご両親への挨拶も温かく迎えられ、結婚への準備は順調に進んでいった。
だが、最後に残された最大の難関――それが、俺の九州の実家であった。
俺はリサさんを連れ、故郷である宮崎の実家へと向かっていた。
かつて連休のたびに思い出し、ため息を吐いていた自分のルーツ。母親が極度の犬嫌いであることや、どこかすれ違ってしまっていた家族関係。あの場所に、愛するリサさんと、我が家の大福、アズサを連れて足を踏み入れるのだ。
(受け入れてもらえるだろうか……。もし、追い返されたら……)
宮崎の眩しい日差しの中、レンタカーのハンドルを握る俺の手に、じっとりと汗が滲む。胸の奥のインフラが、激しい緊張で警報を鳴らしていた。
そんな俺の焦りを察したのか、助手席のリサさんが、そっと俺の手の上に自分の手を重ねてくれた。
「大丈夫ですよ、長政さん。私たちがついていますから」
柔らかな笑顔と、その温もり。後部座席を見ると、いつもはバタバタと騒がしい大福とアズサも、どこか緊張した面持ちで「お利口モード」を保ちながら、じっと俺たちを見つめていた。
実家の前に車を止め、エンジンをきる。
一年前までは一人で孤独に怯えていた俺は今、世界で一番大切な存在とともに、自分の過去と家族に向き合うためのドアを開けようとしていた。




